白と黒の報告書 第12回

パンダ本集めてます

木村カナ(レポ編集スタッフ)

梅雨である。雨である。蒸し暑いのである。

第8回にも書いたように、わたしは雨降りが苦手だ。それなのに、バイトが立てこんでいて、なんだかやたらと忙しい。家から歩いていける距離なのに、上野動物園にちっとも行けやしない……! その上、シンシン出産間近か、さもなければ偽妊娠なのか、と、ずっとカウントダウンが続いている状況である。産まれるのか産まれないのかと気が気ではない。

しかし、雨が降ろうと、忙しかろうと、上野動物園に見に行けなかろうと、パンダのことはいつも頭のどこかにはあるし、書きたいことはいくらでもあるのだ。

先日、『デイリーポータルZ』に掲載された、西村まさゆき「むかしの『少年写真ニュース』がなつかしくておもしろい」を興味深く読んでいたら、こんな記述を見つけた。

「パンダの記事は、カンカンとランランが来日した1972年の記事だ。表記がジャイアントパンダではなく、オオパンダとなっていて、なぜそうなのかがわからない。当時はオオパンダという呼び方も一般的にあったのだろうか?」

……俺のパンダライブラリーが火を吹くときが来たかッ!?

パンダ好きになって以来、パンダの本やグッズを少しずつ集めている。本については、『メルレポ』2012年8月23日号にも書いたように、古本屋でバイトしているので、とっくに絶版になっているような本や雑誌でも、わりと入手しやすい。さらに、日頃からパンダ好きを公言してはばからないため、パンダ文献情報を教えてもらえたり、取り置きしてもらえたり、プレゼントしてくれる人がいたりもするのですよ。実にありがたいことです。その結果として蓄積された我がパンダライブラリーから、文献調査としてはまったく不十分ではあるが、「オオパンダ」という呼び方が使われている実例を3冊、挙げていきたい。

まずは、香山滋の長篇秘境冒険小説「ソロモンの桃」。

手元にある『香山滋全集』第2巻(三一書房、1994年)の解題によれば、『宝石』昭和23年9月号より昭和24年5月号までの連載が初出で、「おそらく日本では初めて小説で紹介されるパンダ熊」とある。1972(昭和47)年のランランカンカン来日によりもずいぶん前に、ジャイアントパンダを登場させている日本の小説があったのだ!

「この大パンダ熊というものを御存じの方は極めて稀であろうと思うから一寸御紹介して置きたい。大パンダは熊位いの大きさで、淡黄色と焦茶色の毛を有する珍奇な哺乳類である。一般に、動物の色彩というものは、背の色が濃くて腹の方が淡いのを通則とするに拘らず、大パンダ熊ではそれが逆だ。そして、頭は綺麗な黄色を呈するが、耳と目の周囲だけが、黒色で濃く、まるで玩具の熊のような愛らしい風貌である。」

ここで描写されている「大パンダ熊」の外見の特徴はまさしくジャイアントパンダ。「大パンダ(熊)」が出てくるのはプロローグ、エピローグでは「パンダ熊の子供(ベビー)」も登場する。

しかし、主人公が沙漠で「神秘獣」「大パンダ(熊)」の群れの足跡を発見するあたりは……完全にフィクションというか、作者の想像の領域。ジャイアントパンダの、寒冷な高山地帯に単独で暮らし、タケ・ササを主食とする、という生態が、現在ではすでに明らかになっているからね。

家永真幸『パンダ外交』(メディアファクトリー新書、2011年)によれば、ランランカンカン来日以前には、日本人にとってパンダはほぼ未知の動物であり、それどころか、1869年の「発見」から20世紀半ばに至るまでの長い間、世界的にもUMAに等しい存在、秘境に住む謎の珍獣だったという。「パンダ博士」黒柳徹子も、戦前、アメリカ土産にもらったパンダの縫いぐるみの記憶はあっても、1950年代に至り、海外からの情報を得るまでは、そんな模様の動物が実在するとは思っていなかったらしい。

生態については小説的な想像力で書かれた虚構であっても、そういう時代に早くも「大パンダ熊」という動物をとにかく登場させている「ソロモンの桃」って、香山滋って、すごい! この小説を教えてくれた人に、どうして香山滋は「大パンダ(熊)」を知ってたのかな?と質問したら、「動物についての海外の文献をかなり読んでいたみたいだから、それで写真を見たりしたことがあったんじゃないのかな?」と教えてくれた。

小原秀雄『猛獣』2冊目、小原秀雄『猛獣』(朝日新聞社、1968年)。

これはバイト先の古本屋で見つけて購入した。

クマ類他の肉食獣として「オオパンダ」が紹介されている。ホッキョクグマやアラスカヒグマ・ハイイログマなどと一緒に、肉食獣のカテゴリーに入れられてはいるが、「竹林地帯に生息する。主食は竹の葉、筍など。」と書かれている。しかし、その一方で、「野生の生活はほとんどわかっていない」ともある。また「白と黒のぬいぐるみのクマ状で別名イロワケグマ」という定義も。「イロワケグマ」……うーん、とりあえず、見たまんまで呼んでみた、って感じっすねー。なお、「イロワケグマ」以外にもうひとつ、「シロクログマ」という、やはり見たまんまな和名がある。

小野満春『おお パンダ!!』3冊目は小野満春『おお パンダ!!』(翠楊社、1972年)。
ランランカンカン来日後のパンダブームの最中、ジャイアントパンダについての正しい知識を広めるために執筆、刊行されたパンダ啓蒙書だったようだ。

「パンダ、というのは、俗称だという正論がある。正しくは、オオパンダ、ないしはジャイアントパンダである。カタカナでオオパンダとかくのはキザであり、チャンと大パンダと書けという人もあるだろう。
私自身は、ジャイアントパンダと書くのがもっとも妥当だと考えている。[中略]小さなパンダという意味のレッサーパンダが一方にいる以上、体の巨大なもう一方は、正しくはジャイアントパンダとよびわけるのが妥当なのであろう。」
「なおこだわる方がおられるなら、本書の題名は、オオ(大)パンダとも読めますとお答えしておこう。」

この著者の正確性・妥当性へのこだわりにもかかわらず、パンダブーム以降、パンダ=ジャイアントパンダが定着して、正しかったはずの「オオパンダ」の方は、その呼び方に思わず疑問を抱く人がいるくらい、すっかり忘れ去られてしまっている、2013年現在なのでありました。

来週が最終回となるこの「白と黒の報告書」、その公開までに、パンダベビーが無事に・元気に、産まれていますように!

※発売中の『季刊レポ』最新12号に「白と黒の対話篇」を書きました。レポTVとヒビレポ、レポのネット上での活動を紹介しています。パンダは出てきません。
http://www.repo-zine.com/archives/6720

※ジャイアントパンダについての興味深いエッセイ。
イラストは日高トモキチさん!
パンダについてはよくわからないことがまだたくさんあるみたいです。
2013年6月17日「話題の動物たち 第4回『ジャイアントパンダ』」 理科の探検 科学技術 全て伝えます サイエンスポータル / SciencePortal

※来週末にバイト先の古本屋の催事があります。
第5回「古本ワンダーランド」
6月29日(土)30日(日)10:00~18:00
西部古書会館(杉並区高円寺北2-19-9、TEL:03-3339-5255(会期中のみ))
2日間とも、終日、会場にいます。
http://paradis-wl.jugem.jp/

-ヒビレポ 2013年6月19日号-

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