「食い物の恨み」は消えず 第15回

魅惑のコロッケ弁当 疾風怒濤編

 
下関マグロ(「池袋の穴」連載中)
 
 
 

 
 
「ご飯のおかずは何が好きなの」
という、えのきどいちろうさんの問いかけに対して、
即座にコロッケと答えた僕だけど、
よくよく考えてみたら、それはご飯のおかずというよりも、
弁当のおかずで好きなものだった。
定食屋で食べるコロッケ定食は少し違うかもしれない。

高校生のころのことだ。隣の席に長谷川くんという金持ちの坊ちゃんがいた。
彼の弁当は判で押したように毎日同じだった。
 

 

弁当箱は当時流行っていた楕円形のタッパ。
ご飯部分とおかず部分が7対3くらいに仕切りで分けられている。
おかず部分のいちばん左側にコロッケがあり、
その隣には目玉焼きがあった。そしてそのとなりにはマカロニサラダなどが入っていた。
サラダ部分は毎回少し変わっていたけれど、コロッケと目玉焼きはいつも同じだった。

長谷川くんの弁当にはプラスチックのソース入れが入っている。
彼はこのソースをオカズの上からかけるのではなく、注入するのだ。
ソースのケースの蓋を開け、先っぽをコロッケに突き刺し、
チューチューと中にソースを注入する。
コロッケの見た目はまったく変わらない。
しかし、いままさにコロッケの中身はソースで充満しているのだ。
目玉焼きの黄身の部分にも半分残しておいたソースを同じく注入する。

最初に見たときは、ほっほーと思った。そんな方法があるんだと。
しかし、2日、3日と見ているうちに、自分もやってみたくなってきた。
食べてみたいはもちろんだが、ソースを注入してみたいのだ。
1週間目、とうとう僕は我慢できなくなり、母親に長谷川くんの弁当のことを話した。
「ふーん、そうかね」
と、母親の反応はそっけなかった。
しかし、その数日後、弁当箱も長谷川くんと同じようなものが用意されていた。
僕は、中学から高校の6年間、弁当だったんだけど、
その弁当人生においてもこの日がクライマックスだったろう。

ドキドキしながら、弁当をカバンに入れて、学校に行った。
そして、お昼の時間、こっそり開けてみる。
こっそりなのは、長谷川くんに見られ、
まねっこしていると思われるのが、いやだったからだ。

蓋を開けると、そこにはまさに長谷川くんと同じようなおかずが
同じような場所にあった。ちゃんとソース入れも入っている。

僕はチューチューとソースをコロッケに注入する。
これが、おもしろい。
外側の衣にはソースがつかず、中身だけにソースが混ざるのだ。
食べてみる。実に旨い。

ってなことを書いていると、がぜんコロッケ弁当が食べたくなった。
というわけで、近所のお弁当屋へ。が、ここにきて大問題。
コロッケ弁当がないのだ。
昔は、いくらもあったように思うんだけどなぁ。4軒ほど弁当屋をまわったが、
コロッケ弁当はなかった。

えのきどさんにご飯のおかずで一番好きなのはコロッケと答えて笑われたが、
いまコロッケというのは、メインのおかずにはなりえないのではないか。
それはたとえば、弁当において主役ではないのかもしれない。

ただ、コロッケがないというわけではない。
唐揚げ弁当やメンチカツ弁当の中にサブとしてコロッケが入っている。
でも、それじゃダメなんだ。

5軒目の「ママクック」という弁当屋にも、
やはりコロッケ弁当はメニューになかった。
僕の中のルールではコロッケ弁当以外食べないというものだったのだが、
お腹もすいていたので、ちょっとズルをして、
「あの、コロッケ弁当ください」
と、中のおばちゃんに言ってみた。
「はい、揚げますね」
と、おばちゃん。なんだ、簡単じゃないか。
が、簡単ではなかった。あとからきたお客さんの
弁当はすぐにできるのだけれど、僕のコロッケ弁当はなかなかできない。
3人ほど追い越され、やっと弁当が出てきた。
それがこれ。

 

 

揚げたての熱々。なかなかうまそうだ。これで450円。
で、家に帰ってみて、驚いた。
ソースが入っていたんだけど、
入っていたのは、これ。

 

 

これじゃチューチューできないじゃないか。
どうする自分?

コロッケの話はまだ続きます。

 
 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
 
-ヒビレポ 2013年7月8日号-

Share on Facebook