MAKE A NOISE! 最終回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

ダーク・サイド、イギリスのダメな人

 

山口ゆかり
 
 
 
 
 

この連載もいよいよ最終回なので、ご紹介しきれなかったものを棚卸し。
たくさんある中から厳選、というか今ご紹介したいものかな。

尼崎連続変死事件で、すぐ思い浮かんだのが『Snowtown』。浮かんだままだと何だか気持ち悪いので、ここに書かせてもらいます。すみません。でも、映画としても良い出来です。
オーストラリアで実際に起こったスノータウン・マーダーズという事件を基にした映画です。8人の遺体が見つかったのがスノータウンだったことから、そう呼ばれます。1件は証拠不十分で不起訴ですが、全部で12人殺されています。
赤の他人に支配され、身内を手にかけてしまう家族の心理が見えるような映画になっています。被害者から加害者に転じ、最後には精神のバランスを失っていく息子が無残。主犯の男を父親のようにして育ってしまった少年です。
オーストラリアの映画賞を総なめしたほか、カンヌなどでも賞をさらっています。
公式サイトhttp://www.snowtownthemovie.com

 
 
『Snowtown』は好きな映画というより、衝撃で胸に刻まれてしまった映画。そういう映画に『Grizzly Man』というのもあります。こちらはドキュメンタリーです。
怒れる男、妄念の男が、自然に敗北する物語は、ヴェルナー・ヘルツォーク監督が好んで描くところ。ですが、『Grizzly Man』では、ほんとうにそんな男が熊に襲われて死んでしまう!熊の生息地にキャンプする男なのですが、熊を語る口調に怒りが見え隠れする。熊世界いいぞ!と言ってるようで、人間世界ダメだ!と言ってる。
この男、負け犬なんです。俳優を目指し、最終選考までいったというオーディションもあるのに。その時、役をさらったのがウッディ・ハレルソン。そういえば、ハレルソン的マッチョだし、上手くいったらハレルソンになれてたかも。でも、選ばれずにアル中、ドラッグ中毒になる。最終的には熊保護活動家みたいなものになり、熊に襲われたのです。
イギリスを語る中に日本はダメがにじむこともある自分には、他人事とは思えない。上手くいかない諸々を日本のせいにしてたら、悲惨な最期と心します。

 
 

男が記録していた長時間のフィルムを編集し、インタビューを加え、自分でナレーターも務めて世に出したヘルツォーク監督、近頃では死刑囚のドキュメンタリーを撮っています。死刑囚インタビューも様々ありますが、反射神経で正論言うようなインタビュアーは引き出せるものが少ない。ヘルツォーク監督自らインタビュアーを務めた『Into The Abyss』は、その点でも優れたドキュメンタリーです。ダーク・サイドを扱う人の資質についても考えさせられます。
ヘルツォーク監督は、BBCの番組中、暴漢にお腹を撃たれた(おもちゃみたいな銃で大事には至らず)ことがありました。その時の落ち着いた対応もさすがでした。番組はGrizzly Manについてのインタビューで、二重に焼きついたのでした。
Into The Abyss公式サイトhttp://www.intotheabyssfilm.com

 
 
刑務所インタビュー関連なら『West of Memphis』も怖い映画でした。アメリカのウェスト・メンフィスで8歳の男児3人が殺された事件の犯人とされ、ウェスト・メンフィス・スリーと呼ばれた3人の少年を追ったドキュメンタリーです。
何が怖いって、自分が怖い。冤罪を扱った映画と知りながら、前半では、まだ少年たちを疑ってしまう。猟奇事件の犯人としてピッタリの背景とルックスを持つ少年たちです。理解しがたい酷いことが起こると、事実を細かく検証するより、はまる物語で納得したくなる、まさにそれが招いた冤罪でもあります。
映画ではDNA鑑定などで事件を解明していく過程がスリリング、かつ浮かび上がる真犯人がまた怖い。中年になって、ようやく釈放された元少年たちは、無罪確定ではなく、有罪と認める代わりに出てもいいという司法取引。捜査と裁判に膨大な時間とお金をかけたから、これ以上無理ということらしい。アメリカの司法制度って、真実を追究するのではなく、ちょうどいい落しどころを探る相談なのですね。

公式サイトhttp://www.sonyclassics.com/westofmemphis

 
 
この連載、振り返ったら、イギリス映画をちょっとしかあげてなかった!あわてて詰め込みます。
こちらに来て好きになったのが、ダメな人が出てくるイギリス映画。失業者、アル中、犯罪に手を染めてしまう人…人生が上手いこといってない人を人間ドラマにしてくれる。ケン・ローチ監督、マイク・リー監督の両巨匠に代表されるイギリス映画お家芸です。それを継ぐ、シェーン・メドウズ、パディ・コンシダイン、ピーター・マランとつなげていきます。

メドウズ監督『THIS IS ENGLAND』は英国アカデミー賞はじめ10冠獲得の名作。
ずっと追っていたい魅力あるキャラクター揃いで、現在は英全国ネットでその後のドラマが継続中です。
その中のコンボというキャラクターは人種差別で憂さを晴らす哀しい奴ですが、メドウズ監督初期作『A Room for Romeo Brass』に原型のようなキャラクターが。それを演じたのがコンシダイン。子ども相手にしか強がれない男だけど、主人公の少年と一時はわかりあえてるだけに、それていく道筋が哀しすぎる。それはコンボも同様で、いろいろ重なる2作です。
コンシダイン&メドウズ作品は、シリアスな『Dead Man’s Shoes』からコメディタッチの 『Le Donk & Scor-zay-zee』まで、どれをとってもグッときます。

THIS IS ENGLAND公式サイトhttp://www.thisisenglandmovie.co.uk
Dead Man’s Shoes公式サイト http://warp.net/films/releases/dead-mans-shoes/dead-mans-shoes
 
 
パディ・コンシダイン(撮影:著者)
 
 

コンシダインが監督となり、まず手がけた短編が、アル中男を主人公にした『Dog Altogether』。そのキャストや設定をほぼそのまま長編にしたのが『思秋期』。
こだわるのも当然、マラン演じる孤立していく主人公のモデルは自分の父親だというコンシダインです。コンシダイン自身も、その後、アスペルガー症候群だったことがわかり、生き辛さを抱えていたことを語っていました。渋い役もバッチリだけどコメディタッチの役が抜群に上手い役者さんなので、意外でした。が、つらつら考えるうちに、そうだったのかもしれないな、とも。
マランは、この時期、スティーブン・スピルバーグ監督『戦火の馬』にも出演していましたが、これから見るべき自分の出演作として「パディのを見たらいいよ」と『思秋期』を推しました。
公式サイトhttp://tyrannosaur-shisyuuki.com
 
 
ピーター・マラン(撮影:著者)
 
 
マランは、自身の監督作『Neds』でもアル中男を演じています。息子に「俺を終わらせてくれ」と殺人依頼するような度の進んだアル中父さんですが、こちらもマランの父親がモデル、息子が自分という自伝的作品。金獅子賞を受賞した前監督作『マグダレンの祈り』に劣らぬ秀作です。
メドウズ監督も『THIS IS ENGLAND』はじめ自分の少年期をベースにした作品が多いし、みんな、自分がしんどかったとこを作品として昇華させてるんですね。グッとくるわけだ。

 
そうそう、ケン・ローチ監督を継ぐのはこの人!と言われるアンドレア・アーノルド監督を忘れちゃいけない。長編デビュー作『Red Road』の女の情念、2作目『Fish Tank/フィッシュタンク-ミア、15歳の物語』の思春期の痛さ、3作目『Wuthering Heights』の孤児の愛、どれもしみます。現代劇から古典まで外れなしに見せきる実力、ほんとに巨匠になるかも。

 
最後、早足になってしまいましたが、この連載では普段あまりご紹介できないタイプの面白い映画について書くことができました。
楽しかったです。ご愛読ありがとうございました。
ではまた、どこかで読んでいただけることを楽しみに!

 
 
 
-ヒビレポ 2013年3月27日号-

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