昭和歌謡宅急便 Ⅱ  〜重箱の隅つつき隊〜 第3回


失恋と北国の深い関係についての一考察

田中 稲
(第11号で「大阪から来た女」執筆)
 
 
 

さて、みなさん。突然ですが失恋の傷を旅で癒したことはありますか。
私は無いです……。

そもそも1人旅ってハードル高くありませんか。行った事のない場所なんて迷ったらどーすんの。
もちろん、極めてポジティブに妄想を膨らませれば、取った温泉宿もしくはホテルで、エレベーターに偶然一緒に乗り合わせたお相手と

私「あれっ、そのキーホルダー私と一緒」
佐藤浩市似の男「偶然だなあ、これ、母親の肩身でして……」

とかなんとかビビビシュワッチなことになり。後の展開はWebで(しかも有料コンテンツ)!
……という夢みたいな事も無きにしも非ずではあるのですが。
いかんせん確率としてはほぼゼロであり、人生的にネガティブミラクルが多い私の場合、奇跡が起こるとすればそんな運命的出会いより、泊まった宿にUFOが落ちる方が遥かに可能性が高いと思われます。

はてさて、今日の重箱の隅のテーマですが、そんなセンチメンタルジャーニー・いわゆる感傷旅行、中でも失恋後の一人旅では、歌謡曲のヒロインはなぜか北をチョイスしがちです。

 
 
しかも日本海大人気。しかも訪れるのは冬。
しかもしかも、海の幸を食い倒れ、漁師のオッチャンと仲良くなるなど手近なリフレッシュを図らず、人気のない海岸で荒波を眺め(よく考えりゃデンジャラス)、しんしんと降る雪景色を眺め、過ぎ去りしあの日、あの人を思うのです。

嗚呼、なんという後ろ向き。なんという自己陶酔!!

映画の場合だと、ふらり訪れた北の街に住みついて小料理屋を営むツワモノもおりますが、
歌謡曲の場合、長くても5分という短時間勝負なのでに、ヒロインは最悪の場合自分を責めて終わります。

どうなの、それ。旅行の意味、あんのッ???
どうせなら南に旅をした方が、湿気た心を太陽が乾かしてくれそうなもの。
試しにちょいと名曲を南設定に変えてみようではありませんか。
 

 

【南の宿から(元歌:「北の宿から」)】

あなた変わりはないですか
日ごと暑さがつのります
着てはもらえぬ海人(うみんちゅ)Tシャツを
汗を拭き拭き染めてます

……。
なんでしょうか、この「着てはもらえぬ」という哀愁のワードを全て台無しにする、なんくるないさ感。
原曲で溢れるほど漂っていた情緒や孤独が驚くほどぶっ飛んでいきましたね。阿久悠先生に心から謝罪。
北から南に場所を移しただけで、ほのぼの度がここまで上がるとは。
取りようによっては、ヒロインが「失恋した」のではなく「職人として修業中」にも聞こえてしまいます。うーむ。

懲りずに、もう一つ名曲を南設定に変えてみましょう。

 

 

【「ハワイ島 常夏景色」(元歌:「津軽海峡冬景色」)】

羽田発の国際線を おりた時から
ホノルル駅は いい天気
島へ帰る人の群れは 誰も饒舌で
ハワイアンだけを きいている
私もひとり タクシーに乗り
黄金色のカメハメハ大王像見つめ
泣いていました
ああ ハワイ島常夏景色

一応近年のグローバリズムを意識して海外をチョイスしたみたのですが、、
もはや「泣いていました」という部分が「嬉し泣き」にすら感じる観光全開ソングに変貌しました。
ヒロインは速攻で失恋の痛手を忘却し、マカデミアナッツチョコをまとめ買いしそうな勢いです。
これまた阿久悠先生に心から謝罪……。

私は大切なことを見落としていたようです。
歌謡曲の世界に「失恋女の立ち直り」なんて求めてはいないのです、いや、求めちゃいかんのです。

理想は、帰ってこない男を待ち、場末のバーで酒を煽り肝臓を悪くする女。
やりきれぬ思いをナイフに込め、男の胸に突き刺す日を夢想する女。
女はあくまで情念を秘めた受け身であり、アクティブなバカンスで気分転換などやっちゃロマン台無しなのです。

日本人のDNAに組み込まれた、揺るぎない恋愛の定番設定「男はカモメ。女は港」
港にフカーフカーとカモメが飛びまくる風景が見られるのが冬ということもあり、
失恋の歌は「冬の海」がちょうど良いのでございます。

何かの番組で、甲斐よしひろさんが、甲斐バンド時代の名曲「安奈」を作詞する時

「いやー、失恋して南に行く女の設定にしてやろうと思ったんだけど全然うまくいかなくて、北にしたらスラッと書けちゃったよ〜」

ってなエピソードを仰っていましたが、わかる、分かる。
作り手としても絶対北の方が「書きやすい」でしょうねぇ。
 

 

さて、いかがでしたでしょうか、今回の昭和歌謡宅急便。
「田中さん、かなり迷走してますね」というツッコミはナシでお願いします……。
 
 
 
-ヒビレポ 2013年4月16日号-

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