ヒビムシ 第3回


菊水山:ホタルガ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 

7月4日(木)
 昨日,久しぶりに強烈に雨が降って,さすが梅雨だなと思った.今日も予報は悪いが,まだ降ってはいない.ここまで書いたら,ちょっと徘徊したくなってきた.これって逃避か?

 結局1時間ほど近所をウロついて帰還.すぐ豪雨が来た.しかも今日のは派手な雷鳴つき.ギリギリセーフだ.筆者の家の前はハイキングコースへのアプローチみたいなところ,菊水山への登り口である.ここまで書いたら近くに落雷したのでセーブして中断.

 収まったようなので続きを書こう.というわけで,第三回は「7月4日に,当日の事を書いている」という状況です.

 菊水山への道は平日でも中高年がよく歩いておられる.犬の散歩や,体育会系のランニングも見かける.一応,頂上には三角点があるが,必ずしも登頂が目的ではない人が多いように思う.虫さがし目的の筆者もたいてい途中で引き返している.
 一方で菊水山専門のサークルみたいなのも存在し,記帳して登頂回数をカウントしたり,コースの整備や清掃活動もされているらしい.話してみると数千回だったりするので頭が下がる.今年はケムシが多いなとか,季節の進みがおかしいとか,漠然とした気づきを教えてもらえる.
 自然観察系の人は案外少なく,特定の時期に鳥屋さんが集中的にやってこられる.ちょうど何々が渡ってきているとか,あの声がそうだとか教えてもらうのだが,よく分からない.
 

 

 さて,撮った写真をPCに移動して取捨選択なう.1時間に121コマも撮ってしまった.最初の2コマはアオスジアゲハだったが失敗した.よく見かける蝶だが何しろ素早いのでなかなか撮影の機会がない.今日は路上で吸水中という千載一遇のチャンスだった.しかし十分近寄れず,切れた2コマはピンボケ.これを消去できない私である.

 で,3コマ目からがホタルガ,よく見かける蛾である.今日はたまたまハギの葉に止まっていたので,じっくり角度を考えて撮影することができた.本当は右手前の葉縁を沈めるために,もっと左上に回りたかったのだが,手前に葉があって,これが限度だった.
 3Dには「空間処理」みたいなことが問題になる.2Dの場合の「構図」とはちょっと違うのだ.で,このあと問題の手前の葉をつまみあげて解決しようとしたとたん,気づかれ,飛ばれてしまった.
 このホタルガ,幼虫は毒々しい色彩をしているが,成虫は鮮やかな中に和風(?)の落ち着いた趣がある.…ように思うが,いかがでしょう?
 

ホタルガ(上下とも立体写真。見方は文末に)

 

「蝶は好きだが,蛾は嫌い」という人は多い.なぜそうなのかはそれぞれだろう.本人がそれなりに説明できる場合もあれば,本人もよくわからなかったりする場合もある.
 基本は「蝶は色が綺麗/蛾は暗くて地味で美しくない」ということだろう.また,雰囲気として「ヒラヒラしていて遠くからも存在が明らか/気づいたらそこに止まっててビックリ」的な唐突さが怖いのかもしれない,それは分かる.

 そもそも蛾と蝶の区別は便宜的なものである.「鱗翅目のうち,この科とこの科と…を蝶とし,それ以外は蛾」みたいな後付けの定義しかできないのである.正確に言うと,いわゆる「蝶」に相当する分類単位は存在せず,その意味では俗称である.「蝶類図鑑」と「蛾類図鑑」に収録する分類群を切り分けるためにひねり出した方便にすぎない.セセリチョウ科を蝶であることにして蝶類図鑑に収録するためのコジツケなのだ.
 蝶か蛾か? それにかかわる幾つかの属性としては「昼行性か夜行性か」,「派手か地味か」,「触角が細いか房状か」,「翅を立てて止まるか平たく止まるか」などがあるだろう.それらには相関があって,たいていの種はこの軸の両端にくる.蝶的か,蛾的か,そのどちらかである.中間というのまずない.そんな虫はまず存在しえない.だが完全な逆玉は有り得る.蝶的な蛾,蛾的な蝶は少なくないのだ.

 このように蝶と蛾の区別が便宜的であり,実際に例外が多い以上,「自分はこの虫は好きであり,それは分類上蛾であることと関係ない」「蝶であろうがこの虫はキショイ」というような『気骨のある好き嫌い』があっても良いはずだ,と思う.
 しかし残念なことに,蛾という名前だけで嫌いという人もいる.綺麗な虫だと思っても,蛾だと知った瞬間,嫌いになるのである.なれる,のである.
 虫や何かを怖がったり,嫌がったりする行為を「可愛い」「やさしい」の証拠とみなす環境がある.虫を怖がる我が子を親は喜ぶのである.非難すべき事ではないと分かっている.もともと何かが好きで何かが嫌いというのは,それじたい悪ではない.ただ,蛾だという情報だけで審美眼がオフになるのはもったいない事である.
 をぉ,力説してしまったぞ.次回は「エビは好きでも昆虫食はムリですか?」を書きます(ウソ).

 え〜っと.続いてツユクサの花を撮った.ヒビムシのネタ切れ保障のつもりだったが,結果的にボツ.前々回に言及していた「アシナガバチの肉団子づくり」が撮れたのでこっちを掲載しておこう.こんどのはセグロアシナガバチである.獲物はほぼミンチ状になっているが,よく見ると後脚が原形をとどめており,直翅目(バッタやキリギリスなど)の肉団子だとわかる.昆虫食はムリですか?
 

セグロアシナガバチ

 

 続いてド普通種のマメコガネ,海外に流出して害虫化,「ジャパニーズ・ビートル」として知られているというのが定番の薀蓄で,それは省略《興味のある方はググってください》.
 ごらんのように変な止まり方をしている.コガネムシの類がよくやるやつで,後脚を高く掲げるのである.威嚇なのか,落下しやすい体勢を作っているのか,形を虫らしくなくしているのか,どういう効果があるのかよくわからないのだが.
 あとお尻(尾節板)の白い点は前後を偽装している感じ.たぶん虫を見てる人はみんなそう解釈していると,私は思う.ただ,こういう仮説は証明しにくいので科学的には放置されているのだ,と,私は思う.
 

マメコガネ

 

 最後はオオヘリカメムシ.日本産のカメムシの中ではかなり立派な部類に入る.重厚というべきか.アザミ類の太い茎に止まっているのを見かけることが多い.だが今日はウリ科の葉に止まって呆然としていた.
 普段は体表に薄く土(?)をまとって艶消しっぽいのだが,今日はごらんのようにかなり濡れている.特に翅の先が湿っていて,これではダメだ.昨日の豪雨で叩き落されたか流されたか,えらい目に遭ったのだろうと思う.よく見ると背中に小さなダニもとりついている.大丈夫か?オオヘリ
 このまま順調に乾いて,飛び立つことができれば,アザミの茎にたどりつけるかもしれない.ただこの撮影のあと,今日も雷雨があったのである.がんばれオオヘリ!
 

オオヘリカメムシ

 
 
 

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年7月21日号-

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