新宿ゴールデン街を飲み尽くせ! 第9回


 
コエヌマカズユキ
(第11号で「物書きにとってバー経営はメリットになるのか?」執筆)
 
 

 酒を飲んで記憶をなくす度に脳の細胞が壊れ、痴ほう症になっていくという話をお客さんから聞いた。それも複数の方からの証言なので、信ぴょう性は高そうだ。痛飲すると大抵記憶をなくす僕である。一体どれくらいの脳細胞が壊れているのだろう。酔いが怖くてバーテンダーはできないことくらい、お店を開く前から分かり切っていたが、改めて考えるとぞっとする。ここ最近、老いをテーマにした映画「しわ」を観たり、介護施設へ取材に行ったりしたせいで、痴ほう症には敏感になっているのだ。僕は現在33歳。まだまだ若いと言われるが、体力は確実に衰え始めている年齢だ。それに加えて、脳まで衰え始めたら。お店はともかく、僕のライフワークである物書き活動はどうなってしまうのだろう……そんなことを、本日5杯目のビールを飲みながら書いている。というわけで、今週の飲み歩き日記です。
 

 

<今週の酒>
◆8月19日(月)
 先日入籍したアルバイトの丹羽さんと、七尾さんの結婚パーティをお店で開催。奮発してケータリングの料理を用意して新郎新婦をお出迎えした。丹羽さんの友人や顔なじみのお客様が続々来店し、カウンターはたちまちプレゼントや花でいっぱいになる。やっぱり丹羽さんの人気と人望はすごい! 盛り上がったところで、僕も二人へのプレゼントとご祝儀、そして手紙をプレゼントする。丹羽さんが目を潤ませているのを見て、思わずグッと来てしまった。本当は手紙を朗読したかったが、もらい泣きしそうだったので、その場では読まず手渡しにした。お返事をくれるそうで、すごく楽しみだ。ちなみに二人は数年前から知り合いだったということだが、お付き合いが始まったのは昨年の12月17日。ちなみに初キスもその日に済ませたと、酔った旦那が告白した。新郎はアラフィフ、新婦はアラフォーという中年カップルの恋愛事情などどうでもいいが、いずれにせよ感動的な夜でした!! 末永くお幸せに!

お店にて、テキーラ×1杯、ビール×1本
 
 
◆8月20日(火)
 平日にも関わらず、この日の客足は順調。お客様が途絶えないまま深夜になり、エロ系の漫画家や編集者たちが集団でやって来て、お店はカオス状態に! 楽しい夜でしたが、お店の品格が崩れるので、あまり詳しく書かないことにします(笑)。

お店にて、テキーラ×1杯
 
 
◆8月21日(水)
 平和な一日。閉店間際、行きつけのお店のスタッフが飲みに来てくれる。一緒に軽く飲みに行こうということになり、僕のボトルが入っているお店へ。本当はゆっくり飲みたかったが、翌日締め切りの原稿書きが控えていたため、軽く飲んで切り上げることに。ここでノリを優先し、もう何軒か行っていたら、確実に原稿は間に合わなかった。ノリが悪いということになるのかもしれないが、この辺の節度はきっちり守りたいと思う。

1軒目 シラムレン
いも焼酎ロック×3杯
¥2600(2人分)
 
 
◆8月22日(木)
 翌日、9時30分という、水商売をする者にとってありえない早朝から取材が入っているため、アルバイトさんにお店を任せて早めに帰ろうと思ったのだが、知り合いが来て話が盛り上がってしまった。気づけば夜がすっかり更けていた。ビールをごちそうしてもらうと、最近酒量を減らしているからか、これだけでかなり回ってしまった。

お店にて、瓶ビール×1本
 
 
◆8月23日(金)
 朝、何とか起きて取材をこなす。夜はお店へ。混雑する週末なので、気合を入れて開店準備をするが、なぜか客足がガラガラ。不思議に思っていると、他のお店のマスターがやって来て「お店の前に人が倒れていますよ」。ドアを開けると、完全に酔いつぶれた様子のおばあさんが、吐しゃ物まみれになって倒れていた。「大丈夫ですか?」と声をかけると、うっすら反応はするのだが、起きだす様子はない。仕方なく警察を呼びに行って後を託す。数十分後、救急車が来ておばあさんは運ばれていった。お店のツイッター宛に、「行こうとしたのですが、お店の前で倒れている人がいて入れませんでした」というツイートが届き、「またいで来ればいいのに」と内心で毒づく。低空飛行の一日だったが、遅い時間に常連客が来て、客足が少ないのを気遣って、お酒をおごってくれた。ありがとうございます!
 ただ、閉店時間を過ぎても一時間以上も居座るのは勘弁してくれ!

お店にて、ウイスキーロック×1杯、モヒート×1杯、
 
 
◆8月24日(土)
 この日の昼間は、初めての試みの「文学合コン」を開催した。男女4人ずつが参加し、前半は「小説の出だしの一行を考える」「本屋に客が増えるアイデアは?」などのお題をペアで考え、後半はフリータイムという合コンだ。最初はどうなることやら不安だったが、ふたを開けてみれば大盛り上がり! 終了後にはみんなで飲みに行ったようで、主催者としては何よりだった。ぜひまた次回もやろうと思う。
 夜のバータイムは、昨日のうっぷんを晴らしたい思いが叶ったかのように、お客様が引っ切り無しに来店。これぞ週末だ。ただ、翌日はゴールデン街最大のお祭り「納涼感謝際」が開催されるため、お酒は控えるつもりだった。ところが、深夜を過ぎてテキーラ大好きな男たちが来店。「おごりますけど、飲まないんですか?」と挑発され、「上等だ、飲んでやる!」と立て続けにショットで2杯を飲み干す。すると、今度は巨大なグラスに大量にテキーラを注がれ、「飲みますよね?」。さすがに一気飲みはためらわれたが、それでも時間をかけて何とか飲み干した。これが翌日に、あんな悲劇を巻き起こすとは……。

お店にて、テキーラ×ショット2杯、通常のグラスに並々1杯
 
 
◆8月25日(日)
 この日はゴールデン街の年に一度の祭典、「納涼感謝際」。約150の参加店では、ノーチャージ、一杯500円でお酒や特別メニューが用意されているため、毎年ものすごい数のお客様が来店して賑わう。僕も張り切って、ド派手な浴衣を準備して臨んだのだが、昨日のテキーラのせいで重度の二日酔いに。ほとんど動くことができず、お店の片隅でぐったりとするばかり。アルバイトの丹羽さんと、お客さんのたえちゃんが手伝ってくれたおかげで、何とかお店を回すことができた。二日酔いは夕方近くまで続き、ようやく復活。交代でお店を回しながら、いろいろなお店を新規開拓するつもりだったが、さすがに酒を飲む気にならず、結局一軒も回れませんでした。

※休肝日
 
 
 僕以上に早く脳細胞をやられてしまうかもしれない、そんな男たちがゴールデン街にはたくさんいる。“今日という日”いや、“今という瞬間”を全力で楽しみ続けている酒飲みがたくさんいるのだ。僕は良くも悪くも、その領域にはとても達していない。いただいた仕事を確実に遂行するためには、当たり前だが、ときには誘いを断らないといけないし、酒を断たないといけない。駆け出し時代を思い出してみる。僕はコネも実績もない中、色々な出版社や編プロに売り込みをかけまくり、断られ続け、それでもめげずに売り込みを続けて、ようやく仕事をいただけるようになった。そんな思いをして手に入れた仕事たちを、一時の快楽を追求した挙句に失っては、あまりにも愚かだ。
 けれど、実は憧れている。今と言う瞬間を全力で楽しんでいる人たちに。自分はそんなタイプではないし、なれないことは百も承知なのだが、僕などよりもはるかに多忙な人たちが、明日のことを考えず、子どものように無邪気な笑顔で飲んでいる姿を見ると、うらやましくなってしまう。真似できないが、常に憧れているのである。
 
 
 
-ヒビレポ 2013年9月3日号-

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