白と黒の報告書 最終回

死してしかばね

木村カナ(レポ編集スタッフ)

平日の午後で雨降り、ほとんど人気のない不忍池のほとりを歩いて、上野動物園に向かう。

年間パスポートを買った1月末には冬だった。この連載がはじまった4月のはじめには桜が咲いていた。今はもう6月、水面を覆っている蓮の葉、上野の山の木々はみどり。

雨の中、木の下で黒猫がニャーニャー鳴いていた、呼ばれているみたいだったから近づいた、でも、近づいてったらすぐに逃げてった。

不忍池の黒猫。

そもそも家を出たのがぎりぎり、うーん、間に合うかな? あーあ、やっぱり間に合わなかったか……上野動物園の入園は16:00まで、すでに閉ざされた表門、時計を見ると16:05。リーリーだけでも見たかったんだけどなあ。仕方なく、動物園でパンダを見た後に寄ろうと思っていた、国立科学博物館に足を運んだ。

第2回で言及したカンカンとランラン、第3回で言及したフェイフェイ・ホァンホァン・トントン・リンリン、上野動物園の歴代のパンダたちは、いずれも死後、剥製になって保存されている。

カンカンとランランの剥製は、昔、多摩動物公園で見たことがある。なぜか上野ではなく多摩に、唐突にパンダの剥製が展示されていることに、驚いたのを覚えている。カンカンとランラン以外のパンダの剥製は、国立科学博物館に所蔵されている、って、知ってはいたけれど、わざわざ見に行ったことはなかった。彼らも見ておきたい、と思い立って、この日は上野動物園だけではなく国立科学博物館にも行こう、と心に決めていたのだった。

国立科学博物館の入口のおねえさんに「パンダの剥製があるんですよね……?」とたずねると、「おたずねの多い展示30」というリーフレットを取り出して、パンダのあるところに赤ボールペンでマルをつけて、ていねいに説明してくれた。写真撮影もできるとのこと。

一緒にもらった「国立科学博物館 館内ガイド」を広げてみたところ、日本館が地上3階・地下1階、地球館が地上3階・地下3階、こんなに広くて、こんなにもたくさんの展示があるとは!と思わずびっくり。のんびり眺めていたら、1日中館内にいても、全部見終わらなさそうだ。パンダの剥製がどこにあるのか、めぼしがついていなかったら、とりあえずうろうろしてみた挙げ句、閉館時間までに見つけられなかったかもしれない。きいてみて正解。

奥の地球館の、1階にホァンホァンが、3階にファイフェイとトントンが、展示されていた。

ホァンホァン。ホァンホァン。

フェイフェイとトントン父娘。フェイフェイとトントン父娘。

遠藤秀紀『パンダの死体はよみがえる』(ちくま文庫)を非常に興味深く読んで、パンダをはじめとする動物の遺体を解剖し、研究し、標本として保存することの意義は、十分理解している、つもりだった。しかし、頭ではわかっていても、実物を目の前にすると、剥製になっても、パンダはパンダである、とは思えなかった。いかがわしい観賞用なんかではなくて、学術的に正しく、技術的に高度な、この上なく精巧に作られたものであるはずなのに。生きているパンダとは、顔が違う、目が違う、何かがどこかが決定的に違っている。今にも動き出しそうに見える、でも、決して動かない、動物たち。かつては生きていたけれど、もう二度と動かない、生物たち。ここにずらりと並んでるのって、結局は全部、死体なんだよな、と、なんだかだんだん妙な心地になってきたのだった。こわい、というのとも違う、ざわざわした感じ。

閉館時間の17:00も迫っていたので、パンダの剥製とその周囲と、日本館2階の忠犬ハチ公とカラフト犬ジロの剥製だけを見て、ミュージアムショップに寄って、国立科学博物館をあとにした。他の展示も見たいので、近いうちにまた行こうと思っている。

パンダ本集めてます。パンダブックマーカーは国立科学博物館オリジナル。パンダ本集めてます。
パンダブックマーカーは国立科学博物館オリジナル。

さて。前回・第12回

来週が最終回となるこの「白と黒の報告書」、その公開までに、パンダベビーが無事に・元気に、産まれていますように!

と結んだわけなのですが……6月25日、「シンシンの体の状態から偽妊娠である可能性が高まりました」との発表・報道が。上野動物園では久々の、赤ちゃんパンダ誕生の朗報は、どうやら来年以降になりそう。この連載も今回・第13回でいったん終わりますが、上野動物園のパンダ舎には今後も散歩がてら通いますよ、年間パスポートの有効期限だってまだ半年以上先だし。白と黒のジャイアントパンダの観察と探求を、うまずたゆまず、気長に続けていくつもり。

※ポッドキャスト特別編「ヒラカツ×カナ レポ12号全記事紹介」配信中です。
http://www.repo-zine.com/archives/7061
副編ヒラカツこと平野勝敏さん・レポTV技術ヨシオカこと吉岡信洋さんと、『季刊レポ』12号掲載の各記事について話していって、気がついたら90分超……! すごく暇なときにでも、聴いてみてください。

※今週末、バイト先の古本屋の催事があります。
第5回「古本ワンダーランド」
6月29日(土)30日(日)10:00~18:00
西部古書会館(杉並区高円寺北2-19-9、TEL:03-3339-5255(会期中のみ))
2日間とも、終日、会場にいます。
http://paradis-wl.jugem.jp/

木村カナ Twitter アカウント
https://twitter.com/jasminoides

-ヒビレポ 2013年6月27日号-

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