ヒビムシ 第9回


青野ヶ原八ヶ池:キョウトアオハナムグリ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 

8月14日(水)
 夏らしい日々が続き,早くも二回戦に入った.今日も朝から野球をやっている.ラジオを聞きながら「青野ヶ原八ヶ池」に向かった.
 加古川の氾濫原には水田が広がり,丘陵地は森のまま残っている.雨の少ないこの地域では森は貴重な水源でもあり,丘の周囲にはため池が多い.大きなため池の一つ「八ヶ池」の周辺は市立の自然公園になっている.里山というほど人の手は入っていないショボい二次林だが,アベマキに混じってコナラが生えており,クマもシカもいない,お手軽なクワガタサイトである.
 駅名は「青野ヶ原」だが,駐屯地や演習場は「青野原」と書く.一帯は古くから軍用地で,昔は馬,今は地対空ミサイルが居る.
 このことは,実は虫事情に影響している.公園の森は自衛隊の敷地につながっていて,というか,同じ森を網フェンス一枚で仕切っているだけなので,一般人立ち入り禁止の領域から常に虫が供給されることによって,公園の領域でも虫が安定して生息する仕組みになっているのだ.
 この森では,夏の虫としてはむしろ脇役のハナムグリ類が面白い.樹液に来ているハナムグリ類の多様性である.シロテンハナムグリが多いのは他の場所と同じだが,シラホシハナムグリ,ムラサキツヤハナムグリ,キョウトアオハナムグリなどが混じる.カナブン(やアオカナブン,クロカナブン)は見ないように思う.
 

 

 最初の写真はハナムグリ類のウジャウジャ状態.ほとんどシラホシだが,最右の個体がキョウトアオ♀かもしれない,その場で確認しとけよ.と,写真を見ながら考えている.今回は「16日(金)に一昨日の写真を検討しながら書いてる」という状況です,はい.

 

樹液のハナムグリ類(上下とも立体写真。見方は文末に)

 

 さて,ハナムグリ類の興味深いところは,0)ウジャウジャいて,1)複数種が混生し,2)互いに似ていて,3)しかも優占種に合わせて少数派が似せているらしい,4)なので場所ごとに違うウジャウジャが形成される,という事である.
 幼虫の生態的要求や生息場所などは種によって多少異なるのだろうが,成虫はほぼ同じ時期に同じ餌場に複数種がウジャウジャたかる.これがハナムグリ類の奇妙な”戦略”なのである.そう,情報戦略であり撹乱戦法.類似品に惑わされた捕食者の捕食効率がちょっとだけ落ちるのだろう,たぶん.
 南西諸島ではそれぞれの島の優占種に合わせて他の種が姿を似せており,結果的に島ごとに変異する事が知られている.これは列島本土でも同様で,森の樹液にあつまるシロテンとその類似品は”金属光沢に白斑”という出で立ちで互いに似ている.
 樹液の種らがみんな”金属光沢に白斑”である一方,オープンな環境で花に集まる種つまりナミハナムグリやアオハナムグリやその類似品は”艶消し緑に白斑”で,それはそれで互いに似ている.似たもの協同組合が二つある,ような状態.メタリックの「M組合」とフラットの「F組合」,二つの共同組合は生息環境と利用資源を異にしているのだ.

 その中で特筆すべきがキョウトアオハナムグリである.この種は性的二型.雌雄で色彩がちがう,変な種類である.メスの外見は”金属光沢に白斑”つまりM組合準拠であり,オスの方は”艶消し緑に白斑”のF組合だ.つまり雌雄で異なる組合に所属している.中間的な生態をもつ種として参加先を迷った結果の奇策といえると思う.
 昆虫は一般に,オス成虫はメスよりも早く出現してギンギンの状態でメスの出現を待つ.そして交尾の時期が終わり,オスが死に絶えたあともメスは命の限り産卵に勤しむものである.つまり成虫の活動時期は雌雄で多少ともズレる.このキョウトアオの場合もそのズレがあって,しかもたぶん激しくズレており,それが主な利用資源,さらには活動環境に関するいわば比重の違いとなり,結果的に別々の組合に所属する性的二型の発達につながっているのだろう,たぶん.
 想像で因果関係を書きまくったあげくに「たぶん」ではイカンなぁ.でも非常に興味深い現象なのである,これは断言できる.
 ともかく今回も見られた樹液に来ているメスを図示しておこう.あきらかに”金属光沢に白斑”のM組合の所属である.しかしM組合参加者の間で比較すると特徴があるにはある.本種(の♀)では背面は緑がかっていて周囲や脚が紫がかる,その色相の落差が激しいのだ.そのつもりで見れば区別は容易である.この「色相の落差」に注目すると,それは(キョウトアオ♂も含め)F組合にありがちな特徴である.ひきづってるというか,なりきれてないというか,やや馬脚を現しているわけだ.

 

キョウトアオハナムグリ♀

 

 このキョウトアオハナムグリ,その名に反して実は播磨の虫である.全国的には珍しい種であるため,雌雄が別々の種だと思われた時代があり,別の名前で呼ばれていた.それが同一種だと認識されるに至り,たまたま普及していた「キョウトアオ…」の和名が継承されることとなった.現在では安定した産地として明石公園が有名で,そこでは普通に見られる種類である.明石駅から徒歩5分の木々に自慢の興味深い珍種がいる,近所の虫屋的には「キョウトアオ…」であることが悔しいので,事あるごとに,こうして書くのである.

 帰りがけに花に来ているツチバチを見つけた.たぶん(!)キンケハラナガツチバチだと思う.ハチはハチでもツチバチ類は攻撃性ミニマムなやつで,たいていは人が近づいただけで逃げる.それでも恐そうな姿をしている.
 擬態のあり方として「ベイツ型擬態」や「ミューラー型擬態」が当てはめられることが多い.ベイツ型とは,たとえば有毒な者同士が似た色彩を共有することによって標識としてのブランド力を高める場合である.スズメバチ類の虎縞などが典型例である.
 ミューラー型とは実は有毒ではないのに標識だけ真似る場合などで,ブランド力を借りるというかパクる場合である.蜂に似せた蛾などが典型例である.
 ツチバチ類は超弱気だが,針はあり,捕まえれば刺される.ブランド力強化に寄与するので,いちおうこれもベイツ型擬態だとみなすわけだ.
 先のハナムグリ類の場合はどちらでもない.異なるものが似ていて紛らわしいこと自体に意義がある.そう考えるべきだ.紛らわしいことの意義は,虫を捕る者の立場で樹液に近づいてみると,多少,実感できる.ウジャウジャいるハナムグリ類のうち幾つかは落下して飛び立つが,いきなり水平に飛び立つものもあり,止まったままのものも,単に落下するのもいる.予測しにくさがこの擬態のメリットなのである.以前「数量擬態」という表現を目にしたことがあるが,あまり一般的ではない.
 

キンケハラナガツチバチ(たぶん)

 

 ため池にはいつも数種のトンボが見られる.ここ数年,一番目立つのがウチワヤンマである.湖面に縄張りがあるようで,ときどきバトルをしている.今回は池の水位がかなり下がっており,いつもはもっと執拗で激しい戦いを見せてくれるコシアキトンボがいなかった.
 水際に止まり場が少ないので木の枝を立ててみたらウチワヤンマを誘致できた,まんまと撮影成功.腹端のウチワ部分を動かすのも見られた.

 

ウチワヤンマ

 

 
 

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.
 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年9月1日号-

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