杉江松恋の「違う方向に努力する」VOL.3


杉江松恋
(第11号で「10年、20年、30年経っても楽しく遊んでいられるライターでいたい。それだけなんだ」を執筆)

 
 
 

4月2日(火)〜3日(水)
3日午後が某新人賞の予備選考会だったため、この2日間は原稿の下読みに専念していた。3日には別件打ち合わせもあったのだが、そちらも代理で編集Cに行ってもらって準備。選考会は午後からで、25作程度を読んで予備選考委員同士で議論して決定する。新人賞の下読みには、自宅で原稿を読んで点付けをするだけのものと、この賞のように選考会を行って通過作を決めるものがある。選考会でも、編集者の意見が反映されるものとされないものがあり、これは後者だ。
無事に選考を終了後、近くの店で打ち上げ。このとき以前に別件で仕事を一緒にした編集者と隣の席になり、今手がけている案件の話になった。ためしに2つ、単行本化の話題をふってみたのだが、意外なことに両方とも前向きな返事をもらった。1つは私自身の企画で、もう1つは別の書き手のたまった原稿を本にするという話である。いやー、言ってみるものだわ。ただ、今回は完全な棚ぼたなので、いつも同じ手が使えるわけではないだろう。やはり早急に企画書を作っておかなければならないと感じた。
打ち上げ後、三軒茶屋の懇意の店まで移動して、昼間の打ち合わせに出てくれていた編集Cと合流した。Cに会議の内容を教えてもらい、対策を話し合う。お酒を飲みながらだとばんばん名案が出るなあ(そしてどんどん忘れる)。
 

 
 

4月4日(木)
どうやら前日酔っ払って携帯電話を置き忘れてきてしまったらしく(のちに発見。着払いで送ってもらった)、あまり催促が来ず静かに時間を過ごせた。後でたいへんなことになったのだが。
この日は池袋コミュニティカレッジでやっている講座の開講日だった。「ミステリーの書き方」という名前でやっている講座だが、正確に言えば「ミステリー的なプロットを使って文章を書く」講座なので、ジャンルにこだわったことはほとんどやっていない。前年10月から3月まではスケッチやデッサンのように基礎の文章力をつけるというテーマを集中してやった。4月からの今期は「書けるものは見える」がテーマ。逆に言うと「見えないものは書けない」。これは「書くとは手を動かし続けることだ」という内容も含んでいる。考えているだけでは何も完成しない。それを形にするように努力し続けてこそ、なのだと私は思っている。第一回は全員に「黒歴史ノート」を作ってもらった。やったことある人も多いでしょう。ノートにこっそり「俺世界」とか「私ヒーロー」の設定を書いて、「やばい。これ傑作かもしれない」と呟くアレである。アレを書いてみて、お話を作りたくなったときの気持ちを思い出すのが目的だ。全員の黒歴史ノートを公開してもらったが、ちゃんと自我が解放できている者とそうでない者の差が顕著だった。これが何を意味するかはおわかりだと思う。
終了後、近くの居酒屋で打ち上げ。米光一成さんが講座の人と来ていて、最後はちょっとだけ合同の形になった。

4月5日(金)
携帯電話がないまま週末に突入することになるので、各社にメールで連絡をとってみる。案の定、あちこちにご迷惑をかけていた。その連絡だけでかなり時間が潰れてしまう。その合間に現在進めている書下ろし本の構成を設計図の形にまとめ、編集者にメールをする。私はどんな場合でもだいたい一枚にまとめた設計図を作る。たとえばノベライゼーションを手がけるときには起承転結のそれぞれのパートで必要なことをまとめ、プロットとして詳述してから書き始めるのである。今回の本はエッセイなのでそこまで細かいものは必要ではないはずだが、やはり展開は考えておく。これが正しいやり方かどうかは、自分でもよくわからない。実はエッセイで本を作るのは初めてなのだ。しかも書き下ろしだし。
午後になって連載原稿を一本。下読みに集中していたので、今週はこれが最初の原稿だ。書いているうちに調子が戻る。いわゆる「肩ができてくる」感じである。気をよくして、途中で止まっている長い評論にかかろうとしたが、某編集者から連絡があり、文庫解説の原稿の〆切が危ない水域に達しているという。恐縮しながら着手し、深更までかかって仕上げる。結果としてはよく働いた。

4月6日(土)〜7日(日)
原稿書きに専念、といいたいが7日は都内某市にお出かけした。数年前に引っ越したKさんに会うためだ。Kさんのお子さんとは子供が非常に親しくさせていただいている。お宅にうかがって歓談。盛り上がってしまい、その日の仕事が全部吹き飛んだ。す、すいません。

4月8日(月)
前日の尻拭いでひたすら原稿書きに集中する。ネット原稿が3本に新聞書評が1本。何を隠そう前回のヒビレポ原稿は、当日の朝に入れました。ヒラカツさんごめんなさい。そしてこの原稿もまた当日朝に書いているというていたらくである。反省。

今週の収穫は単行本化の企画が通せたことだった。しかしこれは自分の力ではなく、完全に偶然の産物であり、編集者のおかげだ。編集者が漠然と感じていたニーズのところに私が飛び込んでいった形になったからである。しかしそんな幸運は何度も続かない。次回以降はちゃんと企画書を作らなければならないと肝に銘じたのであった。
あともう一つは4日に開講した講座だろうか。今期のテーマは、うまくやれれば受講生の「楽しい」を刺激するものにできるかもしれない。私がやったことで他の人が「楽しい」になれば、その過程はもっと多くの人にあてはまるものになる可能性がある。季刊「レポ」に書いた4つの原則の1つに「三.自分より若い人、キャリアの浅い人を大事にする。賛同者が「事業」に参加しやすくなる仕組みを作る」と書いたが、人のやる気や意欲を賦活するシステムを作るのはやりがいのあることだ。別に受講生のみなさんを実験台にするわけではないのだが、しばらくいろいろと試させてもらおうと思う。

そして今週のスケッチ。なかなか巧くならない。中学校のときのレベルに戻ったぐらいだと思う。何か案を講じないと、たぶんここから上にはいけない。どうするか。
 

 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
-ヒビレポ 2013年4月15日号-

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