散歩がてらに部屋を探す 第6回

方南町編 ~部屋探しは恋愛と同じだ~

 
半澤則吉
 
 

 
 

「半澤さん、今お電話大丈夫ですか」
ここまでお世話になっている最寄り不動産屋のKさんからの電話に正直、僕は戸惑った。数日前にも電話があり当分は内見に行けないと、そう伝えたばかりだったからだ。強引な営業をすることのないKさんからの連絡はとんでもない事態の発生を予感させた。案の定、彼はかなりテンション高め、掘り出し物です、掘り出し物です、そう2度繰り返し、新着物件について熱く語り始めた。
 
 
物件No.13 方南町1LDK 2階
 

        ○1LDK フローリング8帖 和室8帖
        ○最寄り駅:丸ノ内線方南町駅徒歩10分
        ○家賃6万円/ 管理費2000円/敷1礼1

 
 

 

「資料送りますので、是非見てください。内見行くのなら2、3日以内じゃないとダメです。多分なくなっちゃうんで」
最後まで興奮して話していたKさんは、電話を切るとすぐに物件データを送ってくれた。なんだ、1LDK。まあ安いのは魅力的だけどそんな騒ぐほどか… 。が、小さなゴシック体の文字が目に飛び込み僕は驚嘆した。『鉄筋コンクリート造 2/3階建 マンション』。そう、マンションなのだ。僕は即刻Kさんにメールを送り2日後の内見を予約した。6万円台1LDKのマンションとはまずあり得ない。なるほど掘り出し物だ。間取りを眺め2日過ごす。わくわくして迎えた内見当日はけれど、土砂降りだった。

雨の中不動産屋へ行くとKさんはまずこう一言。
「今日の物件はもう他の方が契約直前です。最初に私から半澤さんにお声がけした、ということもあるので保留にしてもらってます。なので申し訳ないですがこの物件に関しては本日中に返事をください」
かつてないスクランブルな感じにちょっとたじろぐ。いくらなんでも今日の今日は難しい。ならば一応見るだけ、というつもりで内見へ向かった。方南町に着いても雨は勢いをますばかりで、防水、撥水という機能を少しも持ち合わせない僕のスニーカーはすぐにビショビショになった。駅からきっかし徒歩10分。閑静な住宅街にそのマンションは建っていた。
 
 

 
 

 
 
部屋を見てしまうと、「即日契約」という重たい枷があるにも関わらず僕の気持ちは大きく揺らいだ。LDKはフローリング、和室は大きな収納とちょっとした板の間が付く珍しい形。ここはデスクを置くのにちょうど良さそう。そして何よりキレイで印象はいい。風呂の窓も入れると3面採光となかなかだ。
 
 

 
 
収納の逆側にも細いフローリングが敷かれている。ピッタリサイズを探すのは大変だが本棚を並べたい、と早くもビジョンが生まれる。

しかも
 
 

 
 
バルコニーには外収納が。なかなか立派な倉庫だ。登山用品や釣り道具など突っ込むのに最適だがインドア派の僕はこれをどう使いこなせるか。
 
 

 
 
風呂、トイレ別で両方ちゃんとしている。マンションなので壁もアパートより厚いようだし、駅から近いし。あれ、いいじゃん、今日判子押すのもあるな、うんうん、とにやける僕に更なる朗報が届く。
「下の物件はもっと安くなりますよ」
と、この日ばかりは営業トーク連発のKさん。と言うことで1階の部屋も内見。
 
 
 
物件No.14 方南町1LDK 1階
 
○1LDK フローリング8帖 和室8帖
○最寄り駅:丸ノ内線方南町駅徒歩10分
○家賃5万5000円~6万円/ 管理費2000円/敷1礼1

 
間取りは上と全く同じ。違うのは風呂がバランス釜という古くさい見た目。昔ながらの風呂をリフォームするなら家賃は6万、しなくてそのままなら5万円台中盤まで落ちると言う。これこそ本当に掘り出し物らしく、まだ募集前物件。しかし、こちらにも既に契約予定者が…。恐ろしい人気だ。
5万中盤なら今とほぼ同じ家賃ということになる。部屋数も広さも収納も倍加で家賃変わらないのなら、それはもう文句ないじゃないか。今回の物件探しで最も「契約」という言葉に針が触れた瞬間だった。しかし、しかし、いくつか気になる点が…。

いつかどこかで書いたが僕は今年大殺界というなんか調子悪い時期の真ん中らしい。加えて気学という観点からみると、今の家から方南町は凶方位。まあ、占いなどあまり信じないから内見まで来た訳だけど、もう一点やばいことが発覚。風水的には北東が鬼門とされここに玄関、水回りがあるのはNGらしい。だがこちらの物件は、風呂、トイレ、玄関を北東にコンプリート。正直これは気持ちが悪かった。(毎日引越しのことばかり考えているとオカルトめいた知識もついてしまい困る)またこの2つの物件が値下がりした理由も少々気になった。マンション内の他の部屋も空いてしまったため都合3部屋空室になっていると言うのだ。しょうがなく値を下げこの価格に。借りる側からすれば狙い目だが、空室がたくさんある物件というのもあまり気持ち良くないなあ(ちなみに今住んでいるアパートも3分の1は空室だ)

帰路、あれこれ考え続けたが答えは出なかった。とうとう不動産屋に着いてしまう。いよいよ、どうしますか、という段。悩みに悩んだ僕が出した解答は、ノーだった。
「本当にすいませんが、ごめんなさい」
「そうですか、もったいない気もしますがしょうがないですね。ただし、この物件はもうキッパリ忘れてください。このクラスのお得物件はまずありませんから」
決め手は何だろう、やはり良くない要素揃いまくり、というところか。もちろん立地的なところもあるけれど…、正直なぜ首を横に振ったのかは自分でも論理的に説明できない。

そして、帰宅後は仕事が手に付かなかった。情けないけれど、後悔していたのだ。いや、後悔ともまた違う。胸にシコリが残りとにかく気分が塞いだ。物件契約の際に「おめでとう」ございます、と不動産屋は言ってくれるがあれの意味がやっと分かる。部屋探しも縁、タイミング、直感、雰囲気が大事なのだ。恋愛と全く同じではないか。こちらから「ごめんなさい」と伝えたのに、まるでこちらがふられたような心地だった。超掘り出し物物件と契約しなかったことでいよいよ、部屋探しと言うものが分からなくなった。このやるせなさ、この虚無感、一番近い感情は失恋だ。

と、完全に煮詰まった。もう何が何だか…。なので次回は物件探しを一度休み、番外編です。ちゃんとしたところで一度占ってもらうことにします! 本当に方位とか運勢うんぬんとか気にするべきか、一回ちゃんと理解しておくんだ。なんだかんだ、もうあまり時間がない。

 
 

【今回のまとめ】
○空室が多い物件は価格が下がりやすい。
○募集前の物件でも時として契約されてしまうこともある。
○不動産屋からピンポイントの掘り出し物を紹介してもらえるというのは長期間部屋探しをしているメリットか。
 
 
 
-ヒビレポ 2013年11月6日号-

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