MAKE A NOISE! 第19回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

親子って…

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 

貧乏も若いうちなら、けっこうへっちゃら。日本やイギリスは福祉国家、建前、貧乏では死なないことになってるし。
でも、年齢がいったら微妙。貧乏上等!好きなことできてるからOK!と言い切れるか。
篠原一家のドキュメンタリー『キューティー&ボクサー』を見ながら、貧乏上等!と生活が第一!との間で揺れました。
 
 

 

41歳と19歳で出会って40年、有司男が80歳、乃り子も還暦になろうというニューヨーク在住篠原夫妻。映画冒頭、家賃どうしよう、その前に光熱費払わないと止められるという会話もあって、生活はきつそう。でも、楽しそうでないこともない。

 

 
2人ともバリバリの現役アーティスト。三つ編姿が可愛い乃り子、動きも軽快な有司男とも年寄りっぽさが微塵も無い。
映画タイトルも、自分たち夫婦をモデルにしたキューティー&ブリーという乃り子の作品と、有司男がグローブで絵の具を打ちつけて描くスタイルから。

常人とは生活感覚も違うアーティストなら、貧しくとも楽しい一家は可能か?が、やはり、そんなに甘いものじゃなかった。
凡人は天才に仕える義務があるなんて強気で、乃り子に制作手伝わせる有司男。ひどい。
そんな有司男も酒が入ると本音がちらり。「俺も昔は…」みたいな発言から一転、不遇の身を嘆いて暴れそうになる有司男を皆が押さえ込むという、古いホームビデオからの場面も。
強気でいかないと、やってられない有司男なのか。そのあたりもひっくるめて、受け止めているような乃り子。

受け止めつつも、忍耐するばかりの妻ではないのが面白い。
5年前、24歳の時に夫妻に初めて会ったザッカリー・ハインザーリング監督も「アメリカ風の考え方から言えば、これだけ喧嘩して、なぜ、まだ、いっしょにいるってことだよね。その根底に何があるのかなと」始まった映画。
 
 
ザッカリー・ハインザーリング監督 2013年ロンドン映画祭(撮影:著者)
 
 
安い鯛がこんなにおいしい!と、乃り子がさばいた鯛の刺身に舌鼓を打つ有司男に、高級レストランに負けない私の調理代が高いと返す乃り子。日本語があまりわからないハインザーリング監督に撮られつつ、夫婦の日本語での言い合いも漫才風に息があう。

芸術論も戦わせる2人、アーティストはデビュー作が一番という有司男と、だったら作り続ける意味が無いという乃り子。
これ、それぞれ自分のこと言ってるみたい。新鮮味が薄れてきたような有司男作品の一方で、乃り子は有司男との長年の暮らしを基にしたキューティー&ブリーが評価される。

絵空事ではない生活の重みをはっきり表すのが息子の存在。もう中年になっている息子の、子ども時代の映像で、私の心の針は生活が第一!方向にグーッと。
母である乃り子にも、その思いはあるようだ。酔っ払いの中で育ててしまったと自責コメント。子どもの頃の息子は、酔っ払いの父親や貧乏暮らしを恥じていたというし。

だが、しかし、今の息子はキッチンで立ったまま水のように酒を飲み、母乃り子にストップかけられてる。おおっ息子よ! ショックを受けるも、よけいなお世話ですね。
たとえアル中としても、会社員なら難しいけど、息子もアーティスト。恥じた半面、両親の生き方に魅力も感じてた? 単に遺伝? わかるような、わからないような。

真逆の例を思い出した。その昔、こちらで知り合ったアーティストの親を持つお嬢さんは「結婚するなら、絶対月給取り!」と断言してたなあ。あっ、でもそのお嬢さん自身も、やっぱりアーティストだった。ウーム…

イギリスでは11月から、日本でも12月21日から公開だそうです。

ところで、デビュー作が一番というのは、ちょっと賛成。私もデビュー作が一番好きと思う監督がいっぱい。来週はデビュー作が日本公開となる監督などを。
 

 
 
-ヒビレポ 2013年11月5日号-

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