展示される生きものたち 第5回


日本初の昆虫生態展示施設・としまえんのもり昆虫館

 
日高トモキチ(生きものなんとか紀行連載中)
 
 

東京都のまん中へん、つまり23区のはずれに位置する練馬にある遊園地がとしまえんである。
平安〜室町時代に南武蔵を治めた豊島氏の居城跡だから豊島園という由来はあまり知られていない、気がする。
豊島氏はその末裔泰経が太田道灌と争って敗れ、滅亡した。
このとき父を追って三宝寺池に身を投げたお姫様を偲び、練馬では毎年春に「照姫まつり」が開催されている。

としまえんの開園は1926年、日本でも屈指の歴史をほこるアミューズメントパークである。
メリーゴーランド『カルーセルエルドラド』は1907年にドイツで造られたもので(としまえんへの移築は1971年)、現存する機械式の遊具としては日本最古とされる。
どんなものかと思って見てみると木馬はただぐるぐる回るだけで上下しない。20世紀初頭にはそのへんの細かい技術は確立されていなかったのだろう。
とはいえアンティークな佇まいは非常に雰囲気があり、TV番組等のロケに用いられることも多い。
ジェットコースターも古い。昭和40年からある「サイクロン」はさほど高低差のないアップダウンのみで構成されるシンプルなものだが、822mと距離が長く乗ってみるとかなりスリリングで普通にこわい。
夏場はプールでたいへん賑わう。しかし一方の呼び物であった花火大会は周辺住民の苦情とかで数年前に中止になってしまった。
とまれ都民にとってはさのみパッとしない、同時に敷居の低いフレンドリーな遊園地として親しまれている。

 

 
さて、このとしまえんの敷地内、あじさい畑の奥のどん詰まりの林の中にぽつねんと昆虫館が建っている。

 
ぽつねん
 

としまえん自体が決して派手な存在とは言えないのに、これはさらに別して地味なアトラクションだ。たぶん気がついてない人も多い。
しかも入園料(おとな1000円)以外に別途入館料300円が発生する。気づいたところでスルーするお母さんも少なくあるまい。虫だし。

だがこのとしまえんのもり昆虫館、あの矢島稔先生の創設になるものなのだ。じゃじゃーん。

とはいっても昆虫クラスタでない皆さんにはあまりピンと来ませんよね。
矢島先生は上野動物園水族館館長〜多摩動物公園園長を歴任後、1999年からは群馬県立ぐんま昆虫の森園長をつとめられており、本邦生物展示施設の生き神様みたいな昆虫学者なのだ。
日本の各地域でその年に初めてモンシロチョウがとぶ時期を図示した「モンシロチョウ前線」は矢島先生が最初に提唱されたはずである。
そんな先生が1957年、日本で初めての昆虫生態展示施設として創設したのが「豊島園昆虫生態館」。矢島先生、実に27歳という若さでありました。

 
新しさこそないが清潔感のある内部ダンジョン
 

現在の昆虫館は生態館をリニューアルしたものだが、そのような経緯もあって相当にちゃんとした展示施設なのである。
スペースこそ限られてはいるものの、常時40〜50種の国内外の昆虫の生体が飼育され、かなりレアな標本も飾られている。

 
生体展示 タガメやゲンゴロウ等水生昆虫も充実 あとタランチュラやサソリもいるよ
 

標本展示 「世界一美しい蛾」ニシキオオツバメガ だとかその他もろもろ
 

そしてマニアなあなたも腰を抜かすディープな一室。遊園地のアトラクションで冬虫夏草の寄生標本や性モザイク個体の展示解説が見られると誰が思うか。
昆虫にはしばしば雌雄両方の形質が身体の左右などにモザイク状にあらわれる”両性具有”の個体が見られ、このような現象を性モザイクとか雌雄モザイクと呼びます。
性決定のメカニズムが哺乳類等とは異なるためだとかいろいろ考察はあるわけだが、ここは自然界に実在する半陰陽生物の不思議に素直に驚きたい。
ヘラクレスのモザイク個体とか鼻血ものだよこれ。いやピンと来ない人にはぜんぜんわかんないと思いますけど。鼻血だす人が病気なんでまあ許してくださいブー。

 
冬虫夏草やモザイクや7本脚奇形標本や
 

そんなニッチな怪奇現象に興奮できない健康な皆さんでも安心。どんじりにひけえし当館の目玉「ふれあいジャングル」。
スペース内に放し飼いになっているカブト・クワガタ(外国産)と自由に遊べるんだ。
子供の頃図鑑で見て憧れた虫を好きにさわりまくれるとか夢のようですよ。いざレッツおさわり魔。

 
ふれあいジャングル〜(cv:大山のぶ代 or 水田わさび)
 

特に一頭のアトラスにめっちゃ懐かれて、指に口元をくっつけたままちっとも離れてくれませんでした。
カブトムシ類に吸血のギミックはたぶんないので、手指の汗の塩分がおいしかったのかもしれん。

ふれあいジャングルではお父さんと男の子のふたりづれと一緒になった。
案の定「すげーな、すげーな!」と興奮しているのはパパの方である。
少年はただ黙って目に入るものをとりあえずぜんぶ写真に撮っている。
興味はあるのだろうが決して手を出すことはない。いかにも現代っ子っぽいアプローチで、ちょっと面白かった。
アトラスを手に乗せて目の前に出してあげると、「いいの?」とアイコンタクトを送ってきた後にやっぱり写真を撮った。
お父さんがにこやかに「ありがとうございます」とお礼を言ってくれた。
息子さん、虫とカメラは後者の方が好きかな。おれはどっちも好きだが別段こういう大人になって欲しくはなかろうな。

 
遊んでくれた虫のみなさん ツヤクワガタは挟んでくるので気をつけよう
 

わざわざ遊園地に来てこんなところに入るのは頑是ないちびっこかマニアな変態の両極端な人種なわけで、その両方をこじんまりと満足させてくれるすてきな施設だと思う。
売店ではなぜか化石売ってたりゲンゴロウルーレットやってたりするので、こちらもぜひ返す刀で楽しんでいって頂きたい。

さてこのままとしまえん自体を出てしまってはいかにも入園料がもったいない。せっかくなのでうろうろ遊ぼう。
おっさんひとりで来ても楽しいよ、なメッセージを込めて自画撮りしたら微妙な感じになった。

 
あきらかに不審者
 

ちなみに翌日ほぼ同じ風体で歩いていたら昼間にもかかわらず職務質問されたことを付記しておく。そんなに怪しいですか俺。とほほほほ。

 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年11月2日号-

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