四十の手習い 第12回


巧妙な罠にハマる

 
海江田哲朗
(第12、13号で「劇団カクスコ 11年後のカーテンコール」執筆)
 
 

ある日、えのきどいちろうさんからLINE経由で連絡があった。

「来週の(レポ)発送日、ブルースハープとホルダーを持参してよ」

そこに私は何を感じ取ったか。連載に山場を作ってやろうという、えのきどさんの親切心である。発送作業後のレポTVで、披露の場を用意してくれるのだな。その気遣いに感謝し、「承知しました」と返信した。「耳がどうなっても知りませんよ」と、軽いジョークを添えて。

9月10日、『季刊レポ』13号の発送日。作業はいつものように和気あいあいの雰囲気で、お菓子をつまみながらムダ話をしつつ、無事完了した。あとはレポTVの収録開始まで、勝手気ままに過ごす。下関マグロさんは「じゃ、そろそろ」と腰を上げ、お帰りの様子だ。「帰っちゃうんですか? 今日はブルースハープのライブがあるのに」と、機材のセッティングしていた技術のヨシオカさんが言う。すると、ついさっきまで楽しげにコロッケの話をしていたマグロさん、「それはまずい。すぐに帰らなくちゃ!」と脱兎のごとく逃げ出した。
 

 

レポTVの収録が始まった。MCの北尾トロさんとえのきどさんが今号の執筆陣を順番に呼ぶ。私はドキドキしていた。家族以外に聴いてもらうのは初めてだ。その一方で、勝算は充分にあると考えていた。皆、ハーモニカとは縁遠くなっているはずだ。音の良し悪しなんて、わかりゃしない。こんな感じだったよね、と思わせればこっちのものである。うまくすれば、技術のつたなさが幸いし、「なんかこう、四十男のひたむきさが心に沁みるよね」と好印象を与えることだって不可能ではない。何より、自分には血の滲むような練習を重ねた『キラキラ星』がある。一応、リクエストを受け付けるが、「そういう気分じゃない」「残念、売り切れです」と片っぱしからはね除けるつもりだった。

そして、ついに私の番が回ってきた。劇団カクスコの話をちょろっとしたあと、いよいよブルースハープの演奏だ。私は慣れた仕草でブルースハープを持ち、『キラキラ星』を奏でた。

 
♪ドドソソララソ、ファファミミレレド♪。
 

最後にぐっとタメを作り、レ〜レ〜〜ド〜と力の限り吹いた。やったぞ。初の演奏会をどうにか乗り切った。――アレ、なんだか場の空気がヘンだな。なぜだ!?

 
爆笑するトロさんとえのきどさん。
 

「ひとつの音を聴けない。最後までアバウトな音が鳴り続ける。分厚いサウンドとも違う」(トロさん)
「ハーモニカは小学生以来触ってないけど、おれのほうが絶対に上手い」(えのきどさん)

トロさんがブルースハープを取り、えのきどさんに渡す。私は止めようと思った。ちょ待てよ、えのきど。それは無茶だぜ。ブルースハープを甘く見たら、やけどするよ。えっ、楽譜も見ないの? そいつは訓練も受けずにライオンに跨るようなもんだ。おい、ほんとにやるのかよ。もうッ、えのきどは言い出したら聞かないんだから。

 
お手並み拝見といこうじゃないか。
 

えのきどさんは楽譜も見ずに、『キラキラ星』をきれいに吹いた。いきいきとした旋律、クリアな音で。私のブルースハープが初めてポテンシャルを解放した瞬間だった。思えば、これまで自分の吹いた音を耳で聴くしかなかったのだ。

 
勝者、えのきどいちろう!
 

予期せぬ完敗に動揺を隠せない私は、強張った笑みを浮かべるしかなかった。おのれ、えのきど。ハメやがったな。とんだピエロじゃないか。だが、時すでに遅し! 上等だよ。そっちがそのつもりなら、こっちにだって考えがある。ヒビレポ最終回、度肝を抜いてやるからな。
 
 

※詳しくは、9月10日のレポTVをご覧ください。
 
 
 
-ヒビレポ 2013年9月21日号-

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