昭和歌謡宅急便 Ⅱ  〜重箱の隅つつき隊〜 第7回


男と女の修羅場についての一考察

田中 稲
(第11号で「大阪から来た女」執筆)
 
 
 

さて、みなさん。恋の「修羅場」を体験したことはありますか?
私はないです。ちぇっ。
しかし、恋多き友人のドロ沼恋愛話をほぉぉ、へぇぇ、と聞いたことはございます。
彼に束縛され続け、手帳を覗かれ、ケータイを割られ、最終的には別の男性に心の拠り所を求め、それが彼にバレてコロスのなんのと大騒ぎになった、というディープな体験談に度胆を抜かれました。

「誠実で真面目な人を選びなさい。激しい恋愛なんて心がすさむだけ……」

と痩せた頬を歪ませ、私にそうアドバイスしてくれた彼女はすごく美しく見えました。
いつ覚えたのか、鞄からメンソールをおもむろに出し、髪をかきあげ慣れた手つきで煙をくゆらせるその姿。ため息交じりに時折遠くに泳がせるその視線。

なんと色っぽいのか! うおおぉぉぉ羨ましい(←ハンカチ噛み噛み)!!

なんちゅうんでしょうか。地獄を見た人にしか出せない艶と達観の空気。
欲しい。私もそれが欲しい! 抑えても溢れ出る退廃の色気が!
しかし、煙草は即効でお腹がユルくなるので吸えん。くっそぅ。せめて修羅場を味わうべきか。いや、正直性格的にそういう資質はまるっきりナッシング。でも、だからこそ憧れる深く暗い恋の穴への堕落。 きっとそこは刺激と猥雑のるつぼ。そして女の艶を一気に増強させる禁断の媚薬の隠し場所……。
 

 
 
世に言う三大修羅場といえば「浮気相手に直談判」「不倫の現場に乗り込む」「三角関係で3人が鉢合わせ」でしょう。

いやー、三角関係に関しては、憧れが募りますねぇ。
ぜひとも体験してみたいのが河合奈保子の「けんかをやめて」状態であります。
とはいえ、あの歌を初めて聞いた時、私はまだ夢見るピュアなド田舎中学生でしたから、ひたすら腹が立ちました。
 

 
 

違うタイプの男を二股かけて弄んどきながら、自分を取り合いケンカする男たちに対して
「私のために争わないで」
とのたまうヒロイン!!!

ホントはその状況すら喜んでるんちゃうんかいッ。
はいはい、アンタはモテてますよ、はいはいはい。けっ。
よろしゅーございましたのぅ、二人の男に取り合いされて。ぺぺぺぺ!
 

…まあ、ここまでヤサグれ聞いていたかは別として、大体そのような「モテ女の自慢」に聞こえムカついたのは事実でございます。
ところが、40過ぎた今となっては、ひたすら羨ましく、自分がそのヒロインになり替わり空想を広げる始末。

「なっ、なんだ、君は、僕のイネさんとどういう関係なんだ!」
「君こそなんだ。僕は彼女と結婚を前提にお付き合いしている」
「なにおぅ、イネさんは僕と」
「やめてっ、私のために争わないで。ごめんなさい、私のせいなの」

うあー何この月9ヒロイン的な美味し過ぎる状況。んもう「修羅場」じゃないっすね。逆にパラダーイス!「けんかをやめて」と言いながら口元がホコロんでいる自分が容易に想像できます。体験してみたいわ死ぬまでに一度でいいから(遠い目)。
 
 

しかし、この逆パターンもございます。一人の男を女が取り合う……。
その修羅場のまさに最中を歌ったのが山口百恵の「絶体絶命」。
 

 
 

「別れてほしいの彼と!」
「そんなことはできないわ!」
「愛しているのよ、彼を!」
「私も同じよッ!ムキ―ッ!」

一歩も譲らない女二人。しかも場所はカフェ! むーん、周りの目が気にならんのかいッ。せめてカラオケボックスとか個室をチョイスすべきだとは思うのですが、時代が時代なのでボックスは存在せず、恥もかき捨てての直談判となっており、ものっすごい漂う緊張感。

しかも、遅れて到着する「カレ」。二股かけている、とんでもねー野郎です。シビレを切らした女は

「さあさあさあ、カタをつけてよ! どっちを選ぶの!」

と男に迫ります。あわわわわ。
きっとカフェの店員やら周りの客も、この時点ではもう3人の異様な空気に気づき、茶を飲むフリしながらガン見してるに違いありません。私なら絶対見る!

で、逃げ場をなくしたこの男が呟いた言葉がビックリ仰天。

「二人とも愛してる」

てめーは石田純一か!

…とはいえ、よーくよーく考えると、この時点で(しかもカフェで)1人を選ぶのも残酷っちゃあ残酷。
男も良い人だったのかもしれません。難しいものです、両天秤からの本命チョイスは。。
 
 

さて、なんだかんだいいつつ、これらの「三角関係修羅場」は〝一人に絞る″事で解決されるので、ランクで言えばまだまだCレベル程度のディープさと言えましょう。

一番恐ろしいAランクは、「ふった相手、裏切った相手に殺されそうになるor殺される」。そしてBランクの「ストーキングされる」も忘れてはいけないでしょう。
 

そこで聞いて頂きたいのが操洋子さんの名曲、いや、迷曲「お願い入れて」。
ジャケットに映る妖艶な微笑み。「操」という名字。そして「入れて」という単語に
「んむむむ!昭和のエロソングか!」
と鼻息を荒くしたそこのあなた。残念っ。
 

 
 

「お願い、入れて……」

冒頭に響く深く低い囁き。さあさあさあ、セクシーな展開が続くか! うおりゃドーンと来いッ。
ところが次に続く歌詞といえば。

「お部屋の中に」。

どうやら彼女は雨の中元カレもしくは片想いの相手の家に「一目会いたくて来ちゃった。うふっ」と訪ねてきたらしいのですが、相手の反応が尋常じゃないのです。頑なに扉を開けようとせんのですわ。
ムチャクチャ嫌われてるじゃないっすか(汗)。

「私を追いかえさないで…」
「お願い私を(部屋に)入れてぇぇ」
「とにかく(扉を)開けてえぇぇ」

ハスキーかつ地の這うような声で、しかもだんだん語調が強くなっていくので余計おっとろしい。
さらにBGMのところどころに「ピンポンピンポンピンポン!!!」チャイムの連打の音までが。
ひいぃぃ。ストーキングってますね、あなた!

この歌、3分ちょっとの尺でして、結局締め出されたまま終わるのですが、きっと5分の猶予があれば

「ガチャガチャガチャ!(←ドアノブを荒く回す音)バキッ!(←何かが壊れた音)」
「♪お願い〜私を怒らせないでえぇ グサッ!(←刃物が食い込む音)」

ってな風に、110番が必要な展開になっていたに違いありません。
 

いやはや。誰か一人を取り合う程度ならともかく、殺意と執念が芽生えてしまった恋の修羅場は危険。軽々しく「一度味わってみたーい」などと口にしてはいけない茨の道なのであります。きっと。

じゃあ、こういうのはどうでしょう! 
もう失う物は何もない、刺されて死んでも構わないくらいの年齢、つまり寿命が近くなった頃「なんでもありの危険かつ情熱的な恋」をすればいいのではないかしら。

ということは、仕事もリタイアした後の60歳〜80歳くらいかなあ。
うあ〜、なんか人生最後のヤケッパチもしくは乱れ咲きとか言われそうで悲しいわ。そもそも体力気力共に続くかどうか(妄想にキリがないので以下略…)。
 
 
 

-ヒビレポ 2013年5月14日号-

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