MAKE A NOISE! 第20回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

らしくない

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 
デビュー作には、その人のエッセンスがつまっているといいます。私も、デビュー作が気に入った監督は、だいたいお気に入り監督になっています。2作目、3作目…とその監督らしさともいうべきものを確認しつつ、やっぱり良いなあと見ていくことになります。
今回は、らしくない?と思えた新作で、あらためてエッセンスを考えた2監督です。

『サンキュー・スモーキング』でデビューのジェイソン・ライトマン監督、エッセンスにはコミカル成分が入っていると思っていました。失業問題が背景にあった『マイレージ、マイライフ』でさえ、笑わせてくれたほど。

それが、新作『とらわれて夏(原題:Labor Day)』には、入ってない! 「(監督するのが)怖かった」とライトマン監督が言うほど、これまでとはタイプの違う映画です。
レイバー・デーの連休中に出会った脱獄囚(ジョシュ・ブローリン)をかくまうことになってしまった母子家庭(ケイト・ウィンスレットとガトリン・グリフィス)のお話。スリラー仕立ての人間ドラマなので、笑いとは相性が悪い。原作はジョイス・メイナードの同名小説。ちなみにメイナードは18歳の時に53歳のJ.D.サリンジャーと同棲していたことでも知られる人です。
 
 
妊娠中のケイトをいたわるジェイソン(左)とジョシュ(右)
2013年ロンドン映画祭『とらわれて夏』会見 (撮影:著者)

 

 

新境地とも思える作品ですが、考えてみると、ライトマン監督作には笑いの底に楽観的/肯定的というエッセンスもあります。必ずしもハッピーエンドでなくても、まっ、なんとかなるさ的な明るい余韻を残してくれる。それで言えば、『とらわれて夏』も確かにライトマン風です。
 
 

 
 

怖ろしげな脱獄囚の位置が徐々に変化。子とキャッチボールしたりで父親ふうに、母とも愛が芽生える。それが見えるのが「(いただきものの桃)わるくなる前に食べちゃわないと」「いや、もっといいアイディアがある」てなことで始るパイ作りのシーン。後ろから手を添えて、こうするんだよのパイ作りにドキドキ。なつかしの『ゴースト ニューヨークの幻』デミ・ムーアとパトリック・スウェイジの陶芸シーンのよう。
その母と脱獄囚を何がしかの思いを込めて見つめる子もいるわけで、さすがにあそこまで甘いシーンにはしてませんが。それにしても、背後からの抱きしめ指導は効きますね。

結局、脱獄囚と母子の思ったようにはいきませんが、きっとこの先にと信じる心が最強。監督自身も「大人のおとぎ話」と例えるエンディングです。笑いはなくとも超明るい!
2014年ゴールデンウィークの公開だそうです。
 
 

グザヴィエ・ドラン監督の新作『Tom at the Farm』も、前3作とはかなり違っていました。
その前に、Xavierの表記はフランシスコ・ザヴィエルの昔からザヴィエルと決まっていたのでは? 今さらグザヴィエと言われても、これまでずっとザヴィエル・ドランで書いたものをどうしてくれる!
というところで、かねてから訴えてきたカナ表記廃止/ローマ字表記推進を再度、声を大にして唱えたいです。

そういえば、『トランス』でダニー・ボイル監督をインタビューした際、「ヴィンセントが…」と何度もおっしゃるから、うっかりヴィンセントと書きそうになって気がついたカナ表記はヴァンサン(・カッセル)。出身地主義の日本ではフランス語読みでヴァンサンなんですね。もうハリウッド俳優だし、ヴィンセントと呼ばれることも多いだろうに。
ややこしいことはやめて、ローマ字で書いて英語読みでもフランス語読みでも日本語読みでもそれぞれ好きに読めばいいのに! うっかり出身国でも読まないようなカナ表記しちゃうより、スペルが間違ってないだけましじゃん!
ハーすっきりした。

『Tom at the Farm』に戻すと、これまでのドラン作品に見られたコメディタッチが消えています。恋人の葬儀のため田舎町にやってきたトム(ドラン:例によって監督のほかにもいろいろ担当)と、亡くなった弟がゲイだったことを隠したい兄というところで起こるドラマ。こちらもスリラー仕立てで、笑いの出る幕はありません。

ドラン監督はテンションの高まりをほんとうに面白く見せます。前作まではそこに笑いも絡んだのですが、今回は笑いなしで見せ場にしています。トムとその恋人の兄との微妙な距離が、バイオレンスに向かうのか、性的なものかハラハラ。国際批評家連盟賞を獲得しています。
らしくないものでも成功とは実力。いや、そもそも、らしくないなんて、おこがましい言い方ですね。勝手にそういうものと決めつけていただけ。

と認めつつも、ドラン監督作ではやっぱりデビューの『I Killed My Mother』が好き。ふたを開けてみたら19歳の監督だった!という衝撃とともに刻まれた+半自伝ということもあるかな。
完成度が高まった『Tom at the Farm』かもしれませんが、『I Killed My Mother』にはやむにやまれぬ感があります。この人にはこれを作らなくてはならない理由があったと思わせる作品には、それだけで好感を持ちます。
ドランの幼い日に結びついた映像に、母と子の幸せな時を思って涙。加えて少年と母との愛憎、シリアスないさかいというより何だか上手くいかないお年頃というあたりに、得意のコメディタッチが一番効果をあげている作品とも思います。
 
 

 
 
それと、ゲイをこう使うか!というところでも目からウロコでした。ゲイであることを公言しているドランは、役柄もゲイが多いです。それがメインではない『I Killed My Mother』ですが、例えば、母に「アイ・ラブ・ユー」というシーンでも、あぶなくない。クラブでラリった勢いで夜中に母の寝室に押しかけ、熱烈に愛を訴えるのは、ストレートの息子なら、岩下志麻&坂上忍(その昔、あぶない親子を演じたコンビですが今は誰ですか?)になってしまいそう。あぶなさのかけらもなく、笑えるのはゲイならでは。純粋に母と息子の愛で通せます。

『I Killed My Mother』は『マイ・マザー』として、この9日から公開中!お母さんを殺したりする怖い映画じゃなく、笑えて、後からジワッとくる系で邦題いいかんじ。

次回も、オスカー候補と言われる新作より、やっぱりデビュー作!の監督。
 

 
 
-ヒビレポ 2013年11月12日号-

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