昭和歌謡宅急便 Ⅱ  〜重箱の隅つつき隊〜 第6回


花嫁と父の哀愁に関する一考察…なのか?

田中 稲
(第11号で「大阪から来た女」執筆)
 
 
 

さて、みなさん。「人を殺しそうな視線」を目撃したことはありますか
私はあります……。

とまあ、物騒な前置きから始まった今回。どんなドロドロな懺悔の値打ちもない過去が披露されるかとドキドキしているそこのあなた! 珈琲に例えると極薄アメリカンの如く深みの無い私の人生、サスペンスな展開はこれっぽっちもありませんので、是非とも読んでガッカリしてください。

さて、超私事ではございますが、このヒビレポがアップされている頃、ちょうど私の親戚が結婚式をカランコロンとあげているはず。あのオチビちゃんが結婚かー(遠い目)。
で、彼女の結婚で思い出しました。私の姉が結婚した時の大騒動を。
今回はその涙と脂汗と家族の困惑を基に、重箱の隅を突いてまいりましょう。
 

 

          ※     ※      ※

私が23歳の時、5歳上の姉が4年の交際を経て見事ジェット・リー似のイケメンと結婚への運びとなったのですが。私たち田中家にはある「不安要素」がありました。

それはズバリ。酒乱で喧嘩っ早いオトンでございます。
昭和歌謡宅急便第8回「喜怒哀楽と酒」参照

結婚報告から結婚式に至るまで、酒とセットの準備イベントがズラリ。しかも娘をブン取るにっくき男と顔を突き合わせなければならないという環境。オトンが暴れないわけがない!

さあさあさあ、どうするどうするッ!

ところが、家族がいろんな状況を覚悟した割には、オトン本人が「自分が暴れて破談にしたら娘に一生嫌われる」と思ったようで、結婚申込みの日と結納では奇跡的に酒を控え、無事滞りなく話がまとまったのでした。

しかし、まだまだ気は抜けません。というのも、結納が終わった日
「オトン、結婚式には芦屋雁之助ハンの『娘よ』とか泣きながら歌うんちゃうん」
と私が放った軽口に、オトンは地を這うような声でこう唸ったのです。
 

「んな胸クソ悪い歌歌うかボケ」
 

うわああぁぁぁ(滝汗)。全然心の整理がついとらんな〜!!

 

 
 

私はハッといたしました。男親が娘を嫁に出す心境は切なくてドラマティック。昭和歌謡、演歌の題材としてオイシイことこの上ないにも関わらず、そんな父親目線の歌が「娘よ」以外にあまりヒットしないのは、オトンのあの呟きに集約されている気がします。

娘を他の男に取られるだぁ? そんな現実と向き合うのすらイヤッ。
切ないメロディーに乗せて聞いたり歌ったりする余裕なんざあるかボケ――!

という感じなのでしょう。うるる。

そして、修羅場とは忘れた頃に勃発するもの。姉の結婚式が近づく中、記念にと家族四人で食事をした帰りのバーで、オトンの鬱憤はベスビオ火山の如く爆発するに至ったのであります。
そもそもバーに立ち寄るあたりでヤバいと思ったんだよ〜(泣)。ベロッベロに酔い、なぜかカウンターの隣に座った知らんオッサンに、姉が結婚する不満を巻き舌で訴えまくるオトン。まあ飲んだら平和に済むわきゃないとは思っていたけどオッサン気の毒に、と他人事の母・姉・私。

「長女がですね。俺を裏切って他の男んところに行くんすわ!」
「もう汚された女なんでね、こっちが男にくれてやるんですわ!」

オイオイオイ、もはや「娘を嫁に出す」んじゃなくて「俺の女が横取りされた」的訴えになってまっせ! オトンは一向に構わず、そのオッサンのザビエル禿をぐちゃぐちゃに撫でまわしながら散々愚痴った挙句、いきなり

「けぇる(帰る)!」

とタクシーに乗り込み、そのタクシーの運ちゃんを「生意気なんじゃぃコラ」と家に着くまでガンガン叩き蹴り頭突きをかますという暴挙に出て、おかげでタクシーは蛇行運転しまくり、母と姉はオトンを必死でなだめ止め運ちゃんに謝り続け、私は車酔いしてうぇーうぇーと呻きまくる「走る修羅場」と化したのでした。

んもう思い出しただけで気分が悪くなります。
忘れたい。でも一生忘れられない、パニック・イン・高速道路……。

そしてついに来た姉の結婚式。その一部始終を捉えたビデオは、幸福と怨念が織り交ざったカオスがまざまざと映し出され、心理学かなんかの資料にならんかと思うほど凄まじい内容に仕上がっておりました。

ザワザワと華やかな招待客。幸せそうなウエディングドレスの姉。
BGMに流れるのはハッピーな洋楽。祝辞の声。

さあ、カメラはついに花嫁の父であるオトンにズーム・イン。ところが、敵のように肉や魚を憎々しげにガシガシ食い散らかすその異様な様相は、スキンヘッド&一張羅のスーツである事も災いし、BGMがいきなり

♪ちゃらりーちゃらり〜♪

「仁義なき戦い」にソラミミってしまうほどのヤカラ感満載。

 
 

 
 

血が滴るようなステーキを引きちぎりながら、てめぇ娘を泣かせたら大阪湾に沈めるから覚悟しとけとばかりに新郎をガン睨みするオトンは、標的をロック・オンしたゴルゴ13を実写化したような、ヒットマンの目をしておりました。
その後も遠慮なく向けられる、新郎に対する「死ねばいいのに!」レベルの嫉妬レーザー。彼は一人でスリル&ショック・サスペンスを演出し、もはやビデオの主役を花嫁花婿から奪う存在感を放っていたのであります。

さらに式の数日後、オトンは胃を悪くしてぶっ倒れ、救急車で運ばれたのでした。診断は「急激なストレス」。ちょいちょいちょいーッ、どんだけショック受けてんねん!!

 
 

 
 

私は「ウエディングベル」という曲を聞くと、オトンのこの大騒ぎ結婚式を思い出すのです。
最後の「くたばっちまえ!」という歌詞。
いやはや、彼の心境はまさにあれだったに違いない。
私の結婚式はどうなっちゃうんだろう、と心配したものですが、杞憂に終わりましたね。とほー。

ぎゃああ、なにやらウラサビシイ締め方になっちゃった挙句、今回は昭和歌謡に上手にからめられず、思い出話で終わってしまいました。クーッ!田中さん、もしかして早くもネタがつきましたか、それ昔話で誤魔化そうとしてませんかという鋭すぎるご指摘はノンノン厳禁ご遠慮勘弁……。
時には昔の話を話をしよう。加藤登紀子もそう歌っておられるではございませんか。てへっ。

 
 
 
-ヒビレポ 2013年5月7日号-

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