今朝はボニー・バック 第19回


LOST 〜合宿免許青春物語 シーズン5〜

ボニー・アイドル
(第11号で「原稿料よりバイト料が多くても、ぼくは断然ライターだ!」執筆)
 
 
 

美香ちゃんから遅れること数日後の7月5日。ぼくの卒検が行われた。今となってはどんなコースを走ったのかすっかり忘れてしまったが、担当教官が苦手な谷教官だったことは覚えている。そして、1回エンストしてしまったことと、商店街を走っている時に、前方のママチャリを抜く際、ちゃんとギアをローに落としたことを谷教官に褒められたっけ。
(エンストはこれでチャラだな。たぶんイケるだろう)
試験後も谷教官がギア操作を褒めてくれたこともあり、ぼくは合格を確信した。

その前夜。ぼくと巨乳&ノッポの卒検合格祈願とお別れ会を兼ねたバーベーキュー大会が宿舎裏の川原で行われた。合宿免許を卒業できる喜びとみんなと別れるさびしさで、ぼくは明日、試験だということも忘れ、飲みまくった。酔いに任せて前回の美香ちゃんの部屋に忍び込んだいきさつをみんなの前で面白おかしく語ったりした。
ぐびりぐびりと缶チューハイを飲んでいると、隣から「秀ちゃん、童貞だってよ!」という声&爆笑が聞こえてきた。秀ちゃんとは、カズさんたちと同じ日に入校してきた、暴走族に入っているパンチパーマの19歳。ヤンチャはするが、女には奥手のようだ。
たぶん、数日前に美香ちゃんに口でしてもらったことで調子に乗っていたのだろう。みんなからイジられている秀ちゃんに向かって、ぼくはバーテンが客を慰めるように、こう声をかけてあげた。
「それは君がやさしすぎるからだよ」
それを聞いた秀ちゃんは目を潤ませながら「東海林さん、弟子にしてください!!」と弟子入りを志願してきた。すまん、秀ちゃん、実はぼくもあの時、キミと同じ童貞だったんだよ。
その後、みんなと連絡先の交換をして、合宿所最後の夜を終えた。
 

 
次の日。ぼくと巨乳&ノッポの3人は無事卒検を合格した。合宿所を出る際、教官にお礼のあいさつをしようかと思ったが、出入りの激しい教習所でそんなことをしている生徒は他におらず、場違いなような気がしてやめた。3人で帰りの新幹線に乗り、
(松竹芸能の養成所に入っていた時よりも、この合宿所で過ごした3週間余の日々のほうが青春だったなあ)
そんなことを思いながら、しばらく窓から福島の自然を眺めていると、合宿所裏の川原でカズさんたちがぼくらに手を振っている姿が見えた。

この辺、記憶があいまいなのだが、この時、ぼくはたしかに巨乳とノッポと東京行きの新幹線で帰ったと思う。本来なら、合宿所に入校した日に使った路線の逆、福島→仙台→北上→横手で帰るところを、なぜわざわぜ東京を経由したのか。上野駅で美香ちゃんに会うためだ。
「東海林君、好きだったよ。バイバイ(;_;)/~~~」
ぼくより一足先に卒業していった美香ちゃんが送ってきたこのメール。
最初はぼくも、
(所詮は合宿所で終わる恋だったんだ。向こうには彼もいる。諦めよう)
とお別れを受け入れ、「さよなら」メールを返した。が、時間が経つごとに会いたくなる思いは止められず、前日、次のようなメールを彼女に送っていた。
「明日、上野駅回りで実家に帰ろうと思うんだけど、会えるかな」
すぐに返信が来た。
「来て」
たしか、こんな痛いやりとりがあったはずだ。
実際に、新幹線を降りて上野駅近くのマックかどこかで美香ちゃんに会ったはずなのだが、残念ながらあんまり覚えていない。覚えているのは、面と向かってだったのか、メールでのやり取りだったのかは定かではないが、美香ちゃんからの「自分が合宿から帰ってきても、彼は特に嬉しそうな様子もない」という報告と、ぼくが「地元で免許の本試験(教習所の卒検を合格しても、免許センターで学科試験を合格するまでは免許は交付されない)を受けたら川越に戻ってくるから、その時はまた会ってほしい」とお願いをしたこと。彼女の「待ってる」という返事を聞いたぼくは、25日ぶりに里帰りを果たした。

実家に戻ると、すぐに秋田市の免許センターに行って、本試験を受けた。2回目でようやく合格できた。
それから1週間ほど経ったある日のこと。ぼくは幼なじみの健ちゃんと家の近くの沼で、近頃めっきり増えてきたブラックバスを釣っていた。順調に釣果をあげていると、ぼくのケータイの着信音が鳴った。出てみると、カズさんからだった。
「久しぶり。本試験合格した?この前、美香ちゃんに電話したら、『東海林君、まだ東京に来てくれない』って言ってたからさ。早く会いにいってあげなきゃ」
そうだ。彼女を待たしたままだった。向こうで何をするかは決めてなかったが、この電話で川越に残しているアパートに3ヶ月ぶりに戻る決心を固めた。
ぼくと美香ちゃんのキューピット役を担ってくれたカズさんだったが、でも、やっぱり、カタギとは言えない人だったようだ。カズさんの電話から2、3日後、今度は合宿の後半、ぼくがなついていた宇崎竜童にそっくりな風貌の川口さんから電話がかかってきた。
「元気にしてる?ところで、東海林君はカズさんとドライブ行ってないよね?」
そういえば、合宿が済んだらみんなでドライブに行こうとか話が出てたな。すっかり忘れてた。
「参加しなくて良かったよ。みんなでカズさんの車でドライブ行ったら衝突事故起こしちゃったんだって。車に乗っていた人たち、その場でカズさんに修理費出せとか言われてカネ巻き上げられちゃったらしいんだよ。あいつ、ホントのクズだから、付き合わない方が良いよ」

川越のアパートに戻って、美香ちゃんと会った。最初はたしか、彼女が彼と住んでいる三鷹駅南口のバーミヤン。この前、たまたま駅の前を通りがかったら、まだ店があったので驚いた。それから、立川の公園。あれは昭和記念公園だったのだろうか。二人でボートに乗ったら土砂降りになったことを覚えている。その後、服を乾かすためラブホテルに入ろうとせがむぼくを彼女がたしなめるというやり取りが何回かあったはずだ。
合宿の最後の方の会話と同様、二人の口は重かった。付き合ってほしいと訴えるぼくに、美香ちゃんはなかなか首を縦に振らなかった。彼に対してはもう好きという感情はなく、合宿から戻ってきてからもセックスはしてないという。ただ、やはり、5年も同棲しているので情があると。
そんな彼女にぼくは覚悟を見せる必要があった。2003年7月、ぼくは川越の隣町、鶴ヶ島にある精密機械を製造している会社に入社した。子どもの頃には思っても見なかった、サラリーマンの道を選んだのだ。ぼくが入ったのは、電子基板の検査する部署。一日8時間、顕微鏡とにらめっこしている仕事だ。
すべては彼女のためというと、ウソになる。芸人になることはもう諦めていたが、まだ何かを表現する仕事に就きたいという気持ちは残っていた。でも、彼女と付き合うためにはすぐにでも固定収入を確保しなければと思ったのだ。
ぼくの覚悟が通じたのか、美香ちゃんは彼と別れる決心をし、二人は晴れて付き合うことになる。ぼくにとって初めてできた彼女。美香ちゃんはしばらく大宮の伯父さん夫婦の家で暮らすという。
美香ちゃんが、彼と共通の友達から聞いた話では、めったに自分の感情を表に出さない彼が、美香ちゃんと別れることになって泣いたそうだ。

合宿所の川原で、美香ちゃんに口でしてもらってから数週間後のある晩、いよいよ童貞を卒業する時が訪れた。場所はぼくの川越のアパート。それにしても、合宿免許に入ってからこの日までひと月ちょっとしか経っていないのに、我ながらいろいろ動いていたなあ。
普段はロフトで寝ていたが、その時は床に布団を敷いて行なった。初めて生で見る女性器は、みうらじゅんさんの言うように「手に負えない」様子をしていた。前戯を一通り終え、あとは挿入を残すのみの段階になった。その前にぼくには白状しなければならないことがあった。
「実は初めてなんだけど」
「でも、前に2、3人と付き合ったことがあるって」
「ウソなんだよ・・・」
辛い告白だったが、それを聞いた彼女は積極的にぼくをリードしてくれるようになった。「そこは、おしり。うん、そこ」と彼女の導くまま、ぼくは、入れた。
童貞喪失を果たした感想は、「思ってたより気持ちよくなかった」。さすがに痛くはなかったが、入っているのかさえ曖昧な感覚。中1の時、初めてオナニーしたときは頭の中で白が爆発したが、そんなこともなかった。たしか最初の挿入時はイカなかったと思う。
それでも、二度、三度、挿入を繰り返すうちに気持ちよくなり、すっかりぼくはセックスの虜になっていった。シャワーを浴びにいった彼女を追いかけ、風呂場でまたおっぱじめるといった具合に。
「エッチするために私と付き合ったの?」
彼女の問いに、ぼくは「違うよ」と言い返すのがやっとだった。
 
 
当時住んでいたアパートの間取り。この、的場駅から霞ヶ関駅からも利用可能な部屋でぼくは童貞を喪失した
 
 
第一部完(第二部「川越〜井荻編」へと続く)

 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年5月8日号-

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