昭和歌謡宅急便 Ⅱ  〜重箱の隅つつき隊〜 第8回


思い詰めた女が取る異常な行動についての一考察

田中 稲
(第11号で「大阪から来た女」執筆)
 
 
 

さて、みなさん。己を見失いイケナイ行動に駆られたことがありますか。
私はあります。許されぬ行為と知っていながら、何度となく繰り返してしまった罪深き悪戯。こんなことをするなんて、いつもの私の性格からは絶対考えられない!
叶わぬ恋は人を狂わせるのですよね(遠い目)。

私の背負いし十字架、とりあえず退屈しのぎにお聞きくださいませ……。

私の心に恋の蕾が花咲き始めた学生時代は、ケータイだのスマホだの、
「好きな人宛てに電話をかければその当人が確実に出る」
という便利なツールなど一般化しとらん時代。

好きな人に連絡を取る方法はたった一択「家電話」。クーッ。これが精神的に漬物石がドッカンドッカン乗るくらいの重圧感を伴うのであります。

だってかなり高い確率で、オッカサンが出るだでーー(泣)!!!
 

 

しかーし。恋をする乙女の心は先走るもの。
声を聞き隊、誘い隊。あわよくば告白し隊……。とにかく恋心のいろんな部隊が心の中でブンチャカブンチャカ行進しまくり、友人からカレの電話番号をゲットした私は

「ええいッ」

電話を手に取り、勇気を出して掛けるまでは無事ミッション遂行をしたのですが。

「はい〇○」

オッカサンの声がした途端ガッチャン。切っちゃうワケですね。ええ。

ぬあーん。おふくろさんよ、おふくろさんっ。お願いだからアナタが出ないでカレが出てッ。いや、もしかして今度はカレが電話の前を偶然通過し、出るかもしれん!そんな風に都合の良い妄想を馳せながら、10分も経たないうちにもう一度受話器を取ってしまう私(我ながら怖い〜)。

で、やっぱりオッカサンが出てガッチャン。
私はこれを何日繰り返したことか。酷い時などはワン切りも何度か連発。
きっと私の電話は、カレの家庭で「変態からのイタズラ電話」と不気味がられていたことでしょう。

嗚呼、違うのです、〇○くん、〇○くんのオッカサン!
恋するあまりの戸惑い切りだったのです。お騒がせしてすいませんでしたあぁぁぁ。
ナンバーディスプレイが普及して無くてよかったあぁぁぁ。

いやはや、まあ、この程度の甘酸っぱい片恋の軽犯罪は誰も覚えがある事でしょう(あるかい!)。ところが、昭和歌謡の世界では、思い詰めた女が取る行動のえげつなさはこんなものではありません。中には男の人生を台無しにしてしまう者も多々あります。

まず一曲目。もし「あーこれ俺もやられた事あるわ―」という人がいたらある意味人生の達人ッ。アリスの「帰らざる日々」。

 
 

 
 

題名の「帰らざる」が全てを物語ってますが、あえて説明いたしますと。
歌のヒロインが、自殺するまさにドンピシャその時を歌っておるのです(ぞぞぞぞ)。
これ、同名映画の主題歌らしいですね。もしかして映画設定に合わせたのかも。それを併せて考えても余りある、トラウマ必至な風景に気持ちがどよ〜ん。

なんとヒロインは薬(睡眠薬?)を飲んだ直後「あなたの声を聴きながら死ねればもう思い残すことはない」と恋人に電話するというド迷惑過ぎる行為実践中。やーめーなーさーい(汗)。

だんだん意識がモーロ―となりながら

「何か話さなきゃいけないと分かってはいるけれど楽しい日々が回っているわ…」
「あなたの声が遠ざかる こんなに安らかに…」
「バイバイバイバイバイ……」

と己の人生の走馬灯と彼との愛にウットリ浸る「意外にまだ余裕あるやんけ」なヒロイン。
しかも「さよなら」ではなく「バイバイ」。軽いっ。
電話口の向こうのカレは引いとる。絶対に引いとるぞっ!!

アリスは、こういうディープな病み系の女の歌がけっこう多いのですね。
「涙の誓い」は

 
 

 
 

「泣きながらすがりついたら終わるような恋じゃなかったわ」
「もう二度と夢は追わないわ」

と失恋にこれでもかと絶望する自己陶酔女が主人公なのですが、この女、グッサーと手首に傷跡が入っておるという設定。いだだだだ。ダメよ、彼にフラれたからって全人生否定しちゃ。趣味とか仕事とか他の生きがいを見つけなさいッ。と私は誰に説教しているのか!

もう一曲。由紀さおりの「手紙」。
これ、さおり様の素晴らしく耳触りのシルキーボイスで、ついサラリンと何の疑問もなく聞き流してしまいがちですが、作詞がなかにし礼だけあって、ヒロインの性格は一筋縄ではいきません。

 
 

 
 

夫婦だか、同棲中の恋人だかとすれ違いが続いたんでしょうね。
で、女は1人別れる決意をした、と。
でで、カレがいない間に別れの手紙を置いて出て行こうとしてる…というような背景だと思われます。きっと。

しかしこの女、フツーに家を出るだけでは収まりません。
行動力ハンパ無いっス。

・二人で育てた小鳥を逃がす
・二人で描いた絵を燃やす
・二人で飾ったレース(のカーテン)をはずす

お願い、落ち着いてッ。よりにもよって共有の物ばっかり破棄せんでもッ(汗)。
それ以前に二人で描いたという絵の内容が気になる! 合作? お互いの顔を描きあって題名は「LOVE」とか「永遠」とかだったらどうしよう。そんなことするカップル嫌だなぁ。そりゃ燃やしたくなるわな。

ところが彼女、そんだけ二人の思い出を徹底的に始末する割に、カレに綴った手紙の中身は

「何が悪いのか 今も分からない 誰のせいなのか 今も分からない」。

なーんーじゃーいーそーりゃー(唖然)。

もっすごい不透明な別れの理由に口アングリだ!
そこんとこをハッキリしないで別れると、次も同じ失敗をするぞコレッ。
とことん話し合え。話し合うのだッ、せめて小鳥を逃がす前に! 絵は燃やしてヨシッ。

いやいや、ちょっと待て。それは表向きのセリフであって、
こんだけ共有物を壊すくらいの恨みツラミが彼女には溜まっているのかもしれない。

「うあー腹立つ。もう顔も見るのも嫌。手紙で別れを済ませて、鳥も逃がしちゃえ。ぺぺぺ!」

……。好きと嫌いは背中合わせ。限りなく深い女の業。
男に騙され翻弄されるフリをしつつ、実は女の方が、己が人生のドラマを美しく、そしてドラマティックに輝かせる小道具として上手に男を使っているのかもしれません。

ふっ、決まった…。
 
 
 
 

-ヒビレポ 2013年5月21日号-

Share on Facebook

タグ: Written by