昭和歌謡宅急便 Ⅱ  〜重箱の隅つつき隊〜 第2回


ムリな外国語投入についての一考察

田中 稲
(第11号で「大阪から来た女」執筆)
 
 
 
さて、みなさん。突然ですが「あやしげな仕事」に巻き込まれたことはありますか。
私はあります……。

特にフリーになりたての頃は、若い血潮も手伝って怖いもの知らず、清水の舞台ジャンパー状態。
ビミョーな掲示板・ヤバそうなコミュニティの中で募集されている仕事案件にも目を通し、新たな仕事の細く赤い糸口を手繰るのもザラでございました。

しかしそこは弱者をを喰らいつくそうとする獣がウロウロするミステリアス・ゾーン……。
そこに転がっている多くは
「慣れた人なら驚くほどの収入に」
という表面はアマアマだけれどその実はとてつもなくスッパそうな誘惑、さらには
「1文字0.5円でお願いします」
という平成の世にまさかの50銭ギャラ設定、端数はどうやって払いますねんと挑発したくなるような案件がズラリ。ため息と涙で画面が見えないことも一度や二度ではございません。

しかし、怖がっていては新しい景色は見えてこない。危険を冒してこそ隣の青々とした芝生に乱入できるのよ。さあ、羽を広げ広い世界にフライーング!
で、「某〝自称″イベント会社」の案件をゲットしたわけなのですが。

 

まず、「代表」と名乗る人の風体がイッツアゴージャス。白髪のオールバック、整った口ヒゲ顎ヒゲ。ちょいと粋に背広を着崩したファッション。嗚呼、雑誌「LEON」の愛読者であることはナシ……。

その和製ジローラモがもっすごい勿体ぶりながら厳かに口にした計画が、これまたゴージャス。

「大企業のトップクラスを対象にして知的会員制クラブを作り、クリエイターがその講師となる」

うーむ、壮大かつあまりにも具体性の無い話。簡単に言えば胡散臭い!
しかもその和製ジローラモ、
「セレブを相手にするのだから、普通の人はムリ。特別光る人だけ選びました、それが君たちです!」
という、思わせぶりなアイウォンチュー的褒め殺しワードをツラツラと並べるのでございます。

けど当時はエーッ、そうなんだ、私光ってるんだ!と素直に喜んだ私。
なんと浅はかな(泣)。騙されて御堂筋。私バカよね。おバカさんよね……。

結果から言うと、企業様に配布する(らしい)ビミョーな内容のカタログを作らされ。
どこそこの大手企業がいい感じで乗ってきてるぜ、期待しとけ的な話を聞かされに飲み会に呼び出され。
大切な接待だと謎のカラオケ大会に呼び出され歌わされ。

そしてある日、事務所に行ったら、先日まであった机も棚もパソコンもドロンパと消えておったのです。
あまりにも見事な「逃避行」に唖然ボー然。顎が外れそうになったとはまさにこの事。
えーと、先日までのあの賑やかな風景は都会の蜃気楼??
たいして実害は無かったのですが、今でもワケが分かりません。
なんだったのでしょうか、あの人たちは。あの案件は。単に飲み友達が欲しかったのか?

……ということで前置きは長くなりましたか(まだ前置きなのかい!)
その和製ジローラモが、会話になにかと横文字を挟むのであります。

「田中さん、このプランのクオリティアップにはもう少しライティングをクールな感じにしなきゃね」
えーと、ク、クールですか。

「田中さん、この程度の文章のフィーはどのくらい考えてるの」
ふぃふぃフィー? なにそれゴルフ用語?(正解:料金だそうです)

「田中さん、そもそも君が絶対ライターとして譲れないフィロソフィはなんなの」
ふぃふぃふぃフィロソフィ?? ケーキの名前? 中がババロア的な。(正解:哲学だそうです)

なんちゅうか「そこ、横文字で無きゃイカンの?」という部分にわざわざねじ込んでくるので、体がムズムズこそばゆいのなんの。
私はこの案件により「横文字を多用する人はどこか胡散臭い」という印象を抱くようになったのでした……。

ただ、昭和歌謡の世界では、このムリに英語を投入したことによる「胡散臭くスケベでワケあり」なイメージが世界観を膨らませる効果を発しているので「良し」なのであります。

「ラブユー」は「ラビュー」と言い流される事で卑猥さを増し、ララバイは子守唄という意味とは別に「バイバイ」と語呂合わせで、失恋の意味も含める……。あああ素敵。
そうそう。「ゲッチュー」も忘れてはいけないわ。「欲しい、いただくぜ!」という日本語では表せない押し倒し感というかガツガツ感がそこに!

これの進化型になると
「意味はどうでもいい。雰囲気さえ合っていれば!」
という、んもう半ばヤケクソ気味なO型の人もビックリのおおらかさがプラスし、日本独自のジャパニーズイングリッシュ世界観が出来上がるのであります。

中でも特筆したいのが「ブルース」。私は音楽的全く詳しくないのですが、きっとニューオリンズのあたりの人が淡谷のり子の「別れのブルース」や青江三奈の「伊勢佐木町ブルース」を聞いても
 

 

「オー、ブルース…ノンノン(これはこれで名曲だと思うが僕らの言うブルースとはちょっと違うね)」

と柔らかく否定しそうな気がします。近藤真彦の「スニーカーぶる〜す」に至っては
 

 

「オー、キュートボーイ! バットブルースノンノン…(可愛いボーイだね。でもこれがブルースかといえば話は別さ)」

とこれまた笑顔で拒否られそうな気がします。

私が思うに、昭和歌謡における「ブルース」の条件は旋律・リズムでは無く歌詞の内容。ブルースの「ブルー」の部分に重きを置いているのです、きっと。
つまり「別れ、失恋、夜、雨」などブルーな心象風景を歌った歌詞は、ロックだろうがバラードだろうが演歌だろうが「ブルーッす!」=「ブルース」なのです。
あなたとの思い出に頬を涙で濡らし、夜景が滲んで見えようものなら、そこにどんなメロディーが付こうが間違いなくブルーっす、いや、ブルースなのでございます……。

ということで、いかがだったでしょう。今回の昭和歌謡宅急便。
正直私は書いていてワケが分からなくなってきました(号泣)。
ヒビレポはあと十数回あるのですが、この調子で書いて、ライターとしてオッケーなのでしょうか……。
今回、これを書くのになんと4時間(かかり過ぎ)。今はヒマなんで全然問題ありませんが、それでも昭和歌謡ワードのハードルの高さを痛感せずにはおられません。

せめてナナメ上を向いてキーボードを打とうと思います。涙がこぼれないように……。

 
 
-ヒビレポ 2013年4月9日号-

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