四十の手習い 第7回


ヤフー知恵袋を開ける

 
海江田哲朗
(第12号で「劇団カクスコ 11年後のカーテンコール」執筆)
 
 

うちには2羽の文鳥がいる。ともに白文鳥だ。3年前の冬、妻の希望により招き入れることになった。つがいで買ったつもりだったが、2羽ともオスだった。小鳥のヒナの雌雄は見分けづらいと聞く。繁殖を目的としていないので、特に問題はない。

近頃、文鳥の様子がおかしい。私がブルースハープの練習をしていると、途端に興奮するようになった。動物的な何かが刺激されるのか、鳥かごのなかで飛び跳ね、ガッシャンガッシャンやっている。

うれしいのか? それとも気に入らないのか? 確認するために、近くに行って吹いてみた。すると、くちばしを大きく開き、首をくねくねやってくる。威嚇のポーズだ。ショックである。完全に敵視されている。そんなに迷惑か。

閉じ込めておくのは気の毒に思え、カゴから出した。2羽は勢いよく飛び立ち、隣の部屋に避難した。あまりに露骨すぎる。私の完成予想図は、文鳥を両肩にのせ、楽しげにブルースハープを奏でる男だった。もはや絶望的だ。文鳥とのアンサンブルは期待できそうにない。
 

 

練習しているのは「キラキラ星」である。教則本の「やさしい練習曲」の筆頭に挙げられる曲だ。使用するのは、4、5、6番のみ。まずはこれを完璧に吹きこなし、次のステップに進む。何事も基礎固めが肝要だ。やっていることは小学生低学年と同レベルなのだが、事実、その程度なのだから仕方がない。

文鳥の拒絶反応はさておき、自己判定ではまあまあの出来なのである。誰が聞いても、「あ、キラキラ星だね」とわかってもらえるはずだ。たどたどしさは否めない。が、少なくとも進歩はしている。そうやって自分を励まさなければ、くじけそうになる。

ふと、ヤフー知恵袋をのぞいてみようかと思った。あそこには、ありとあらゆる相談が寄せられ、親切な人が回答してくれている。きっと、ブルースハープ初心者の相談もあるだろう。別に見るだけならたいしたことではないのだが、あまり気が進まなかった。

というのも、一時期、私は知恵袋にはまって、えらいことになったのだ。映画を観て、ラストがいまいちわからないときがある。そこで、「○○(映画のタイトル) ラスト」とネットで検索すると、かなりの確率で知恵袋がヒットする。正確性はともかく、さまざまな回答が寄せられており、ぱぱっと見て、ふーんそうだったんだ、とおおよそ納得できる。最初は、便利なシステムだと感心した。

まずいことに、これがクセになるのだ。ピンとこなければ、すぐさま知恵袋。挙句、いい小説を読み終え、余韻にひたる間もなく、知恵袋を開けるようになった。自分の解釈が間違っていないか、確認するためである。

これはいかんぞ、と危機感を覚えた。疑問が氷解し、一応スッキリはするのだが、自分で考える習慣を失いかけている。考えている間も、その作品と付き合っている時間なのだ。もう、そういうのはやめようと決めた。

でもまぁ、ブルースハープに関しては、お手軽な上達法なんてあるわけがない。どんな相談が多いのか興味があり、久しぶりに知恵袋を開けてみた。

寄せられている相談は約10件。「どのメーカーがいいんですか?」「練習曲はどれがいいんですか?」などの質問に対し、懇切丁寧な回答がついている。どうやら、知恵コインというシステム(相談者が額を提示し、回答者が受け取る。換金不可)がモチベーションアップに一役買っているらしい。なるほどねえ。

だが、「ブルースハープがうまく吹けません。どうしたらいいのでしょうか?」といった相談はナシ。当たり前か。せいぜい、おすすめの教則本を教えて、あとは自分で練習しろとしか書きようがないもんな。

やっぱり、コツコツやるしかないのかぁ、とちょっぴり落胆して知恵袋を閉じる私。気持ちのどこかで、ズバッと解決を期待していたらしい。
 
 
 
-ヒビレポ 2013年8月17日号-

Share on Facebook