スペインは情熱の国だと、誰かが言った。 第1回


せっかくだし、振り返ってみようかな 編

 
島袋寛之(第8号で「図書館で探りを入れる」執筆)
 
 
 
 現在、帰省中の地元沖縄でこの原稿を書いています。と言ってもほぼ書き終わったものの、冒頭がなんだか気にくわなくて、それを書き足している午前4時前です。今回は取材半分、観光3割、残りは仕事になるかどうかのネタ拾いをしていたわけですが、オートバイに乗って県内各地計300kmほどを無防備に走り回っていたので、日焼けを軽く通り越えてやけどをした腕には水疱ができ始めていて、文字を打つのも苦痛な感じです。それにしても今回は、色々とぼくは忘れてしまっているんだなというのを痛感する帰省になりました。一番大きな目的は「慰霊の日」、その式典への参加だったのですが、ふと湧き上がってくる感情に懐かしさを感じたり、懐かしく思う自分を情けなく思ったり。東京にいる間に失いたくないものまで消えてしまっているのかもしれない、たまには過去の自分や思い出に、ちゃんと向き合うことも必要なのかもな、そんなことを考えました。ああ、明日は7時起きなのに、テレビではコンフェデレーションズカップの「スペイン対ナイジェリア」が始まってしまいました…。
 

 

 もう帰国して5年もたつので、回想といっても思い出せそうにないことも多いのですが、「そういえばスペインに住んでたはずだよなあ、おれ…」と、ふと思い返すのです。街中でもかまわずにやけてしまうような震えるほど楽しい記憶や、郷愁の念にも似た失われていく寂しさを伴って。一言で言えば人生の中で最も楽しかった時間があの2年半だったんじゃないのかなんて、思わずそれっぽいことを言いたくなったりもするのですが、撮りっぱなしになっていていくつかは開かれた形跡すらないフォルダの中の写真データを眺めていると、甘酸っぱかったり、苦かったり甘かったり、それなりにいろいろとよみがえってくるのです。

 なぜスペインなのかとか、何をしてたのかとか様々あるわけですが、そもそもそれまで彼の国には行ったことさえなかったので、なぜかと問われてもモニョモニョ口ごもるばかりです。それでもあの時は、行ったことのないよく知らない国になぜか本気で永住するつもりで、それをまわりに話すと、「へー、いきなり?なんで?なんでスペインなの?」と当然の反応が返ってくるので、そのうちモニョモニョするのもめんどくさくなって、「ガルシア・マルケスとかボルヘスを原語で読みたくて。そのためにはスペイン語が…」やら「南米に住む沖縄県系移民とのネットワークを作りたくて。そのためにはスペイン語が…」などなど、もっともらしい答え(もしくは言い訳)を用意するようになったのですが、移住の答えにはまったくなってないし、いやそれなら南米に行けよという話です。その2つも決して嘘ではないのですが、いちおう一番近い答えを、それこそもっともらしい答えを探してみると、たぶん、子供のころに見たバルセロナオリンピックの番組中に流れるスペインの映像が心に強く残ったから、というのがしっくりくるような気がします。そのころからずっと「あー、ぼくはいずれスペイン人になるんだなあ」と思い続けて、強迫観念みたいに「早くあの場所に行かないと…まずい」と勝手に追い詰められていました。結論から言えばあのオリンピックの時に映し出されていた「スペイン」は、僕の知ってるスペインじゃなかったわけですが。

 一般的なスペインに対するイメージというのはどういうものでしょうか。情熱の国、灼熱の太陽、フラメンコ。サッカーに熱狂的なのも有名だと思いますが、それはひとまずさておいて、あの国をよく知らない人からすれば、だいたいこの3つに集約されていると言っていいのではないかと思います。でも、東京には舞妓さんが歩いていないように、ハワイにも雪が降ったりするように、バルセロナやマドリッドでステレオタイプな「スペイン」を感じることはあまりないのでは。それなら、立ち並ぶ白亜の家に降り注ぐ日差し、家々から漏れ聞こえてくるフラメンコギターの音色。そんな風景がどこにあるのかと言うと、スペインの南端、アンダルシアです。マーシーの「アンダルシアに憧れて」、あのアンダルシアです。その州都であり、イスラム文化のなごりを色濃く残している街セビージャで、ぼくはスペイン生活のほとんどを過ごしました。アフリカ、中東とヨーロッパの間に挟まれてるとも言えるスペインは、その影響を強く受け豊かな文化を生み出す一方で、他の多くの国と同じように領土問題や人種間、民族間問題を抱えていて、北部のバスク地方にはETA(バスク祖国と自由)という名の、これまで何度もテロを起こしてきた地域独立を目指す民族組織があります。そして、2004年の3月には、イラクに派兵したことに対する抗議として、マドリッドのアトーチャ駅を中心に列車を爆破する、イスラム過激派によるテロが発生しました。その直後の総選挙ではそのテロをきっかけにして政権交代がおこり、なんだか国が変わりそうな高揚感がある、ぼくが移り住んだのは、ちょうどそんな頃でした。その過程を近くで見たい。それは、スペインに行きたいもうひとつの理由でした。

 
 
 
-ヒビレポ 2013年7月3日号-

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