MAKE A NOISE! 第17回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

馬鹿な子ほど可愛い

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 

有名な親や祖父母を持つのも…というのが前回だけど、兄弟も嫌だ。同じように暮らした子ども同士だったのが、大人になるにつれどんどん差が開いたら、そりゃひがまずにはいられない。

結びつきが強い双子は反動も大きいのか、イギリスでは別世界の人となった2組の双子が有名。
センセーショナルな作風で、アーティストというくくりを超えて活躍するトレイシー・エミン、双子の兄弟は失業して生活保護受けた。
最近は歌手というよりミュージカル・スターのウィル・ヤング、双子の兄弟は警察沙汰起こしてイーブル・ツインとか言われちゃってる。

関係がこじれて骨肉の争いになると目もあてられないけど、成功した兄とひがむ弟の組み合わせでフィール・グッド・ムービーになった珍しいドキュメンタリーが『Mistaken for Strangers』。曲名と同じタイトルでおわかりのように、アメリカのインディー・ロック・バンド、ザ・ナショナルのドキュメンタリー。

 

http://www.youtube.com/watch?v=QKYMHhMeexU

 

 
ヴォーカリスト、マット・バーニンガーの弟トム・バーニンガーが監督で、バンドより兄弟関係がメインのドキュメンタリーになってるのがご愛嬌。
そもそも、このバンド、5人編成でマット以外の4人は2組の兄弟。トムにしたら、なぜマットは俺を入れない!となって当然。

だが、このトムがまた見事に不出来な弟。あまりのコメディタッチに、ダメキャラ演じてる? それが、どうも素らしい。
兄弟のアルバム見ても、なんとなくわかる。9歳違いの兄はいつもかっこよく、その横に子ども子どもした弟という図。そのまんま40代と30代になったのね。

ところで、この秋、遅ればせながら日本の話題作を見た。レインダンス映画祭にきた『霧島、部活やめるってよ』とロンドン映画祭にきた『そして父になる』。両方とも、わかりやすく出来るやつがかっこいい。前者では帰宅部のみなさんが背も高くてスポーツ万能だったり、後者ではエリート父さんを福山雅治が演じる。

『Mistaken for Strangers』では、それがリアルライフ。映画だけじゃなく、世の中はほんとに不公平なところなのだ。
スラリと長身で渋い兄マットと対照的に、ジャック・ブラックとかジョナ・ヒルみたいなコメディ役者の王道的デブの弟トム。顔だけ見ると、けっこう似てるのが、かえって悲しい。

トムはバンドのローディーとしてツアーに参加しつつ撮る。ツアー中も、マットとシェアした部屋のバスルームの床に食べ物置きっぱなしで怒られるというデブキャラな失敗。あげく「俺だって楽しみたいよ」と遊びすぎ、次のコンサート地に出発するツアーバスに間に合わなかったりとかなりいいかげんなやつでもある。
そのくせ、同じイベントに参加したオバマ大統領とバンドの記念撮影に、自分が入れてもらえないことにはグチグチ。その弟をなだめる兄マットも大変だ。

とはいえ、この弟の良いのは、ひがんでるのを隠さないこと。「マットと俺とどっちが才能ある?」なんて、おっさんになった息子に聞かれるご両親も気の毒だけど。
でも、母はえらい! わかってるし、信じてる。
母「あなたは何でも続かないだけよ」
トム「そんなことないよ」
母「野球は?」
トム「やってたよ。やめたけど」
母「ほらね」
てな会話も交わされ、母はこの息子の才能を信じてる。父もマットも信じてる。
結果、こんな面白いドキュメンタリーが作れたんだから、確かに才能はあるのかもしれない。

『霧島、部活やめるってよ』で映画部のギークが好ましく描かれ、『そして父になる』ではいけすかないエリート父さんより、リリー・フランキー演じる庶民派父さんが良い父親ぶりを見せるように、このドキュメンタリーにもちゃんとダメなほうの見せ場が。
最後近くに、歌うマットの後をマイク・コード持って追うローディー、トムの映像。客席の中をぐんぐん進みつつ歌う兄の後ろを、必死にくっついていくデブの弟の姿に、不覚にも涙ぐみそうに。すっかり母の気持ち。いや、ダメなやつに自分を重ねてただけか。

伸びやかに才能発揮してる兄と、伸びやかなダメッぷりの弟を見てると、ご両親の育て方は間違ってなかったと思う。次回は、明らかに間違った育て方をされた人のドキュメンタリー。
 

 
 
-ヒビレポ 2013年10月22日号-

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