「食い物の恨み」は消えず 第14回

魅惑のコロッケ弁当 前編

 
下関マグロ(「池袋の穴」連載中)
 
 
 

 
 
レポやちびレポ発送作業では、折ったり、封筒に入れたりする単純作業のせいだろうか、
ちょっとした話に大笑いしたりする。
僕はもっぱら耳を傾けるほうなのだけれど、霞流一さんや和田静香さんの話はとにかくおもしろい。
無料でこんな話を聞けていいのだろうか思うほどだが、
じゃ、どんな話をしていたのかを家に帰って思い出そうとしても思い出せないことが多い。
そういった人たちの話の切れ目に、えのきどいちろうさんは、そこにいる人に質問を投げかける。
そして、そこから、おもしろい話にふくらませていく。
 

 

えのきどさんの質問は予期していないときにくる。
「マグロさんって、やっぱりマグロ好きなの?」
とふいにきた。僕はおもしろい返しができず、
「いや、好きじゃないです。むしろ嫌いなほうですね」
と、普通の答えをしてしまった。すると、えのきどさんは、驚き、
「それって、山田パンダがパンダを嫌いっていうようなもんでしょ」
と言うと、その場の人たちがどっと笑った。

うーむ、あっているようなあってないような。
とにかくペンネームをつけなくてはならなくて、
一緒に仕事をしていたライターが、
「オレ、トロってペンネームにするよ」
と言ったので、僕もその場で安易に
「じゃ、オレはマグロでいくよ」
と言ったまでだ。

実は、子供の頃、お刺身全般が好きではなかった。
それが少し好きになったのは小学校2年のとき、
学校の講堂で見た「路傍の石」という映画がきっかけだった。

こんな場面だった。父親が晩酌している。
そこに息子の吾一がやってくる。吾一は僕と同じくらいの年齢だったかな。
父親が箸で吾一の口に刺身を入れてやると、実においしそうに食べる。
父親が「うまいか?」と聞くと、「うん」と言うのだ。

そのシーンを見て、刺身というのはおいしいのかもしれない。
そう思うとなんとか食べられるようになった。
けっこう自分という人間の嗜好は雰囲気が大きく影響するのかもしれない。

ところが、その刺身、とくにマグロが再び苦手になる日がくる。
それは、自分がマグロというペンネームをつけて、スキー雑誌の仕事をやっていたときのことだ。
「スキー田舎紀行」という連載をやっていた。
内容は山奥の一般家庭に泊めてもらい、その顛末をレポートするというもの。

ある山奥の家でのこと。
マグロというペンネームをつけているのだから、マグロが好きなのだろうと、
わざわざスーパーでマグロの刺身を買ってきてくれた。

山奥のマグロである。色が変わっていて、鮮度がいいとはいえなかった。
他の家族はマグロを食べないそうで、僕のところに大量のマグロの刺身。
これは食べなければ悪いだろうと、ずんずん食べると、どんどん気持ちが悪くなった。
以来、マグロはあまり好きではない。いや、むしろ嫌いだ。

まあ、そんなことを話すと、
ひと呼吸おき、えのきどさんは
「じゃあ、ご飯のおかずでは何が一番好きなの?」
と聞く。即座に「コロッケ」と答えた。

えぅ、となんだかえのきどさんが変な声を出す。
「だったら、むしろトンカツとかでしょうが」
とえのきどさん。
「いや、トンカツは苦手というか、嫌いなもののひとつですね。肉の脂身がダメなんですよ」
そう言うと、えのきどさんは
「あんたはお公家さんか?」
と言う。またみんながどっと笑う。こうして文章で書いていて、
どうしてどっと笑うのかわからないという人もいるかもしれないが、
最初言ったように、単純作業をやっているから、どっと笑うのだ。
もちろんなんでも笑うわけではない。僕はよくすべっている。
あ、そんなことはどうでもよくて、問題はコロッケだ。
僕にはコロッケがご飯のおかずとして、ナンバーワンだというのが
おかしいなことだということに納得いかなかった。

 

 

コロッケの話は次に続きます。
 
 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
 
-ヒビレポ 2013年7月1日号-

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