「食い物の恨み」は消えず 最終回

お通夜の朝に食べたコロッケ

 
下関マグロ(「池袋の穴」連載中)
 
 
 

 
7月の終わり、父が倒れ入院したと母から電話があった。
8月のはじめ、母からもう父親が危ないという電話があり、急いで実家のある山口県へ向かった。
病院のベッドに横たわる父親は意識はなかった。
耳元で、父親に声をかけると、かすかに目をあけるというかんじ。
ああ、人間というのはこうして死んでいくのかと思った。

危ないと言われながら、お盆に帰省したときには、父親はまだ病院のベッドで生きていた。
そして、8月の終わり、早朝に母親から電話があり、父親が亡くなったことを知らされた。

その日のお昼までに3日分の仕事を終え、妻とともに新幹線に乗った。
弟からのメールでこの日は友引だからお通夜は明日になることを知った。
 

 

夕方、駅に到着し、家に電話すると、母が出た。
セブンイレブンでおにぎりを買ったというので、
駅前のスーパーでお惣菜を買って帰ることにした。
あれこれ買ってレジに行こうとすると、妻が
「コロッケありますよ」
と教えてくれた。見れば、棚にひとつだけコロッケの袋が残っていた。

 

 

3個入りで150円だった。安い。
実家に帰ると、意外に元気な母がいた。
母は、朝から何も食べていないというので、
すぐに食事にした。
自分たちの買ってきたお惣菜を電子レンジで温めて食べながら、
父親の亡くなったときの話などを聞く。
コロッケ以外はほとんど食べた。

食事後、洋間にある書棚へ向かった。
ずっと気になっていた「コロッケの唄」の歌詞と楽譜が
「日本の詩歌」という全集の別巻「日本歌唱集」に入っていたはずで、
それを確認したかったからだ。
しかし、そこに「コロッケの唄」はなかった。

翌朝、妻が御飯を炊いて、母がトマトとナスの味噌汁を作ってくれた。
僕は、コロッケを電子レンジで温めた。
「3個あるからひとつずつ食べようか」
と母に言うと、
「朝からそんな脂っこいものはいらん」
と言うので、僕が2個食べることにした。

 

 

食べようとするとき、母親が
「きょうもコロッケ、明日もコロッケ」
と歌い、ふふふっと笑った。
ああ、そうか、母親がコロッケを出すたびにこう歌っていたし、
歌い終わったあと、必ず、ふふふっと笑うのだ。
僕はこの歌を知ったのは、「日本歌唱集」ではなく、
母の歌だったことに気がついた。

コロッケの話はいったんこれで終わります。

 
 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
 
-ヒビレポ 2013年9月30日号-

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