ヒビムシ 第4回


信州の峠:スゲハムシ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 

7月13日(土)
 スマホが壊れた.電池を使い切ったまま寝てしまった,つもりでいて,充電し始めてもパイロットランプもつかず,しばらく待って起動しようとしても無反応.メールも電話も途絶.やばい.それにこのスマホのテザリングだけが頼りのネット環境でもあるので,やばい.考えてみるとヒビレポの入稿手段も消滅してるし.

 あわてつつもとりあえずなかみを書こう.上信越に遠征したのでネタは山ほどある.最終日の「カラバリ」の話を選択.というわけで第四回は「7月13日に,11日の事を思い出しつつ書いている,多少パニクりながら」という状況です.

 細かい地名は諸事情により書かないが,松本から高山に抜ける途中に寄ってみた峠である.山越えの観点からいうと袋小路になっている.なので人も少ないだろうと思い,寄り道してみたのだ.
 麓での予告通り,峠には通行止の看板が出ていた.やはり人影は皆無.予想外だったのは良い感じの池というか高層湿原があった事.ミツガシワとヒルムシロ,それにスゲの類も生えている.広い駐車スペースがあり,池の周りに散策路と東屋が整備されている.良い場所発見である.
 

 

 峠から遊歩道があり,カラマツの林内を少し歩くと稜線をまたいだ鞍部,展望の良い場所に出た.両サイドの遠望が美しかった.またまた良い場所発見である.このような鞍状の地形では,天気の良い日に風で吹き上げられた虫が偶然見つかることがある.生態不明の珍種が偶然得られるのがこういう場所なのだ.高山植物っぽい花が咲いていたので,3Dスマホ(元気な頃の)を駆使して背景に残雪の山並を入れて撮ってみた.今,調べてみるとたぶんキバナノヤマオダマキ.

 

キバナノヤマオダマキ(上下とも立体写真。見方は文末に)

 

 湿地にはスゲハムシがたくさんいた.スゲハムシなどのネクイハムシ類は湿地の虫で,幼虫が水中の根を食う.成虫は小さいがカチッと絞まった体躯,繊細な表面構造,煌びやかな色彩をまとっているので人気がある.種数も多く,食草もそれぞれ違う.環境指標性が高く,調べ甲斐があるグループだといえる.
 その中でこのスゲハムシ自体は珍しい種類ではなく,環境さえあればよく見かける種類である.居るところにはウジャウジャ居る.この種には色彩変異,いわゆる”カラバリ”があって,多くは銅色だが,中に赤紫のものや青緑や深い青の個体もいる.色とりどりの虫がウジャウジャ居る,環境さえあれば,なのだが.

 昆虫の和名では金属光沢のある深い青のことを「ルリ」と呼ぶことが多い.本来の瑠璃,鉱物のラピスラズリはもう少し明るい青だと思うのだが,虫でのルリはこういう色をさす.深い赤に特に決まった言い方がない.自動車でいうワインレッドはメタリックに限るようなので,これに近いと思うが.

 カラバリの魅力について考えた,100均に並んだ色違いの食器でさえテンションが上がる,全色買うことは,まずないだろう.だが,バリエーションがあるだけで幸せだ.全部買うどころか,ものすごく細かいグラデーションが揃っていて,そのうちの,このモスグリーンとオリーブがかったやつの,う〜ん,こっちが好き,とかでも楽しんでしまう.
 パソコンで半透明のカラバリが流行したことがあった.買うとしてもぜったい一台だけなのに,5色あることが大きな魅力だったようだ.筆者はズルい売り方だと思ったが,実際には大ヒットで,そのことがまた悔しかった.色鉛筆も眺めるだけで良い,使いたくない.並びが狂っていたら思わず直してしまう.そして金や銀の位置に頭を悩ます.人間はこういうものにポーっとなる動物なのだ.地球征服を目論む宇宙人はこの弱点を突くいてくるのではないか,とかを妄想.

 色彩の違うペアを撮影しようと狙ったりするが,銅色のが多くてだめだ.ともかく,同一種でカラバリがあるというのは,見ていて楽しい.
 このスゲハムシは同じ場所でも個体ごとに多様な色彩型があるわけだが,地域限定での色彩型が知られる種もある.今回の遠征は北関東限定のカラバリを狙って敗退したので,スゲハムシは良いなぁ,とあらためて思う.というわけで悔し紛れにスゲハムシ三色セットを掲載する次第.

 

スゲハムシ(銅色)

 
 
 
 

スゲハムシ(赤紫)

 
 
 
 

スゲハムシ(ルリ色)

 
 

 この湿原ではちょっとした事件がというか,職務質問をうけた.付近では採集禁止の蝶の密猟が発生しているらしく,人里離れたこんな所まで警察官が巡回していているのだ.前述の諸事情がこれ.
 筆者の車には捕虫網を積んでいる.撮影が主体で,同定のために必要な場合は採集もするが,対象は主に小さい甲虫である.今回はまだここでは何も採集していないと,一応の説明をしたら理解してもらえた.ひととおり所持品を取り出して並べ,ポケットの中もチェック.きちんとした処置だと思った.それっぽい連中には声かけをしてくださいとの事,了解.

 やがて地元の山菜採りの人が数人集まってきて何やら昼食のようだった.ワラビですかと聞いたらゼンマイですとの返事だった,ように思うがその逆だったかも.入れ違いに帰途についた.

 スマホは機種変更ならぬ機体変更をしてもらった.同じ機種の3Dスマホを使用.
 
 
 

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.
 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年7月28日号-

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