杉江松恋の「違う方向に努力する」VOL.5


杉江松恋
(第11号で「10年、20年、30年経っても楽しく遊んでいられるライターでいたい。それだけなんだ」を執筆)

 
 
 
4月23日(火)
体調最悪なのだが、極秘進行中のプロジェクトのため都内某所へ。
打ち合わせを1時間半ほどした後、別の場所でさらに2時間。
その後は即行で帰宅し、就寝。無理をしたせいでさらに体調は悪化。

 
4月24日(水)
就寝中にメールが入っている。「水道橋博士のメルマ旬報に関するもので、一通は発行人の水道橋博士から、もう一通は編集人の原カント君から。お二人とも、体調が悪いなら原稿落としてもいいのよ、現に一人もう今回は休載してるのよ、と寛大に言ってくださっている。だが、そう言われるとなおさら落としたくなくなるのがへそ曲がりなライター魂というものなのである。
以前、居丈高にものを言う癖のある編集者と仕事をしていた時期があって、その連載自体が嫌になってしまった。結局その人物は編集部を止めてフリーになったか、別のところに転職したかで消息を知らないのだが、できればもうお会いしたくないものである。
原カント君のメールには前夜の午前0時をもって落ちます、はい、落ちました、みたいなことが書いてあったのだが、ごそごそと起き出し、文字通り歯を食いしばって書く。また、こういうときに限って書きたいことが次から次に浮かんでくるのであった。1時間ちょっとで4千字くらい書き、送信。メールには「もう間に合わないかもしれないのですが、駄目元でお送りします」と書いた。落とされても文句は言いません、との構えである。そのまま布団に戻ってまた朽木のように眠りに落ちる。起きて確認すると「特例で認める」「本来はコロスところだがユルス」(いずれも大意)というメールが戻ってきていた。実にスマンコッテス。
 

 
 
4月25日(木)
なんとか起きられるようになったので、たまりにたまっていたメールを次々に返し、懸案の仕事に戻る。名づけて「ProjectTKD55」、原稿用紙換算でだいたい220枚ぐらいの原稿を翌日までに入れなければならないのだが、書き散らしたものはまだ全然まとまっていない。220枚という原稿量は決して多くないのだが、どういう風に手をつけたらいいのか考えが一向にまとまらない。ついばむようにしていろんなところを触っては放し、かじっては捨て、しているうちに期限がきてしまったのである。しまったのである、って編集者もたまったもんじゃない。
そんな状態なのに外出。以前から決まっている「GINGER L」の定期対談のためだ。藤田香織氏と2冊ずつ課題作を出し合って話すという書評対談である。藤田さんとはまったく意見が違うので、話していてもおもしろい。終了後、一目散に帰宅して原稿に戻る。しかし、まったく形にならなかった。本格的にまずい。
苦悶の結果、なんとか2本、8枚だけ書けた。
twitterに「TKD55Project 8/220 進捗率3.63%」とだけ記す。23時49分。先は長い。

 
4月26日(金)
〆切日だが、もちろんしめきりのし、にも辿り着いていない状況である。編集者とは前日に相談し、とにかく連休の合間の30日までにできるだけ進もうという話になった。そしてこぼれた分は2日までに拾うということに。いよいよ待ったなし。非常事態に入る。
ということでこの日以降はパソコンの前にかじりついて原稿を書く以外のことはほとんど何もしていない。状況を再びツイートで追ってみる。

「TKD55Project 16/220 進捗率7.27%」posted at 02:26:21 
「TKD55Project 20/220 進捗率9.09% なんとか半日で20枚は書けた。できれば今日は30枚は書けますように。少し寝ます」posted at 04:14:14
「TKD55Project 28/220 進捗率12.72%。やっと10%を超えられた。7時に起きて朝食を済ませ、それから今までに8枚書いている。なかなかいいペースだ」posted at 10:17:00
「TKD55Project 36/220 進捗率16.36%。一時間しか寝てなくてさすがにしんどいので、ちょっと仮眠します。起きたら図書館に行ってくる」posted at 13:05:44
「予定よりも1時間長く寝てしまった。今から打ち合わせのために外出。 TKD55Project 40/220 進捗率18.18%。意外と進まない。焦るなあせるな」posted at 18:45:46 

焦るなあせるな、と言っているがこの状況を見たら編集者は焦るだろう。この「打ち合わせ」は「翻訳ミステリー大賞贈賞式」の反省会のこと。新宿で話し合いをした後、1時間程度会食をして帰った。
この日の出来高、原稿用紙32枚。

 
4月27日(土)
この日も原稿を書く以外のことは何もしていない。前日の反省で、さすがに少しまとまって眠らないと駄目だとわかった。5時間程度は寝ているはずだ。

「TKD55Project 48/220 進捗率21.81%」posted at 08:57:36
「TKD55Project 56/220 進捗率25.45%。なんとか1/4は終わった。まだまだー。図書館いってきます」posted at 13:20:31
「TKD55Project 64/220 進捗率29.09%。左耳が妙に痛いのだが気にしない気にしない」posted at 19:06:18
「すごく具合が悪くなってきたので、一時間半ほど仮眠します。目が覚めたら元気になってますように」posted at 19:31:10

ここで仮眠をしたらしく、次は日をまたいでのツイートになる。

「TKD55Project 72/220 進捗率32.72%。あー、ようやく3割を超えた。まだまだ先は長いが、ペースができてきた気がする」posted at 02:47:12 
「珍しく頭を使って糖分を消費しているせいなのか、ものすごい勢いで腹が減る。本当は夜だし駄目なのだが、非常事態につき仕方ない。そう言い訳してリッツ食べてます」posted at 03:49:40 
「TKD55Project 80/220 進捗率36.36%。なんとか1日40枚書くというノルマをこなせた。これをあと2日やったら、なんとか終わりが見えてくるのではないか。子供とちょっとは遊べるかも、ととらぬたぬきのなんとやら。少し仮眠します」posted at 06:29:53

日付は変わったが、ここで私の27日は終わった。
この日の出来高、原稿用紙40枚。

 
4月28日(日)
この日は調べなければならないことが多く、日中はまったく原稿が進んでいない。昼ごろに目覚めて原稿書きに復帰しているが、その後進捗に関するツイートは夕刻までないのだ。
「TKD55Project 88/220 進捗率40.00%。よし、4割いった!」posted at 18:56:23
「TKD55Project 96/220 進捗率43.63%。進行が遅いように見えると思うが、重要なところを書いているからでサボっているわけではない」posted at 04:05:03

これはそのとおりで、調べなければいけないことが山積みの個所を書いていたのである。ここで手を抜くと後がたいへんなので、苦労した甲斐はあった。

「名古屋モーニングのことを書いて原稿いっちょあがり、続いて次の原稿なのだが、でもその前に(アド街ック天国風に)」posted at 07:11:12

「その前に」何をしていたのかというと、たぶんこの「違う方向に努力する」の前回の原稿を書いていたのである。またもやギリギリで本当に申し訳ありません。

「うし。元の原稿に戻ろう」posted at 08:28:01
「このまま図書館が開く10時まで原稿を書き続けて、資料の交換をしたら正午まで1時間半眠ろう。そうしようそうしよう」posted at 08:29:33

図書館で原稿に必要な資料を借りているのだが、一度に借りられるのが20冊までなので、返しては借り、返しては借り、ということをしていた。図書館が空く時間に合わせてこの辺は生活している。だからここで私の28日は終わりである。
この日の出来高、原稿用紙16枚。ペースが落ちている。

 
4月29日(月)
目を覚まして、こんなツイートをしている。前の日から止まっていた原稿が少し上がったようだ。

「TKD55Project 104/220 進捗率47.27%。「はっこね、はっちりーは(素に戻って)馬でも越すが」中条きよしの声でお読みください」posted at 11:14:34

何を言っているかとお思いでしょうが、これは「必殺仕舞人」のナレーションの真似をしているのである。そんなのわからないって、まあ、そうでしょうね。

「杉江松恋の「違う方向に努力する」VOL.4 http://www.repo-zine.com/archives/6008 先週は休んでしまって申し訳ありませんでした! 原稿書き下ろし非常態勢につき、今回はダイジェスト版でお送りします。しかし2週間分なので情報量は倍という」posted at 11:17:42
「TKD55Project 112/220 進捗率50.90%。あー、ようやく半分を過ぎた。まだまだ先は長いけど」posted at 02:19:24
「TKD55Project 120/220 進捗度54.54%。ようやく半分超えました。あと100枚か。うひー」posted at 06:17:26

ここでツイートが途絶える。どうやら眠ったらしい。
そんなわけでこの日の出来高、原稿用紙24枚。約束の刻限までに書けたのは全体の半分だったということになる。さて、次の死線までに間に合わせることはできるのだろうか。

今週の「違う方向に努力する」は「書き下ろしをがんばる」だった。twitterに進捗を書き込んでいくのは、ちゃんと仕事しています、ということを編集者に見てもらう意図もあるのだが、自分のお尻をたたく目的のほうが大きい。「進捗率12.72%。まだ全然だ、全然なんだよ!」とか、「進捗率69.09%。あともう少しだよ」とか、報告しながら自分を励ましているのである。世の中にはそういうことをせずに面かぶりクロールのように没頭したほうが仕事は進むという人もいると思う。故・中島らも氏がそうで、原稿用紙に向かったら、次はその原稿が書きあがったところをイメージし、ひたすらそこに向かって進む、というような意味のことを書いていた。その没頭の仕方は素晴らしいのだが、集中力に自信がない私の場合、「原稿が書きあがったところをイメージしながら、いつまでも白昼夢の中で遊んでいる」というようなことにもなりかねない。自分自身を馬に見立て、その上で鞭を振るっている騎手を第二の自分として想定する。そんな感じで私は長めの原稿を書いているのである。
同業者諸氏は、どんなやり方で自分を奮い立たせているのでしょうか。よかったら教えてくださいな。

今週もスケッチはなし。余裕がありませんでした。

 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
-ヒビレポ 2013年5月6日号-

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