ヒビムシ 第7回


六甲山最高峰:アカウシアブ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 

7月30日(火)
 とっくに抜けたはずの梅雨末期的な夕立というか,集中豪雨が各地で被害をもたらしている.弱い雨が少し降ったあと曇ったままなので,近場の「六甲山最高峰」に行くことにした.
 六甲山はいくつものピークからなる長い山塊である.本来は「むこ」と言ったらしく,多様な綴り方のうち「六甲」が今では標準となっている.そして「ろっこう」と読むのが普通である.多様な綴りの一つは「武庫」と書くもので,現在では「武庫川(むこがわ)」に残っている.
 六甲山には全山にわたっての縦走路があり,歩道と車道が縒り合わせたように続いている.車道のカーブには番号がふられており100番あたりが「六甲山最高峰」に近い.他のピークは摩耶山だのお多福山だのと名前がついているのに「最高峰」はそのまんま「最高峰」と呼ばれている.手軽にいける標高900メートルである(三角点は931.25m).

 というわけで「8月2日に7月30日のことを書いている」という状況です.
 

 

 今回,数週間ぶりに行ってみると,音的には既に真夏であった.独特のテケテケテケっという大きな声でセミが鳴いている.エゾゼミである.美しいセミなのだが,なかなか姿が見られない.というか,高いところから聞こえてくる大きな鳴き声に対して,探す気ゼロなのである《興味のある方はエゾゼミを検索してみてください》.
 たまたま低いところにヒグラシが止まっていたので撮影.前回のニイニイに続き,これも地味だなぁ.

 

ヒグラシ(上下とも立体写真。見方は文末に)

 

 さて,林床のそこここにヤマジノホトトギスが咲いていた.虫にも花にも「立体栄え」するのとそうでないのがある.フォトジェニックならぬステレオジェニックなる言葉を勝手に思いついて,以前から自分の中では使っているのだが,今,検索してみると違う意味の術語が存在しているようだ.
 ともかく「立体栄え」の意味でいうならば,このヤマジノホトトギスはステレオジェニックな花の一つだといえる.複雑な形状と鮮やかな斑紋が適度な高さと幅の中に納まっていて素晴らしい(グルメリポート口調).
 蜜腺は深いところにあるようだ.ほとんど壷状.舌の長い虫しか蜜を舐めることができない.いっぽう雄蘂と雌蘂は高く突き出して曲がっていて,花弁との間に空間ができている.この空間にマルハナバチなどの体がすっぽり収まるのだ.
 要するに特定の蜂だけに蜜を吸えるように出来ていて,その際に背中が雄蘂や雌蘂に触れる仕掛けなのだ.そこまでして花粉媒介者を選ぶ理由はよくわからないが,とにかくこの花は厳密に蜂を選んでいるようだ.
 写真の花には小さい黒い点みたいなものが幾つか写りこんでいるが,これはアザミウマの仲間,羽毛みたいな翅を持った激小な昆虫である.

 

ヤマジノホトトギス

 

 二時間ほどうろつく間に晴れてきた.日差しが強すぎるのでなるべく日陰のルートを通っていろいろ撮影した.カミキリが三種ほどいたが,ステレオジェニックなシラホシカミキリを掲載.

 

シラホシカミキリ

 

 この日は900mでも暑かった.帰ろうとすると草の茎にアカウシアブが止まっているのに気づいた.なんだかグッタリしている.
 アカウシアブを筆頭とする吸血性の大型のアブは,ふだんなら頭の周りをブンブン飛び回ってこちらの様子をうかがって,しばらくして消えたかと思ったらまたやってきて飛び回り,また居なくなったなと思ったら腕に止まって静かに吸血開始,みたいな憎たらしいやつだ.刺されるとかなり痛い.
 飛び回っているときも,やつらは人間の「忙しさ」を認識しているようだ.こちらに用事がなく,単に歩いているだけの時,やつらは遠巻きに飛んでときどき牽制するだけである.なのにこちらが何かを見つけて立ち止まって覗き込んだり,採集しようと身構えたり,機材をとり出そうとした途端,やつらは「スキあり!」とばかりに吸血モードで寄ってくるのだ.私の「忙しさ」のオン/オフは完全に見抜かれている(確信).
 筆者はたいてい捕注網を持っているので,それで捕らえて踏み潰す.が,もちろん簡単には捕えられない.ましてや撮影するなど思いもよらない.これは戦いなのだ.
 ところがその憎っくきアカウシアブが,今回は日向で茎にひっかかるように止まっていた.食中毒か? 熱中症か? 羽化直後か? 理由は分からないが,とりあえずチャンスである.グッタリ状態で数コマ撮り,茎を折って近くの日陰の葉の上に移動させてストロボでさらに数コマ撮ることができた.虫じたいは中々の美形で,迫力満点,今回もアブが主役だ.ハチ擬態の例としても使いでがありそうだ,ラッキー.
 しかしそうして喜んでいるうち,一瞬で逃げられた.やはり体温の上がりすぎだったのかなと思う.日陰に移して冷やしたら復活した,ということのように思えた.

 

アカウシアブ

 

 帰りもエゾゼミの声がよく聞こえ,何とかして撮りたいなと思った.長竿の網で捕らえて,クーラーボックスに入れたあとそこらの幹に止まらせて撮る作戦,とか.以前,死にかけのミンミンを枝に止まらせてそれらしく撮ったこともあったな,などと回顧.
 新鮮なものであれば死骸でも良いかもしれない.元気なヤツは高所で大声で鳴くのだとの説明を添えれば,生態写真としてはありかも,などと考えた.そういえば今回もエゾゼミの前翅を抱えて基部の僅かな肉を食っているザトウムシを撮った.しかし,やはりエゾゼミは綺麗な斑紋が写ってないと意味がないな.ほほぅ,これが夏休みの宿題だ.
 
 

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.
 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年8月18日号-

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