心配ごと
島田十万(第9号で「『仕事辞めます』高野勝」を執筆)
「勉強会終って一安心しました。独りでぜんぶやるのはやっぱシンドかったです、エヘヘヘ」
笑二さん初、単独の勉強会が終わりました。
大入りでしたね?
「すごかったですね、エヘヘヘ。なんであんなに来たんですかね。あれすごいですねえ、自分ながら。ウフフフ」
まるで人ごとみたいに言いましたが、予想以上の結果に満足しているのが伝わってきました。
勉強会の当日、開演の20分くらい前にボクが友人を連れて会場に入ると、だいたい7割くらいの入り。これは大成功だなぁと感心しているうちにもポツリポツリと客がやってきて、あとで聞いたら合計41人だったとか。今回は裏方にまわっていた兄弟子の吉笑さんが、開演直前に、椅子を1脚追加したほどでした。
前回会ったときに、10人も入れば御の字ですと言っていたので、予想が良いほうに外れました。
客層は、落語ファンと思しき中高年オジさんが3割、30歳前後の若い男女が3割ずつというところ。
最後列に座ったボクのとなりには、笑二さんの同級生と思われる若者が3人。少し沖縄のアクセントがあり、地元の話がとぎれとぎれに聞こえてきました。
前の晩に沖縄から上京してきて、歌舞伎町の飲み屋で2万円ぼったくられたというお兄さんも会場にいた、ということは後のまくらで知りました(笑)。
時間になって、笑二さんはニコニコしながら高座に上がりましたが、さすがに今回は気負いがあるのでしょうか、上気した顔つきで堅くなっているように見えました。
丁寧にお辞儀をして、ゆっくりと会場を見まわしてからまくらに入りました。落語家を目指すようになったきっかけから師匠に入門を許される話、これまでの簡単な略歴などをゆっくり披露しているうちに、だんだん堅さがほぐれていつもの調子になり、客席も暖まってきました。(*1)
1席目の演目は「持参金」。
寸胴で色は黒いし背も小さい、顔も性格もぜんぜんダメなうえに子供を身ごもっている女を嫁にどうかと勧められた(ひどすぎる話!)男が、20円という持参金ほしさにOKしてしまう(!)噺です。
よくよく考えてみると、どこまでいっても救われない悲惨な噺のはずなんですが、そこは落語の世界。登場する男が無精でぐうたらではあるものの、侠気のある好人物に描かれているので救われます。また笑二さんのキャラクターが実にハマるんですね。
笑二さんは、終るとひと呼吸置いて背後に用意してあった水を一口呑みました。ノドの調子が今イチとだけ言っていましたが、会を前にして、相当稽古を積んだのでしょう。
夜の公園だと、自分でも知らぬ間に声が大きくなっていたりして、ついついノドに余計な負担をかけてしまうと聞いています。
2席目は「化け物使い」。人使いが荒いために使用人がいなくなってしまったご隠居さんが、新居につぎつぎ現れる化け物をこき使う滑稽噺。
休憩をはさんで、根多おろしした「猪買い(ししかい)」は上方噺(*2)だそうで、大阪ではたいへんにポピュラーな噺なんだとか。
それを家元、談志が場所を秩父の山奥に置き換えてやっているのを見つけたらしく、東京ではあまりなじみのない噺と聞きました。
1時間45分の予定で5分前に終ったのですから見事なものです。終って、壁の時計を見て、苦笑いしながらちょっと首をかしげたのは、照れだったのかも知れません。
「してやったりでした(笑)」
会の結果は、師匠とか両親には報告したんですか?
「師匠には今度お会いしたときにご報告しますが、両親にはとくに連絡してませんね。決して、これがゴールではありませんからフフフフ」
1月2月がすぎて、落ち着いたのかと思ったらとんでもない。最近は、とにかく忙しそうで、池袋新文芸座の落語会での開口一番、学校寄席が二つ、新宿で前座3人の会、別門の兄さんとの2人会などなど。定例の一門会もありますから、かなりのもの。
「親子酒、大工調べもさらって置かないといけないですし、今月のうちに前座噺を2席ぐらい根多おろししたいので、それも稽古しないとと思っています」
乗りに乗っている時ではありますが、それだけに余計に突っ走っている感があり、公園にも足繁く通っているようです。
ただ、息抜き用にと思って「ポケモン」の古いソフトを買っちゃって、止められないで困っている、とも言っていましたけどね。
(*1)客席が暖まる――――――――客席の最初の緊張がほぐれてきて、笑いがおきてくること。全体の雰囲気が良くなり、落語がしやすくなる。
(*2)上方噺――――――――――――――大阪落語、上方落語起源の噺。場所や設定を江戸にうつして演じる。
-ヒビレポ 2013年3月19日号-