ヒビムシ 最終回


氷ノ山東尾根:ミヤマアカネ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 

9月15日(日)
 最終回である.当初は「日々の徘徊で気づいた事を適当に」と思ったのだが,この自然体というのがなかなか難しい.最終回もせっかくなのでちょっと遠出をとか,あの場所はハズせんでしょとか,考えてしまうのである.世間は三連休なのでそれを避けてとか,けっこう計画的になってしまう.
 で,今回は13日の金曜日に氷ノ山東尾根に行った事を,せっかくの連休に台風だと世間が恨んでいる15日の日曜日に書いております.明治神宮野球場には雨が降らず,57号が降った日です.

 正確に書くと氷ノ山東尾根の登山口付近である.氷ノ山(ひょうのせん,1510m)は兵庫と鳥取の県境にある山で,兵庫県では最高峰になる.鳥取県では伯耆大山(1729m)が上回る.
 登山口の周辺でもそれなりの高度がある(約800m)うえ,さまざまな微環境が入り混じっているので,いろいろな山の虫が見られる.この辺りをうろつくだけで十分.いつも山には登らないのだ.
 

 

9月13日(金)
 この日は久々に気温が上がり,豊岡市でも真夏日を記録したらしい.しかし氷ノ山へ向かう車からは真っ赤なヒガンバナの群落がたびたび見られ,風景からは確かな秋が感じられた.しめしめヒガンバナもいけるな,と計画的な考が発生した.l
 しかしいつもの徘徊場所へ到着すると,よりステレオジェニックなツリフネソウが咲いているではないか.むむ,花の写真を二枚入れるわけにはいかんぞと計算してしまう.心の中で選考委員会が召集された.
 ツリフネソウには紫のやつと黄色のやつがあって,紫のほうである.今年は六甲山のサイトで黄色のやつを撮った.あれは割愛したな,今ここで蒸し返すか? 貸し借りを言ってどうする?
 ツリフネソウぽつぽつとそこここに見つかる.ある花にコハナバチの類いらしき蜂が訪れていた.かなり深く潜っている.出てくるまでしばらく待ってこれを撮影.こうやって見るとツリフネソウも理解を超えた奇妙な造形である.掲載を決意.
 

 

ツリフネソウ(上下とも立体写真。見方は文末に)

 

 そうなるとヒガンバナ掲載案は却下である.「植物枠」の1コマ分が確定してあと3コマみたいな計算をしている.そもそもヒガンバナは麓でしか咲いてなかったし,帰り際に撮っておかねばという意識も消滅した.

 この付近の秋には黄色いキク科の花が目立つ.湿った場所に黄色い塔が林立し,多数の蝶が舞っている,それがお馴染みの光景なのだ.ただこの植物,ツワブキの仲間だろうくらいに思っていたが,ここに書こうとして調べると,オタカラコウと見なすのが適当な気がしてきた.そっちだとしても自信がない.
 まぁとにかくこの花にはチョウがよく来るのだ.渡りをすることで知られるアサギマダラのほか,ヒョウモンチョウの類いなど.

 この日もヒョウモン類が多かった.動きが速く,静止して吸蜜してる子がいない.適当に撮って事たれり,1コマ分が確定,と思っていたが甘かった.ヒョウモン類は翅の表では同定が難しいのだ.裏を見せて止まっているところを撮らないと名前がわからないのである.
 ただこの写真の子は辛うじてミドリヒョウモンの♂だと判断できそうだ.根拠は三本の黒線である.黒線部分にはフェロモン放出用の発香鱗が並んでいる.これがシッカリしているのでたぶんミドリだろうということになる.

 
 

ミドリヒョウモン

 

 ミヤマアカネもこの場所の定番である.翅に帯があってパタパタとホバリングするので,アカトンボの中でも特に愛嬌がある種類だ.人が近づいても遠くへ逃げない事も多い.むしろ人に驚いて飛び立つより小さな虫を狙って,遠巻きに様子を見ていたりする.トンボが人になついている感じさえする.
 アカトンボは一般に,成熟とともにだんだん赤くなる.この日はまだ麦わら色のものが多かったが,やはり赤いやつを選んで掲載しよう.なるべく秋っぽいやつを … 自然体は難しい.
 このサイトの定番であるミヤマアカネ,筆者は初めからこの1コマ分を見込んでいたフシがある.予定どおりとか計画どおりとかではないと自分では思いたいが,それなりの撮影ができたので帰途についた.

 
 

ミヤマアカネ

 

 来るときは丹戸,奈良尾,福定といったスキー民宿街を通って来たが,帰りは鵜縄の農山村集落を抜けた.もう稲を刈りはじめていた.教科書的な秋の風景だった.先に却下したヒガンバナの事はもう忘れていた.そのうちどこかで撮らねばと思っているフシグロセンノウの花を見つけたがパスすることにした.同時にヒガンバナのことを忘れているぞ,ということに気づいた.

 選考委員会の議題は最後の1コマに移っている.じつは登山口付近で二種,有力な候補を見つけ,撮影していた.ヒガシキリギリスとヤブキリである.分類的にも近い仲間で,大型の普通種なのに分類の再検討で混乱という点でも似ている.残り1コマに2候補,どっちにしよう?
 違うのは,前者は無理やりでもまとまった結論が示されているのに対し,後者は混乱したままという点である.話題のまとまりという点では前者,写真の情報量では後者に分があると思う.心の中の選考委員会は議論沸騰,紛糾するのであった.

 すこし前まで日本のキリギリスは一種だと信じられてきた.ところが本気で研究すると,少なくとも二種を区別すべきだと分かってきたらしい.この考えに準拠する以上,和名で「キリギリス」と呼ぶ種は存在しないものとし,あらたに「ニシキリギリス」と「ヒガシキリギリス」が居るものとして再出発するのが建設的ということになる.なお命名のルール上,従来キリギリスに当てられていた学名はニシに当てられる.
 筆者は具体的な識別方法を知らないのだが,既知の分布から,氷ノ山付近のやつはヒガシキリギリスであるはずだ.
 ごく普通に見かける大型の種でもこんななのだ.同様の「実は二種を混同してました」的な事例は枚挙にいとまがない.日本の昆虫の分類はまだまだ研究の余地がある … こう説明して一般化すれば,まとまった話題になる.

 一方,ヤブキリのほうは,まだまだそこまでの結論さえ出ていない虫なのである.撮影した個体は,わりと色が薄く,脚が黒いものである.氷ノ山付近ではこんなのが多いように思うが,意味がある傾向かどうかはわからない.
 とりあえず今のところヤブキリ種群の一種だとしておくか,ヤブキリという種だとしておくか,その亜種であるヤマヤブキリの北近畿個体群だとしておくか,独立な亜種キンキヤブキリとしておくか,どれにしても呼び方の違いでしかない.
 わりとよく見かける大型の虫でもこんななのだ.同様の「ややこしくて簡単に結論が出ない」的な事例は枚挙にいとまがない.日本の昆虫の分類はまだまだ研究の余地がある … こう説明して一般化しても,それなりに話題になる.

 ということを両方書いてみて,やはり図示する意義があるのは … ヤブキリ.

 
 

ヤブキリ

 

 時間が経つと意味不明になるので補足しておこう.小渕官房長官の「平成」,IOCロゲ会長の「TOKYO」みたいな感じで「ヤブキリ」と読んでください↑.

 とまあ13回にわたるヒビムシにお付き合いくださり,ありがとうございました.当分のあいだ3DS用の3D画像をこちら↓のサイト「ヒビムシ Archives for 3DS」に配置しておきます.3DSをお持ちでしたらぜひご覧ください.

http://photo3d.web.fc2.com/hibi/hibimush.htm
 
 
 

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.
 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年9月29日号-

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