白と黒の報告書 第9回

ヘンな本あります

木村カナ(レポ編集スタッフ)

パンダと覚せい剤

長年、ずーっと気になっていた本を、ようやく入手した。

『パンダと覚せい剤』。

タイトルからもう強烈すぎるでしょ!?

雑誌やウェブのコラムでその存在を知り、いつか読んでみたいものだと思っていたこの本。いつかっていつ読むの? パンダについて毎週、書き綴っている今でしょ!(流行語)ということで、「日本の古本屋」で探して、ついに購入してしまった。とある古書店の通販サイトでは「変本・珍本・あぶく本」にカテゴリー登録されていたりするこの本、すでにちょっとした稀覯本になっているらしく……?定価よりも古書価がだいぶ高くなっている。

パンダと覚せい剤裏表紙には悪人顔のパンダが!

この裏表紙のパンダの絵を見たら、まさか、パンダが覚せい剤をやっている事実を暴いた本なのか!?と一瞬、思ってしまいかねないのだが、帯の紹介文からわかるように、そうではなくて……。

というか、本の中には、パンダはほとんどまったく登場しない。

本書は、ランラン・カンカン来日によるパンダブームの前後、軽い気持ちで覚せい剤に手を出し、さんざんな浪費をしてしまった主人公の青年が、警察署の留置場でアイデアを得た「パンダ焼」によって更生し、家業に復帰するまでを描いた、ノンフィクションノベルなのである。

実体験の小説化に際して、人名などの固有名詞は仮名にし、一部フィクションも交えてある、との但し書きが付けられているのだが、地名や建物名はそのままで、昭和40年代の上野~浅草周辺のアンダーグラウンドな雰囲気がビリビリ伝わってくる。そして、いかにも実録らしく、唐突に展開していくストーリー、その随所に添えられたマンガチックなさしえが、なんとも味わい深い。特に、いくらなんでも下手すぎる、変てこなパンダの絵には思わず笑ってしまった、笑うしかなかった……!

巻末に付された鹿野琢見弁護士の文章は、主人公「徳川竜二」と著者「さくら隆(りゅう)」が同一人物であることを明かした上で、このように結ばれている。

「希くは、本書が、パンダを愛する人々の共感を呼び、かつ世の害悪である覚せい剤の撲滅に反射的な効果が期待されるならば、著者のみならず、外野席のわたくしにとっても、望外なよろこびである。」

うーん、ずいぶんと無茶なことを。だって、本の中に、パンダ、ちっとも出てこないのに。しかし、まあ、こういう風にまとめるしかなかったんだろうなあ。「パンダ焼」と同様に、この本もパンダブームへの便乗商品だったということなのだろうか、いや、それにしたって、なあ。

さて、上野動物園表門前の名物、桜木亭の「パンダ焼」は、40年近く経った今でも健在、あいかわらずの人気で、「パンダ焼」製造機も絶好調稼動中。

「見てごらんこれがパンダ焼だよ」
「ようこそ夢と希望のパンダ焼」
「パンダ焼」誕生秘話『パンダと覚せい剤』を読んで、今まで何気なく眺めていた「パンダ焼」のキャッチコピーに、実はただならぬ思いがこめられていたことを知った。
「パンダが好きなら、ダメ。ゼッタイ。」
『パンダと覚せい剤』とは、つまり、そういう本だったらしいのだが、今読むと、それにしたってやっぱり、ヘンな本ですよ……。

さくら隆『パンダと覚せい剤』共栄書房、1982年

パンダ焼き&パンダ焼USBメモリーパンダ焼き&パンダ焼USBメモリー。

-ヒビレポ 2013年5月30日号-

Share on Facebook