どす黒い私  第9回


 
和田靜香
(第8号で「ハッケヨイ、和田翔龍!」を執筆)

 
 
 

 今、私の頭の中は「汚染水」の3文字で埋まっている。毎日毎日、あのタンクを思い、思ってはガク〜ッとひざを折る感じだ。8月23日付けの「東京新聞」、上空からヘリで福島第一原発を撮って状況を詳しくレポートした紙面は壁に貼ってある。「瀬戸際の汚染水処理」「別のタンクも漏れか」「排水溝を通れば外洋へ」……それらを見て、深いため息をついたりもしている。

 「馬鹿じゃない? そんなことで暗くなっても意味ないでしょう? 私たちに何ができるっての? 私たちは自分に出来ることをして毎日を一生懸命に過ごせばいいのよ」
 そういわれるかもしれない。でも、そういう言葉は3・11前なら通じたけど、今もう通じないように私は思う。目の前に差し迫った危機から目をそらして自分のことばかりしてたら、いつか自分のことは出来なくなるときが来てしまうと思うんだ。あの戦争のときのように。

 私は今、「汚染水〜〜っ! 汚染水〜〜〜っ! 汚染水〜〜っ!」と、トラメガを使って街中叫んで走りたいくらいの気持ちだ。「うるさいいいっ!」と怒られても、「汚染水、汚染水、汚染水」と叫び続けたい。叫んで叫んでうんざりされるほど叫んで、そして知らせたい。今、本当に危機だってことを。知らない人みんなにそれを知ってもらい、後手後手にまわってる東電など蹴散らし、政府、いや、世界の英知に集結してもらうように国民全員でお願いし、汚染水対策に世界中が一丸となってわっせわっせと取り組んでもらい、それを厳しく、これ以上なく本気で監視したいと心から願う。
 

 

 などと日夜考えては、1人カッと熱くなってるのだ。8月23日からずっとこの調子。どうしたらいい? この怒りを。この焦りを。この持って行きようのない思いをっ! この思いを冷ますにはどうしたらいいんだろう?

 と思っていたら、同じようにカッと熱くなってる人たちがいたっ! やはり! そりゃそうだろうっ?! それは官邸前でいつも抗議行動をやってる人らだ。急遽8月28日夜、東電前で抗議行動が行われることになった。やった! これだ! 何があっても行ってやるっ! 自爆テロってこんな風?と思うぐらいにフツフツ煮えたぎった気持ちで有楽町に向かった。

 向かったが、開始予定の7時まで1時間近く時間が空いてしまった。煮えたぎってる割には「ビックカメラ」などに行き、のんきにパソコンの新製品などを見て廻る。(ふ〜ん。ノートパソコンて一時期安かったのに、また高いんだね)などとまったくどうでもいいことを考え。さらに「小腹が空いたな」と駅前の「吉野家」に入って「焼き鳥丼」を頼んだら、写真と違いすぎるショボさに、「なんじゃこりゃあああああああああああああああああ!」と、そんなところで怒りのエネルギーを爆発させかけてしまった。店員の中国人らしい女の子に「何これっ? 写真とぜんぜん違うじゃない? 取り替えなさいっ」と怒鳴ろうとしたが、ハッとした。いかん!! 私はこんな焼き鳥丼のためにわざわざ有楽町くんだりまで来たんじゃなかった。こんなところで怒りのエネルギーを使ってどうする? 何してんだ、自分? と思い、「吉野家封印」と自らに言い聞かせ(注:二度と来ない、という意味です)怒りを鎮めて黙々と食べ、そして「いざ、東電前へ!」と、ガッと「吉野家」を出た。

 ザッザッザッ。東電目指して歩く。夕方7時前の有楽町。仕事帰りのサラリーマンやOLたちは夏の疲れをひきずって、けだるそうにのんびり歩いてる。新橋方面の居酒屋などに「わははは」と楽しそうに向かう一団もいる。その間を私はテロリストみたいな顔で歩いていたはずだ。目は半沢直樹ばりにギロリっ。背中は怒りにドゴ〜〜〜〜ッと燃え。妖気さえ漂っていたかもしれない。人は人。私は私。そう言い聞かせようとしたって無理だった。「どうしてあなたたち、そんなにのんきなの? ねえ? ねえ? ねえ?」心の中で繰り返し毒づき、行き交う人に目で必死に訴える。しかし、むろん誰も気がつかない。

 怒りと虚しさとでごちゃごちゃになって東電前に着くと、おおおっ! 思っていたよりたくさんの人がいる。ジャスト7時。私はスルリと集団の一番前にもぐりこみ、持参したマラカスと電飾棒を鞄から取り出した。

 すぐにコールが始まった。
「再稼動反対! 原発なくせ! 海を汚すな! 水を漏らすな! 子どもが大事! 東電解体!」
 ああいうところって何してんの? と知らない人は謎に思うだろうが、まずはこういうコールをマイクで1人が叫び、それに全員が呼応する。やりたくない人は別に叫ばなくてもいい。私の前にいたオッちゃんも叫んでなかった。ただ黙って立ってたっていい。
  しかし私は普段、官邸前での抗議行動でテキトーに「再稼動反対」などと弱弱しく言ってるのの何十倍も大声で、腹ん底から声出して叫んだ。ものすごい力を込めて、まさに魂から叫び! マラカスもブンブン力の限りに振り回して、ガシャガシャガシャ。東電の本社ビルを睨みつけてやった。
「再稼動反対! 海を汚すな! 東電解体!」
 今、私は最高に怒ってる。怒りに震え、どうしても許せなくて。どうしてこうなってるの? どうしてこんなことになっちゃったのよ?
 不条理な事態にこんがらがり、そのこんがらがったものをぜんぶ吐き出すように叫んだ。

 赤旗やらロイター通信やら、新聞社や通信社、テレビ局のカメラなんかも来てる。おなじみIWJも中継をしていた。
 でも通りを行く人は遠巻きに眺めてくだけ。もちろん何か感じてくれたかもしれないけど、わざと邪魔そうにしてぶつかって行くような人もいる。抗議団体なんてうるさいだけ!と思う人もいるだろう。でも、じゃ、どうしろっていうのさ? 国会に行ってロビー活動する? 地元の議員に陳情に行く? あなた、それ、出来る? それ、すべきだけど、けっこうハードル高いよね? 地元の議員に手紙書いて持って行ったり何度かしたことあるけど、秘書が出てきて「確かに受け取りました」で終わりで、一切返事もこなかったよ。

 コールの合間にはスピーチもある。主催者や参加者がスピーチする。でも正直、若い子たちのスピーチにはあんまり中身がなくて説得力に欠ける。自分はやらないくせに、そんなことを思う。
 そこへ反原発活動を数十年も続けている「たんぽぽ舎」のオッちゃんが登場。「東電は柏崎原発には数十億もかけて巨大な防波堤を作ってるのに、福島第一原発には今だ仮の防波堤しかありません。柏崎にかけているお金と人を福島にまわしなさいっ」
 言うことが具体的で、説得力がある。そんなこと、知らなかった。
 これが「続ける」ってことの力だ。何十年も人知れず反原発の活動を続けてきたから言えることだ。オッちゃん、さすがだ。
 しかしオッちゃん。スピーチを終えて後ろに下がってきたら私にゴンゴンと背負ってるリュックが激突してんのに、まったく気づかない。おいおい、オッちゃん、痛いんだよ、痛い。オッちゃんよ!

 それからまた叫んで叫んで叫んで叫んで。持参した水も飲みきって1時間。叫び通した。
 終わったら「ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」と、ドカッと疲れがきた。正直こんなに力こめて、呪います!ってくらい叫んだことは今までなかった。1時間。怒りと呪いのコールを繰り広げた。疲れたが、気持ちはスカッとした。正直、途中コールしながら興奮して涙が出そうになった瞬間さえあった。

 でも、だから何なんだ? それは自己満足じゃないのか?
 そう言われたら、その通りだ。私のこれはまったく自己満足だと思う。「かっとばせ〜〜」と野球場で大声で叫んでスカッとしたのと何ら変わらないかもしれない。でも今、こうやって叫ぶことぐらいしか思いつかないし、出来ない。叫んで叫んで、とにかく叫んで。声が枯れ、喉が切れるまで叫ぼうと思う。

 帰り道、あまりに疲れてよたよたし。1人、コンビニに寄ってお茶とパンを買い、イートイン・コーナーでモグモグした。その姿は孤独で貧しく、荒れ果てたオバさんだったろう。いかん! 友達は同じ時間帯に「婚活セミナー」へ行ってるというのに、私、何してんだ。髪振り乱して。銀座で。夜。
 しかし、そう思いながらも私は、「また来よう」、そう決意した。たとえそこに意味がなくても。荒れ果てたオバさんでも。私はまた叫びに来るんだ。

 
 
 
 

-ヒビレポ 2013年9月6日号-

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