薔薇の木にどんな花咲く?  第5回


竜 超
(第12号で「『薔薇族』継いじゃいました。」執筆)
 
コミック◎猪口コルネ
 
 
 

「街中を歩いててさァ、〈お仲間〉と出逢うとネ、こう、ピ〜ンときちゃうワケなのヨ。ゲイの発する独特のオーラみたいなものが、おなじゲイのアチシには判るのよネ〜」
このような〈SF的妄想〉をドヤ顔で吹聴する同性愛者の方(主として新宿二丁目系おねェ)がおられます。
「ほ、ホモの人の見分け方をボクに教えてくださいッ。それと知らないで一緒にいて、もしも急に襲われたりしたら怖いのでッッ」
こういったフザけたことを真顔でホザいておられる異性愛者の方(主として外見・内面ともに魅力ナシの自意識過剰メンズ)もおられます。
どちらの方にも心からの愛を込めて「アホかッ!」と申し上げておきましょう。

「同性愛者は、初対面の人間が〈同族〉かどうかを第六感で察知できる」
こんな都市伝説が世間には流布していますが、そんなのは〈口裂け女〉以下のヨタ話に過ぎないのです。
もしもホントに見極められる方がおられたら、もはやエスパーの域に入っているので、しかるべき研究機関の門を叩くことをオススメいたします。
 

 

まァ確かにネ、「パッと見で、すぐに相手がゲイだと判るケース」というのはあるんです。
けれどもそれは別に「見抜いた側の眼力がスゴい」とかいう話じゃなくて、単に「見抜かれた側がゲイゲイしすぎる」ってだけの話。
そもそも、そんな簡単に同族が見つけられるのならば、孤独をもてあまして心を病んでしまうゲイなんて生まれるはずがないのです。

「パッと見で判別できるゲイ」というのは、大きく分けて3つあります。
(1)ネチッこくギラついた目で、通りがかった相手を片っぱしから値踏みしている。
(2)アイデンティティの発露のように、ハイテンションなおねェ言葉を使いまくる。
このテの方々は、世間一般が抱いている〈ホモ・セクシュアル〉のイメージを見事なまでに体現している(一般に「歩くカミングアウト」なんて呼ばれています)ので、特にゲイ業界に明るくない方でも容易に察しがつくでしょう。
セキをしながらハナをかんでいる人を見て「あ、風邪ひいてるんだな」と思うのと同程度の判りやすさなんで。

けれども3つ目については、事情にソコソコ通じた方でなければ判らないかと思います。
(3)見た目をイカホモ系に作り上げている。
さて、ここで問題です。〈イカホモ〉とはいったい何でしょう?
そう、答えは「足が10本あってショウユをたらして炭火で焼くとおいしいホモ」……なワケではなくて(当たり前だ)、「イカニモな外見をしているステレオタイプなホモ」というのを略した〈符丁〉です。

イカホモ系というのがどのような感じか、具体的に解説してみましょう。
「ガッチリ(またはムッチリ)体型で、短く刈り上げた髪(またはボウズ頭)に、手入れの行き届いたヒゲ」
というのがルックス的な特徴です。そしてファッションのほうは、
「キャップをかぶって、トップスはラグビーシャツやタンクトップ。冬場だとそこへダウンジャケットがプラスされる。ボトムスはハーフパンツかカーゴパンツ、ローライズジーンズあたりで、靴はワークブーツ系が多し」
といった感じでしょうかネ。

さきほど僕は「ステレオタイプな」と書きましたが、イカホモ系というのは当事者間ではべつに否定的な意味あいのコトバではありません。
むしろ「流行の先端をいってる」といったポジティヴなニュアンスで語られることのほうが多かったりします(なんせマジョリティですから)。
ただ、僕は流行に追随するのが気に食わない性格なので、そーゆーのを「イイね!」とは思わない……というだけの話なのです。

「どうして新宿二丁目には、同じような姿をした人たちが多いんですか?」
という質問を、ゲイ初心者のオトコノコから受けることがたまにあるんですが、そのときに僕はこう答えるようにしています。
「二丁目の奥には秘密の人間改造工場があってネ、そこのでっかいプレス機にかけられると、み〜んな同じ姿に型抜きされて出てくるんだよ」
これは半分はジョークですが、あとの半分はわりとマジです。
物理的な意味でのプレス工場はないものの、強烈なプレッシャー(同調圧力)を加えて、知識も経験も乏しいビギナーを〈既存の型〉にはめようとする輩は色々と存在しますから。

そうした方々のお仲間に加えていただこうとすれば、必然的にそこのカラーに染まることになるわけですが、さきほども云いましたように僕はヘソ曲りですので、
「ケッ! てめェを失くさなきゃ入れないコミュニティなんて入りたかねェし、多数派の一員になることで安心するような安っぽい生き方もゴメンだゼ!」
という空気をついつい放ってしまい、だからアチコチで煙たがられてしまいます。

「イカホモ系になること=ノーマル=好ましいこと」
という意識がゲイの世界であまりに強いことにイラついた僕は、あるとき〈推奨スタイル〉の真逆をゆく実験をしてみました。
イカホモ系のマストアイテムである〈短髪〉の反対、つまり〈ロン毛〉にしてみたのです。
そうすると、会う人会う人、笑っちゃうほど異口同音に、
「そんなおかしなアタマをしてるとモテなくなりますよ。早く短髪にして、ついでにヒゲとかも生やしなさい」
と〈ご親切〉なアドバイスをなさってくださいました。

……エ? それに対してどう応えたのか、と?
そりゃまァ、僕もコドモじゃないですから、内心でベロを出しながらも、表面上では「あァ、そーですネ、ハイハイ」と微笑んでおきました(感情が顔に出やすいタイプなんで、たぶんホンネがミエミエだったでしょうけど)。

基本的にはネ、誰がどんなカッコをしたってべつに構わないと思ってるんです。
イカホモ系にしたって、そのスタイルじたいを批判しているわけでは全然ありません(タイプでは全然ないですけど)。
ただ、「みんながしてるから自分もする」というケーハクさと、ソレをしてない相手に「どうしてやらないの?」と訊いてくるような無神経さが、どうしても好きになれないんです。

何年か前、友人のカメラマンがゲイ・バアで個展をひらいたとき、店に入ってくるなり壁の写真を指さして、
「なァにィ〜!? この人たちってヘンッ!」
と口走ったイカホモ系のカップルがいました。
僕はそれらをなんらオカシイとは感じなかったので、いったい何が〈ヘン〉なのか気になって聞き耳をすますと、その片割れがこうのたまったのです。
「ど〜して髪が長いのォ〜ッ!?」

断っておきますが、その写真のモデルたちはべつに昔の武田鉄矢みたいな髪型をしてるとかいうワケではありません。
いわゆるジャニーズ・アイドルぽい感じで、世間にザラに見られるヘアスタイルなんです。
なのに「ヘン」って……。
モデルの子たちは、たしかに指さしたカップルとは全然「違う」タイプですが、だからといって「ヘン」呼ばわりされる筋合いなんかはありません。

まァ、人の価値観なんてのは誰でも基本的に〈自分基準〉なので、それと真逆の存在のことを「ヘン」だと呼びたくなる気持ちも判らないじゃありません。
とはいえ、それは「思った」としても「云う」べきではない。
思ったことをハッキリ口に出したほうが「世のため」になるケースも確かにありますが(日本人は何でも心に秘めてしまいがちですから)、しかしコレに関しては「云わないことがオトナの良識」というものでしょう。
それが判らないようでは、ゲイのコミュニティというのはまだまだ「オコチャマの集団」ということになってしまいますゼ。

「たかだかイカホモ程度のことで、よくまァこれだけ色んなコトを考えられるもんですなァ、アナタ……」
とアキれられるかも知れませんが、いやいや、こうした部分にキュークツさをおぼえている同性愛者というのは意外に少なくないのですワ。
僕が憎まれ役となり、これまで誰も口にしなかった(できなかった)コトを指摘することで、そのあたりに風穴を開けられたら本望であります。

あ、そうそう、イカホモ信奉へのイヤガラセとして伸ばした髪ですが、どうにも暑苦しかったんで、周囲の反応実験が終わったところでバッサリ切ってしまいました。
以降はずっと短めです。
いや、だからといってイカホモ系はやってませんけどもネ。

 
 

 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年8月1日号-

Share on Facebook