白と黒の報告書 第11回

人の流れに身をまかせ

木村カナ(レポ編集スタッフ)

5月末、上野動物園のパンダ・シンシンに妊娠の兆候が確認されたとの発表があった。その報道が出た段階で、株式市場においてパンダ関連銘柄(具体的には上野公園近くのレストラン、東天紅と精養軒)の株価が上昇した、とのニュースが……アベノミクスならぬ、パンダダノミクスの効果が早くも、というわけね。

さらに、6月4日火曜日から、シンシンの展示を中止することも発表された。月曜日は上野動物園の休園日。つまり、シンシンの姿が見られるのは6月2日日曜日まで。この日を逃すと、シンシンが妊娠していてさらに出産した場合にはもちろん、実際には妊娠していない偽妊娠だった場合にも、妊娠していなかったことが確認されるまで、シンシンを見ることができなくなる。ということで、行ってきました、6月2日、日曜日の上野動物園に。

午後のパンダ舎前。ゴールデンウィークのような何十分待ちというほどの混み具合ではなかったが、それなりの人出。シンシンとリーリーはすでに屋外放飼場から室内へ移動済み。

リーリーはいつもと同じ、お食事タイム。リーリーはいつもと同じ、お食事タイム。

パンダ舎の観覧路は、入口から出口への一方通行で、3列に分けられている。

最前列は、警備員・飼育係といった動物園スタッフ、報道関係者、それから、体の不自由な人のための優先通路になっている。前列はパンダを近くで見たい人のための通路で、長くは立ち止まらないように、と、警備員さんから拡声器で繰り返し指示される。後列はパンダからは少し遠くなるけど、ゆっくり見たい人のための通路なのであるが、長時間立ち止まっていて、列の動きが妨げられるようだとやっぱり、後ろにお待ちの方がいらっしゃいますので前に進んでください、と誘導される。

パンダをじっくり観察したり写真を撮ったりしたいわたしなんかは、人の流れを止めないように、邪魔にならないように、と気をつけながら、出たり入ったり、観覧路をぐるぐると回遊することになるのであった。

パンダ舎内で通話中。パンダ舎入口に足を踏み入れた途端、メスのシンシンは「定期健康診断中」のためご覧いただけません、とのアナウンス。

えええええー、しばらく展示中止になるシンシンが見たいから来たのに!

ガッカリしながら、シンシンの部屋を見ると、「定期健康診断中です」との看板、そして、なぜか、最前列に座りこんで、携帯電話で通話しているスーツ姿の男性が。おそらくは報道関係者であろう。シンシンいったん見納め、の取材に来たのに、シンシンの姿がないことに困っているのか、それとも、パンダの取材とは別件の電話だったのか……。

後列を行ったり来たりして、リーリーを見ていたら、シンシンの部屋の看板が片付けられ、シンシン登場! 待ってました!

このとき、後列の壁際に集まって、シンシンの様子を注視しつつも、素早く挨拶を交わし合っている一団がいることに気がついた。30~40代の女性が中心。カバンにパンダのマスコットがついていたりする。きっとパンダ好きの常連さんたちに違いない、と直感。シンシンがしばらく見られなくなるこの日、待ち合わせなどしなくても当然のごとく、パンダ舎に集結したのであろう。

しかし、そこで、わたしもパンダが好きで……などと話しかけて、仲間に入っていく勇気はない。

おやつをもらっているシンシン。おやつをもらっているシンシン。

だって人見知りなんだもん……と背中を丸めてシンシンを眺めていたら、観覧路の出口がいきなり、サイン会状態に。

求められるままにサインに応じている男性に見覚えがある……そうだ、「毎日パンダ」管理人の「ぱんだうじ」こと高氏貴博さんだ! 上野動物園に毎日通い続けて撮ったパンダ写真満載の人気ブログ「毎日パンダ」は最近、書籍化された。「休日は一日中パンダ舎にいる」という高氏さんを発見した「毎日パンダ」ファンたちが、持参した本へのサインを続々と頼んでいたのであった。

サイン会のかたわらで、デジカメで背景にパンダを入れた自分撮りを試みている、初老の女性がいることに気がついた。人が背後を横切るので、シャッターを切るタイミングがなかなか合わず、少し困っている様子。動物園に、ひとりで来ているのかな。わたしもひとりだけど。思い切って、シャッター押しましょうか、と声をかけてみた。すみませんお願いします、とカメラを手渡されて、シンシンと一緒に写っている写真をパシャリ。

「ありがとうございました。パンダがねえ、一年は見られなくなっちゃうっていうでしょ、だから見に来たの。ああそうそう、ゾウも見たかったのよね」

そう言い残して彼女は、「ゾウのすむ森」の方へと、立ち去っていった。

シンシン。左奥が産室。シンシン。左奥が産室。

-ヒビレポ 2013年6月13日号-

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