ぜんざのはなし 最終回

公園ふたたび

 
島田十万
(第9号で「『仕事辞めます』高野勝」を執筆)

 
 

 3月に入って暖かい日が続きます。
 公園では、本日もまたイガグリ頭、真っ黒い恰好の笑二さんが呟いたり絶叫したりしています。
 
 
              怪しい稽古風景1

  

 
 近くにある幼稚園の帰りでもあるのでしょうか、この日は多くの園児とお母さんと思しき人たちでにぎわっていました。
 行き交う人には相変わらず「少し怪しい若者」に見えているんでしょう、みな遠巻きに、足早に、こちらを見ないように通りすぎます。

 
 
 先日は落語の稽古と気がついた、美人だけれども命知らずの若い女の子が声をかけてきたそうで、舞い上がった笑二さんは、対面で一席披露してしまったそうです。

 笑二さんにとっては、定期的に勉強会を開催してきたこの1年は、変化に富むかなり大きな1年だったようですし、先月の一人会の盛況はだいぶ自信になったようです。いつもに増して、稽古に身が入ります。

 先日は神保町で、入船亭小辰さん(二つ目)の会に出た笑二さんを観に行ってきました。小辰さんという人は初めてでしたが、軽みがあってすっとぼけて、若いんだけれども実力を感じる楽しい噺家でした。
 もしかしたら、まだ姿は現してはいないけれども暗闇でジッと爪を研いでいる才能ある新人がウジャウジャ眠っているのかも知れませんね。

 吉笑さん笑二さんがこの先、師匠のように実力を備えた売れっ子になれるかどうかは、本人たちの努力と時の運によるのでしょうが、それほど簡単なことじゃあないと思います。なれるとしてもまだまだ先のことなのは間違いありません。

 ただ、この二人が落語好きのあいだで、高く評価されつつあるのも事実のようです。第一、毎回40人も50人も客を集められる前座とか二つ目はほとんどいないんじゃないでしょうか?

 噺家がひしめき合ってしのぎを削る現在、客にとっては本当に贅沢な、良い時代ですね。

 今回の、ボクの拙い連載ですこしでも落語に興味を持たれた方はぜひ一度、寄席か落語会を覗いてみてください。超人気者でなければ、チケットは思いのほか簡単に取れますし、落語会は案外いろいろなところでやっています。

 大御所の会でも4000円前後でしょうか。二つ目の会ならたいがいは1500円か2000円くらい。とくに落語はまだ聴いたことがないという人には吉笑、笑二はお勧めですよ。2人の勉強会は「いまなら」1000円です、そのうち「いくらお金を出してもチケットが取れない」なんて日がやってくるかもしれません。

 ……なんてことを考えながら、すこし離れたベンチから笑二さんの稽古をながめているうちに、陽気のせいでウツラウツラしてしまったようです。
 
 
              怪しい稽古風景2
 
 

「おう八っつぁん、暇そうな顔して、どこ行くんだい?」

「おうよ、熊さんかい。いやなに高円寺にね、なんだか面白いことばっかり言ってる呑気なやつらがいるって、えらい評判だからちょいと冷やかしに行ってみようと思ってさ。おいらも仕事にあぶれて毎日ヒマでさ。どうでえ、一緒に行かねえか?」

「なんだよ、お前さんもよくよくしけた野郎だなあ。けど、オレも同じだからつき合うとするか」

 てんで二人はさっそく、高円寺の商店街までチンタラ歩いていくことにしました。そこでたまたま、端っこのほうで古道具を売っていた与太郎を見つけます。

「おうおうおう、与太郎じゃあねえか! なにやってんだお前こんなとこで?」

「あれ~、八っつぁんに熊さん。見てのとおりの道具屋よ。首が抜けそうなおひな様買ってって~」

「いらねえよそんなもん。それよりお前この辺で面白いことばっかり言ってるやつらがいるって聞いたんだけど、知らねえか?」

「このあたりで襖を売り歩いているやつのことかなあ。おかしなことばっかり言ってるけどねえ。そう言えば、障子を売ってるのもいるよ、どっちも最近できた建具屋だよ、間違ぇねえ」
って、与太郎はいつも自分が知らないことまで教えてくれるから信用はできません。

「襖と障子を売り歩いている! わけ分かんねぇなどうも。おっ、あっちから来んのはケチな大家じゃねえのかい。すいません~大家さん~。ちょっとお聞きしますがね、なんだかこの辺に面白いことばっかり言ってるやつがいるって聞いたんですけど、知りませんか?」

「おっ、なんだい八っつぁんと熊公じゃあねえかい。一体どうしたってんだい。なるほどなるほど、あたしもね、噂は聞いていますよ。なんでも兄弟ってぇはなしだよ。襖と障子だけじゃなくて赤いメダカとか、キウイとかコタツも扱ってるとも聞いたからスーパーかなんかの店員かも知れないね。二人とも西のほうからやってきて、見てるだけでも可笑しいらしい。マクラも悪くないとか誰か言ってたなぁ。ただ兄弟ではあるんだけれども腹違いで、兄さんは京都、弟は沖縄出身らしいよ」

 そりゃどうもってんで、二人は、またブラブラ探し始めます。こんどは◯にペと染め抜かれた半纏を着てカップ焼そばを売っている人に尋ねました。

「この辺で面白いことばっかり言ってる兄弟がいるらしいけれども、ご存知ありませんかね?」

「京都と沖縄? 話が面白い? 襖と障子? キウイとコタツと赤メダカ? そりゃあお前さんがた、建具屋とかスーパーなんかじゃあなくて、噺家の立川吉笑と立川笑二のことじゃあないかい? 吉笑さんには『ふすま売り』って新作もあるから間違いないよ。師匠は歌舞音曲なんでもござれ、売れっ子の立川談笑だ。今さっき「庚申文化会館」の前で見かけたよ、行ってごらん」

「ガッテン、ガッテン」礼を言って二人ですっ飛んでいくと、ちょうど師匠が二人に小言をくれているところでした。

「コラッ吉笑、笑二、お前たち最近は稽古もしないで女子の尻ばっかりおっかけているらしいじゃないか。さっきから聞いてりゃ女子、女子、女子って女子の話ばっかり。この間の学校寄席じゃ、女子のほうばかり向いて落語をやったと聞いたぞ。いい加減にしやがれ!  そんなことでは、いつか男子(談志)に叱られる」
 
 
                怪しくない顔
 
 

 お後がよろしいようで。

 ご愛読ありがとうございました。

島田十万

 
 
 
-ヒビレポ 2013年3月26日号-

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