杉江松恋の「違う方向に努力する」VOL.4


杉江松恋
(第11号で「10年、20年、30年経っても楽しく遊んでいられるライターでいたい。それだけなんだ」を執筆)

 
 
 

 先週は突然お休みをいただいてしまって申し訳ありませんでした。現在7月刊行の本の書き下ろし作業に入っていて、その準備が追いつかなくなり、原稿を落としてしまいました。いや、単著ではなくて共著なんで私が遅れると開いてに迷惑が(ゴニョゴニョ)。
 〆切は今週中。果たして間に合うのか否かは、杉江のツイッターでご確認を。TKD55Projectという名称で経過報告しているのがそれです。進捗率100%まであと何日何時間?

あとはややダイジェスト気味に。

4月9日(火)
「北尾トロアワー」にゲスト出演させていただいた。
その折に持参したのが、えのきどいちろう氏の昔の単行本(『社会の窓』)と収入内訳グラフである。前者はたまたま京都ガケ書房で購入して読んだばかりだったので、本の印象が強かった。えのきど氏がまだ20代のころの作品だが、そんな若さで最前線に立っている。ベルリンの壁崩壊の取材に派遣されたり、天安門事件について発言して木っ端文化人に喧嘩を売られたり。中でも記憶に残っているのは宮崎勤事件のときの報道に関するものだ。ご記憶の方も多いと思うが、宮崎の私室の中が「危険なホラーおたく」の例として紹介された(実はそれほどホラーに傾倒していたわけではないということが後からわかってくるのだが)。その際、取材で入った報道陣の誰かが積み上げられた本の一番上に「若奥様の生下着」を置いて変態度をアップしようとしたのである。最初の報道時と以降の映像で「若奥様の生下着」の位置が違うことに気づき「盛ったな」と「サンデー毎日」のコラムで最初に指摘したのがえのきど氏だった。これ、すごいよね。ベルリンの壁以上に歴史を作ったといってもいい。マスメディアによる「ヤラセ」の現場を押さえたわけだもの。
私の見たところ、こんな具合に「歴史を作る」仕事を現在任されているのは「評論家」「批評家」「思想家」「ジャーナリスト」という肩書きを持つ人々である。肩書きはいろいろだけど、何か共通点があるような気がする。学歴とか社会的な肩書きとか、そういうものじゃないものが何か。「北尾トロアワー」では、実はその答えを探したかったんだよね。なんだろう。いったい何をすればそういう歴史の第一線に立てるような仕事ができるんだろう。
 

 

放送では直接の答えは出なかったんだけど、えのきどさん、トロさんのお2人から同じ指摘をいただいた。それは「杉江松恋は、自分が何者なのかという個性の表明を、そろそろやらなければならないのではないか」ということだったように思う。あー、それ、実は苦手なんです。私は自分が何者かということを掘り下げて考えるのは好きなんだけど、それが他人にとって商品価値のあることだとは思えなくて、すぐに内にしまってしまう癖があるんですよ。でもそれをやれという。もしかすると答えはそういうところにあるの? そういうことなの?

放送終了後は新宿BIRIBIRI酒場に直行して、中の人とミーティング。トロ・えのきどのお2人に触発されたことをすぐ何か形にできればいいのだけど、ちょっと無理そう。なので、他の人と話すことによって、曖昧な輪郭だけつけておこうと思ったのだ。それに直接つながる企画はできなかったのだけど、遠くでつながるようなものは少し思いついた。しばらく試してみることにする。

4月10日(水)〜11日(木)
4月13日に控えた第4回翻訳ミステリー大賞開票式&贈賞式(匿名投票をその場で開票して、授賞者を決定するのです)と4月15日(火)の辻真先トークイベント、4月19日(金)のガイブン酒場トークイベントのための諸連絡だけ済ませて、あとはひたすら原稿書き。全50枚ほどの硬めの原稿があって、序破急の序に当たる部分をずっと引き伸ばしてしまっていたのだ。20枚くらいを20時間で書き、送付。これでやっと解放された(まだ著者校正が残っているけど)。午後は都内某所でAXNミステリーのBOOK倶楽部収録。毎月お薦めのミステリーを1冊紹介する方式の読書ガイド番組だ。だーっと行ってだーっと帰り、また仕事。

4月12日(金)
前日からやはり20時間ぐらいかかって20枚の原稿が終わる。原稿用紙1枚に1時間かけるのやめい。仕事が遅くなって食えなくなるでしょうが。本人は仕事の密度を上げるためだと思いたいのだが、単に老化して遅くなっているだけという可能性もあり、自信が持てない。合間に翌日のための準備。開票式&贈賞式の前に北上次郎氏、川出正樹氏と鼎談をするのである。一から配布資料を作るのはもう無理なので勘弁してもらって(秘書がいたらやってほしい仕事その1、講演・対談時のパワーポイント資料作成!)、明日話す内容のシナリオだけ書いてしまう。対談相手はよく存じ上げている方なので大丈夫だろう、と甘えてしまうつもり。

4月13日(土)〜14日(日)
イベント当日。泊りがけなのである。完全燃焼した。ご来場いただいたみなさま、ありがとうございます。

4月15日(月)〜16日(火)
完全燃焼しすぎて「ヒビレポ」の原稿をまたしても当日朝送付。すいません。そのまま月刊誌の書評を1本書き、送付。以降はイベントの準備に追われ、合間にもう1本あるロングインタビュー原稿の構成を。イレギュラーで飛び込んできた原稿を書きたいのだが、本が発見できない。もしかすると物置かと思い、1時間ほど探したがやはり見つからなかった。あると思っていたのに(秘書がいたらやってほしい仕事その2、書庫及び物置の整理!)。16日の夜は辻真先さんに興味深いお話をうかがう。平日夜ということで宣伝が不行き届きでたいへん申し訳ないことをした。これから辻さんのイベントはすべて週末に持ってこなければ。

4月17日(水)
くだんのインタビュー原稿を送付。だいぶギリギリだったらしく、メールを入れた瞬間に編集者から返信がきた。ご、ごめん。もしかしてパソコンの前でパンツ脱いで待ってた?来週末がTKD55の〆切なのに、書き散らかした原稿をまとめることができない。そのことを考えると全身が総毛立つような思いに駆られる。とりあえず手を動かし続けるしかない。そして資料を読むしかない。

4月18日(木)〜19日(金)
原稿書き&資料読みの合間に脱け出し、某所にて映像素材のために対談の司会という珍しいお仕事。今週の「違う方向の努力はこれかも。しかし小粒すぎるだろう」などと思いながら帰ってすぐにまた仕事。そのままぶっ続けで机に向かい、何度か仮眠をとって翌日の夕方まで。夕刻よりBIRIBIRI酒場にてトークイベント「ガイブン酒場」。翌月以降に出る外国文学をゲラで先読みするというもので、私自身が外国文学読みの初心者なので、観客に近いところで話題を提供できるのでは、という考えから始めた。今月はマックス・バリー『機械男』(文藝春秋)、ネイサン・イングランダー『アンネ・フランクについて語るときに僕らの語ること』(新潮クレストブックス)、イーディス・パールマン『双眼鏡からの眺め』(早川書房)の3冊で、加えて雑誌「冥」がトーベ・ヤンソン特集を組んだので、それも紹介する。作家特集は継続してやるつもり。とりあえず次は5月17日(金)開催で、作家特集はリチャード・パワーズの予定だ。

4月20日(土)〜21(日)
20日はほぼ脳内が白紙。たぶんTKD55にかかりきりだったと思われる。21日は荻窪ベルベットサンにてスーパーフラット読書会「杉江松恋の、読んでから来い」、課題作はアイザック・バシェヴィス・シンガー『不浄の血』(河出書房新社)である。これは参加者全員がレジュメを切ってきて、対等の立場で話し合おうという趣旨の読書会。毎回濃厚な意見交換ができるので楽しみにしている。ガリガリとレジュメを切って私も参加。いつもより人数は少なめか。イディッシュ語の作家で、しかも短篇集だからレジュメが切りにくかったかもしれない。これも次回は決まっていて5月26日(日)開催。ロン・カリー・ジュニア『神は死んだ』(白水社)をやります。おもしろいよ。

4月22日(月)
完全にダウン。オーバーヒート。先に送った原稿について、追加でいろいろやらなければならないことがあるのでそれだけは対応。あとはスケジュール調整。あまりにも体調が悪くて、ついに「ヒビレポ」原稿を落としてしまった。本当にすみませんでした。

テュラテュラテュラテュラテュラテュララ。恋人よ(いないけど)これが私の、2週間の仕事です。
反省点としては4月9日にいただいた触発材料を少しも発展させられず、ただ仕事に追われて2週間を過ごしてしまったことである。日雇い労働かよ。
しかしめげないから! 次週こそ、ちゃんと「違った方向に努力する」!

残念ながらスケッチはなし。あー、下手糞のくせにサボってしまったあ。

 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
-ヒビレポ 2013年4月29日号-

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