昭和歌謡宅急便 Ⅱ  〜重箱の隅つつき隊〜 第1回


都会に染まる男の一考察

田中 稲
(第11号で「大阪から来た女」執筆)

 
 
 

さて。突然ではありますが。今期は
「様々な日常の出来事を、昭和歌謡の歌詞にありそうな言葉を多量に放り込みツッコんで行こう」
という、斬新なのか何なのかよく分からない試みをしようとギラギラ輝く太陽に誓った私であります。

そもそも「昭和歌謡の歌詞にありそうな言葉」とはどういった響きなのか。
非常に回りクドク、むっちゃ小さい事を生死が関わるレベルに膨らませ表現する、という感じでしょうか。

例を挙げてみましょう。

●「旅行」⇒「古い自分を捨てて希望の列車で街に出る」(←できれば始発が望ましい)
●「失恋」⇒「あなたの心が遠くに離れ体が二つに引き裂かれた」(←北国に旅する展開も)
●「デート」⇒「あなたと私のスタートライン」(←ウキウキなどカタカナを効果的に使うのも◎)

……私もまだまだ修行が足りんのですが、だいたい分かっていただけますでしょうか。

これが果たして3カ月続くのか。息切れしそうでちょっぴり不安なマイ・ハートではありますが。
この試みがカラカラ空回りしそうな予感も大ですが。
始まっちゃったものは貫きましょう。女は度胸。では、いざいざ本題へ!

                 ※ ※ ※

実は少し前、大阪ミナミの古びたキャフェ―にて、東京という新天地への希望に瞳輝かせるハッスルボーイと、それを憂う、可憐とは言い難き濃いメイクアップを施したロンリーガールのカップルに遭遇致しました。

2人はまさに「愛の終着駅の一つ前」的様相。愛がすれ違うビミョーな議論が繰り広げられ、思わず私は手元の珈琲がスッカラカンになっているにも関わらず、飲むふりをしながら密かに会話を小耳に挟みまくった次第であります。内容は、多少ヒビレポ用に整えたものの、基本、下記のようなすれ違いメモリー。

「タッ君(名称仮)東京の大学受かったんはいいけど、どうすんの」
「どうすんのって何がやねん」
「なにがて……。うちらの関係やん」
「このままでええやん」
「うちエンレン(←遠距離恋愛の略語らしい)ムリやし。実はオカンに話しよう思て」
「は? 何を?」
「私も短大卒業やし、タッ君と東京行く」
「なんでやねん。来んでええよ!」
「は?どういうこと? うちが一緒じゃ嫌なん?」
「い、いや、そういうことやないけど、そんな事で引っ越しとかせんでええよ」
「そんな事てどういうこと! 私との関係が『そんな事』なん」
「いいいいや、俺も東京行ったらバイトもするし構ってやられへんし」
「タッ君、うちと別れたいん、もしかして」
「いいいいやいやいやいや」

クーッ。悶える私。恋の天秤は残酷に傾くもの。タッ君よ。素直に言った方がいいぞ。「別れたい」、と!
付き合いが長くなると、新鮮な風を吸いたくなるのが男。逆にそこに浸り溶け込みたいのが女。
別離の瞬間は辛く苦しいが、それも男と女の性(さが)。運命と割り切ってスパッと綺麗に幕を下ろした方が、まだ懺悔の値打ちもあるというもの……。

私は既に珈琲を飲むふりを忘れ去り、2人をガン見しておりました。
ああ〜話に混ざりたいッ。いらぬお世話と笑うがいい。しかし、四十年(←すいません数年はしょりました)という人生経験が頭をもたげ、首を突っ込みたくなるのです。この加齢と比例し図々しさが増すという変化は、日本の中でもなぜか大阪で特に加速する
「オバチャーン化現象」
と呼ばれております。
とはいえ、本気で話しかけると確実にヘンなオバチャーン。必死で己が心を抑え指を噛み耐えました。
その分心で訴えかけます。
 
そもそもタッ君。君がイカン! 中途半端に恋人とフェイドアウトしようという手口があざとい。
男のその残酷な逃げ方に女は迷い恨みを重ね、カラオケで中島みゆきを絶叫するハメとなるのだッ。
とはいえ、タッ君だけを責めるのは野暮というもの。このカップルのようなすれ違いは山ほどあるはず。
 

 

若さゆえの残酷な恋愛模様。私が瞬時に思い浮かんだのが「木綿のハンカチーフ」でございます。
 

 

「木綿のハンカチーフ」とは、都会に旅立つ「僕」とそれを田舎で待っている「私」の掛け合いという、非常に凝った詞の構成。んむう、さすがは天才松本隆!

この歌ほど「夢を追う男」「現実的な女」という図式をドラマティックかつ痛烈に表した詩はありましょうか。最初こそ「都会で君に似合うプレゼント探すからねッ」と初々しさ全開で旅立つフレッシュボーイが変わっていく様子は次の通り。

●半年目:恋人に「まだまだ君の思いは変わらない。流行の指輪を贈るぜ!」
●一年目くらい?:「君の写真を見たが口紅もつけとらんのかい、僕はすっかり流行のスーツをバリッと着こなす男になったぜ!」
●結局「変わっていく僕を許してくれ〜。もう田舎には帰れないぜ!」

うりゃー、みるみる都会の絵の具に染まっとるがな!!
ここまで分かりやすくシティーボーイ化された日にゃ、女は「涙ふくために木綿のハンカチーフ送って」と嫌味の一つでも言いたくなるというものです。

この言い回しの風流が昭和歌謡の歌詞だなあ。訳せば結局
「せめて涙ふくために木綿のハンカチーフ送って」

「裏切りやがってちっくしょー。散々泣いて忘れるから、もう帰ってこんでええわい!」
という感じなのかもしれません。ぶるるるる。

「マスター、お勘定」
私は2人の会話の行く末を最後まで聞く勇気がなく(何を今さら!)、軽く右手を挙げ、銭形平次の如く小銭を会計テーブルにシュビビと投げ、店を出たのでありました。
嗚呼、街はロマンスの吐き溜め。恋人も揺れる街角。

……とまあ、いかがでしょう。初の試み、昭和歌謡風日記(滝汗)。

実はこれ、DVDの返却日の都合で、映画「冷たい熱帯魚」を休み休み見ながら書いたのですが、
なんというか、私こんなノンキな事書いててええんか、と少し思いました。
しかしまあ、日常、バイオレンスもあればコメディーもある、ということで。

これからもよろしくお願いいたします…!

 
 
 
-ヒビレポ 2013年4月2日号-

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