杉江松恋の「違う方向に努力する」VOL.10


杉江松恋
(第11号で「10年、20年、30年経っても楽しく遊んでいられるライターでいたい。それだけなんだ」を執筆)

 
 
 

5月28日(火)
『東海道でしょう!』(幻冬舎文庫)の初校ゲラチェックを済ませ、担当の「おわりに」を書いてメール送付する。書きたいことはいろいろあったのだが、代わりに某小説から引用をして、その文章に心境を代弁してもらうことにした。そのほうが自分らしい気がする。
正午ごろ家を出て電車で地下鉄副都心線・北参道駅にある幻冬舎へ。昔は代々木駅からも千駄ヶ谷駅からも離れていて行きにくい部類に入る会社だったが、この路線ができてだいぶ楽になった。受付で担当編集者ガッキーに原稿を手渡し。少し前に藤田香織氏からも原稿を受け取ったところだという。前日に宅急便で送ればわざわざ出歩かなくていいのだけど、なかなかそう前倒しにはできないのだよね。
このまま何もなければ、7月3日(水)に販売開始である。みなさん、手に取ってみてね。
 

 

幻冬舎からの帰路は徒歩で。てくてく歩いて帰る。
 

 

5月29日(水)
1日まるまる読書に当てられる貴重な日だったので、ついでに図書館でまとめて借りてきた「企画書の書き方本」をいろいろ読む。『東海道でしょう!』も目処がついたし、前から決まっていた次の本もスタートラインにつけないといけない。それをやりながらいよいよ持ち込み企画の開始だ。そのために企画書の書き方を、一から勉強しなおしてみようと思ったのである。

実は数年前にも企画書をまじめに書こうと思って、何冊か持ち込み用の本の勉強をしてみたことがある。そのときにわかったのが、スタートラインにつくために背中を後押しするための本が数多く出版されたのは2000年代の前半までだった、ということである。その後にいわゆる出版不況が本格化して、「どんな本でも持ち込めば出せる」みたいな煽りはやりにくくなっちゃったのかな、という気がする。いや、これは私が知らないだけかもしれませんが。
そのころまでに出た本で有名なのが、元銀行員ということで内幕本を書いて売れた横田濱夫の『しろうとでも一冊本が出せる24の方法』(祥伝社黄金文庫)だ。また読んでみた。内容はおもしろいのだけど、現在ではもうあまり実用性はないかな。目次を見ると「その6 文学賞と司法試験の類似性」(いつまでも受からなければ周囲に迷惑をかける、というお話)などと、文学賞の一発を狙うよりはまず持ち込み、みたいなことが書いてあって首肯できる部分も多い。しかしどちらかといえば「その19 意外に美味しい講演の仕事」「その24 文学賞パーティー潜入日記」みたいな内幕話のほうが多くて、ああ、この人はそういうことを求められていた書き手なんだな、と改めて思わされた。一回や二回文学賞パーティーにもぐり込んだからといって、その印象で文壇話をされてもねえ。
もう一冊、『はじめての著者デビューノート』吉田浩・児玉進(明日香出版社)も読んだが、企画書の書き方が丁寧に指導してあって、比較的参考になった。ページの半分くらいは著者の主宰しているライターグループの紹介に割かれていて、利用するつもりになればそれはそれで役立ちそう。まあ、私は新しいコネクションを作るつもりはないですが。

むしろ参考になったのは、ビジネスマン向けの実用書だった。
富田眞司『採用される!提案書・企画書の書き方』(PHPビジネス新書)は企画書・提案書に必要な3要素7ステップを解説した本である。提案書はその要素・ステップの必要な部分を抜粋したもので、企画書はすべてを網羅したものなんだって。ということは私が書こうとしているのは提案書ということになるのか、ビジネスの慣例としては。でも、まあ、出版界の慣例にしたがって企画書で通すことにします。

この本はなかなかわかりやすかった。
採用される3原則は「シンプルに書く」「わくわくさせるように書く」「飽きさせないように書く」であるとかね。あとは書き方の問題として重要なことを「提案先のニーズをつかんでいること」「お客様からの発想であること」「これからの時代に対応した発想であること」などなどと整理してある。「時代に対応した発想は「カキクケコ」なのだそうだ。カ「感動 心に訴える提案」、キ「危険・危機に対応する提案」、ク「クリーン——環境や情報公開に対応する提案」、ケ「健康——心身の気遣いに対する提案」、コ「高・個——高付加価値と個に対する提案」なのだそうですよ、ご同輩。ちょっと前の本だけど、このアイウエオ作文、じゃなかったカキクケコ提案による企画は、新書などでは今でも主流になっているという気がしますね。

あともう一冊、岡部泉・大橋一彦・藤森達夫『すごい企画書の書き方』(中経出版)も読んだ。これはマーケティングの基礎知識について確認するのに役立ったような気がする。前のヒビレポの連載で、これからのライターがとるべき戦略について書いたことがあるが、それはPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の考え方とも合致していたんだな、と改めて認識した。PPMとは自社の製品を、市場成長率と市場占有率のマトリクスで分析し、花形製品・金のなる木・問題児・負け犬に分類して以降の戦略を決定するというものだ。市場成長率(紙媒体・ネット媒体)と市場占有率(今やっているジャンルの原稿・これから参入したいジャンルの原稿)という風に分けて考えれば、ライターの仕事も立派にPPM分析可能なんじゃないですこと奥様! などと考えながら読む。

書いていて思ったのだが、企画書を書こうと思ったら、一ライターの成功例というレアケースを参考にするよりも、一般ビジネス書に学んだほうが確実なのは当然なのだよね。だって出版もビジネスなのだから。ということはそういうマーケティング理論で出版戦略を考える本があったらいいのでは……と思ったが、それはもう勝間和代氏が『「有名人」になるということ』(ディスカヴァー携書)に書いているのであった。しかしあれは「自らが有名人化して、その価値で本も売る」というビジネス形態の指南書だったので、別のありようはあるかも。これは一考の余地ありですね。出版社のみなさん、よかったら新書形式とかで私とやりませんか?

などと売り込みをしつつ読書に明け暮れた一日であった。あ、エキレビに1本原稿送ったか。
 
 

5月30日(木)
夕刻より池袋コミュニティカレッジにて講座。この日の課題は、道満晴明『ニッケルオデオン緑』(IKKIコミックス)の収録作を一篇ずつ担当して、ノベライズしてくることだった。『ニッケルオデオン緑』は8ページずつの独立した短篇が入っている作品集で、それを原稿用紙10枚程度にまとめてくるわけである。目的は作者がコマ割をした意図を考えて、その流れを文章で表現すること。ここで人物のバストショットが出てくるのはなぜかを考えるのはある程度考えればできるが、文章でそれが「バストショット」であることを表現するのは大変だ。私は一応やりかたを考えてあったのだが、それはあえて言わず、受講生それぞれが自分で考えるに任せた。出来はともかく、そういう技巧を試すことに意味があるわけです。
 
 

5月31日(金)
またもや夕刻から密談。新しいビジネスでこういうことはできませんかねーみたいなお話を都内某所で行った。詳しくは書けません、すいません。終了後、同席していた編集Cとさらに密談。いろいろ話してちょっと飲む。
 
 

6月1日(土)
京都在住の千野帽子さんが来京されていたので、豊崎由美さんにお声がけいただき、都内某所にて飲む。他には朝倉かすみさん、峰なゆかさん、遅れてアライユキコさん、米光一成さんなど。峰さんの『アラサーちゃん 無修正版』は売れに売れていて、今度は都内のJR駅に広告看板が出るのだとか。おお、すごい。あやかりたいものである。さまざまなよしなしごとを話したが、酔っ払ってすべて忘れる。米光さんに一件、進行中の企画の件で確認をしたような気がするのだが、したかどうかをすでに忘れているという体たらくなので後日改めてメールすることにする。
 
 

6月2日(日)
完全な休養日。3日連続して人に会ったので疲れました。夜になって慌てて飛び起き、ヒビレポ原稿を送付。またまたすいません。
 
 

6月3日(月)
13時に都内某所某社にて初顔合わせの密談。秋以降の展開についてぼそぼそ話すうちに大きな話に発展してきたので内心おおっと思いつつも、表面上はあくまでも冷静に「では、早急に企画書でご提案させていただきます」とクールに答える。あ、提案するなら提案書か。それは別にどうでもいいが、本当にスケジュールは大丈夫なのか、やれるとしたら何を後回しにしたらいいのか、などと目まぐるしく考える。あまりに考えがまとまらないので、その会社から拙宅まで10キロほど歩いて帰った。提案書は1週間ほどで出す予定。つまりこの原稿を書いている翌日の10日だ。また、ぎりぎりの日曜日に書いています、すいません。

そんなわけで原稿はあまり書かなかったが、将来に向けての準備だけはたくさんした一週間だった。新しい仕事もいくつか決まりそうだし、本腰を入れて動き始めますよ。棚から牡丹餅でいただいた企画だけじゃなくて、ちゃんと自分からの持込もやらないとなあ。

 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
-ヒビレポ 2013年6月10日号-

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