ヒビムシ 第6回


中山大杣池:シオヤアブ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 

7月24日(水)
 丹生山系に「中山大杣池」という大きなため池がある.「おおそま」と読む,アウトドアな良い漢字だ.乾いた感じのアカマツの多い山にあってちょっとした湖の風情である.ここに「青少年公園」という名前の,たぶん林間学習用の施設がある.一般にはデイキャンプ場として供用されており,日帰りのバーベキューはできるが,泊まれない.花見の時期以外はだいたい閑散としている.
 管理人さんがいてきちんと6時に麓のゲートが閉まる.造園作業もしつこいほど入っている.そんな,いかにも行政な,作るために作った感じの施設だが,ため池の整備や管理には大きく寄与しているようだ.
 存在理由はともかく,草原的な状態が維持されているので,トノサマバッタやクルマバッタなど大型のバッタが安定して生息している.解剖用教材の調達に苦労する向き(誰だ?)にはたいへん重宝する公園である.大型バッタの成虫はまだ出ていない時期だが,久しぶりに行ってみた.真昼間だ.
 

 

 植栽された木々の幹にはニイニイの抜け殻が大量についていた.日陰のやつはまだ湿った色をしていて,昨夜から今朝にかけて羽化したものらしい.成虫も色の薄いやつが見つかるだけで,全体に蝉時雨状態にはなっていない.
 心はニイニイ探しモード.とにかく木の幹ばかりを見て歩く.コケが生えたサクラの幹にはヤツメカミキリが産卵にくる.コケとカミキリの色は薄緑,そして模様も似た感じで,隠蔽的色彩の模範みたいな状況になる.それをなんとか撮影したいと思って探したのだが,結局一匹も見つからなかった《興味のある方はぜひググってください》.

 

ニイニイゼミ(上下とも立体写真。見方は文末に)

 

 そのかわりに意外な虫をみつけた.まずキマワリ.日陰の朽木,シイタケのホダ木などで見かけることの多い普通種だが,ケヤキなどの幹で樹液を吸っているのを見かけることもある.陰気な虫だが活動的な一面もある,二重人格な虫だと思う,二重虫格.
 これが陽性側の顔で樹幹をうろついていた.考えてみると足も長いし,後翅(飛ぶ翅)も強健だし,案外活発な虫なのだ.

 

キマワリ

 

 一方で,ホソクビキマワリも見つけた.こっちはわりにレアな種である.何かの木の樹液を舐めていた.キマワリとは近縁な,ともにゴミムシダマシ科の大型種なのだが,決定的に違うのは後翅が退化していることである.一見して体型が違う.”細首”というか,なで肩になっていて,全体が瓢箪形だ.

 

ホソクビキマワリ

 

 昆虫には(進化の過程で)飛ばなくなった群が多数ある.飛翔に費やすエネルギーと飛ぶ体を創り上げるエネルギー.それらを繁殖に振り向け,飛翔のリスクも回避してしまう道である.短期的には子孫繁栄に効果絶大である.しかし長期的には個体群内の遺伝的多様性の減少,新天地開発の可能性減少などをもたらす.「飛ばない」は安易な選択であり,目先の利益が進路を決定する生物進化においては甘い罠ともいえる.
 飛ばなくなったあと長い歴史を経たものもあれば,今まさに飛ばなくなりかけているのもある.前者では飛翔関係の構造がことごとく退化し,いかにも飛ばない形態を呈している.ホソクビキマワリはこの域に達した姿といえる.後者では,筋肉が退化しているだけ,みたいなのもある.その前には行動の上で『飛ぶスイッチ』(?)が入らなくなる段階があると考えるべきだろう.たとえば犬糞や人糞によくいるセンチコガネ,外見からは分からないがその一部の個体群は飛ばないらしいのだ.
 現実には飛ぶ虫が主流である.「飛ばない」は長期的には滅亡への一歩なのだろうと思われる.それでも飛ばなくなった事によって大繁栄し,多様に適応放散しているものもある.オサムシの仲間などが典型である.オサムシにかんしては「手塚治虫の筆名の由来は…」が定番の薀蓄であるが,耳にタコなので今回も省略.

 樹幹を見て歩くと奇妙な現象に気づく.以前から気になっていたことだが,この公園では「サクラの木を大切にしよう」「サクラの木を傷つけないで」などの注意書きがたくさん見られる.気になるのは,それらが直接,樹幹に,釘で打ちつけてある事だ.いかにも粗野な設置方法に思える.さらに奇妙な事に,わざわざサクラ以外の樹種に打ち付けてあるのだ.わざわざ選んでサクラ以外に.
 考えてみると理屈は通っているのかもしれない.幹に釘を打ち付ける行為は「傷つける」に該当する,従ってサクラの木に対しては行うべきではない.それを行わずに目的を達するために他の樹種に対して行っているわけだ.いかにも行政.の,発注仕様.
 上げ足をとるなら,これらの看板は「サクラ以外は大切にしなくてもいい,傷つけてもいいよ,ほらこんなふうにね」と言っていることになる.

 最後はシオヤアブ.ムシヒキアブの中で最も立派なやつである.空中で虫を捕って食べているアブである.この仲間はだいたい「〜ムシヒキ」なる和名がつくのだが,一番立派なので「シオヤムシヒキ」ではなく「シオヤアブ」で通用している.♂のシッポの先の白い標識が塩っぽいから,たぶん.
 この日は雌雄ともたくさん活動していたが,気温が高く超活発で,なかなか近寄らせてもらえなかった.定番の止まり場を決めてる個体がいたので,その前で待っていたら帰ってきたところを撮影.酷暑.

 

シオヤアブ

 

 日中,一時間くらい徘徊したらヘトヘトになり撤収.この間,誰とも出会わず.車の音を二度ほど聞いたか,いつもの閑散ぶりであった.そういえばゲートボールの大会で大賑わいしていたことがあった.書いていて思い出した.
 あ,今回は「7月25日に,昨日のことを思い出して書いている」という状況でした.
 
 

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.
 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年8月11日号-

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