MAKE A NOISE! 第21回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

駄々をこねる

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 
もてる男性の両極に位置する母性本能をくすぐるタイプと父性愛タイプ。前者のはずだったコリン・ファレルが、父親役で登場してきた『Saving Mr. Banks』冒頭に、一抹の寂しさを覚えました。

守ってあげたい役の人だったのに。鳴っている電話を取ったら、切ると殺すと脅され、電話ボックスから動けなくなる『フォーン・ブース』なんてそのもの。
同僚の殺し屋(ゲイではなく普通に気のいいおじさん)がボスの命令に反してまで守ろうとする若手殺し屋役だった『ヒットマンズ・レクイエム(原題:In Bruges)』も、間抜けな可笑しみがあって良かった。
 

 
そういう役柄上のイメージと、アンジェリーナ・ジョリー、ブリットニー・スピアーズ等々浮名を流したお相手は数知れずという実生活でのもてっぷりをあわせ、母性本能くすぐり系と判定。アルコールやドラッグでのリハビリ歴も、弱みも見せる人として、さしてマイナス材料にならないタイプではないかと。
 

 

いや、単に射程範囲が広くて、ものすごくマメな人なのかも。28歳の時に共演した69歳のアイリ—ン・アトキンスをくどいたのは有名な話。一昨年79歳で亡くなったエリザベス・テイラーのごく身内だけの葬儀にも参列とは、範囲広すぎ。ピース綾部も真っ青の熟女好きなのか。

そんなファレルがパパ役ねえ。まあ、いつまでもバッドボーイではいられないよなあ。シングルとはいえ2児の父だし。
ところが、どっこい後半で持ち味出してきます。

『Saving Mr. Banks』は、『メリー・ポピンズ』原作者パメラ・L・トラヴァース(エマ・トンプソン)とウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)の映画化をめぐる攻防を描くもの。ミスター・バンクスとは『メリー・ポピンズ』に登場するお父さんで、パメラの父親がモデル。そう、お父さんを救う、なのです。
 
コリン・ファレル、エマ・トンプソン、トム・ハンクス
         2013年ロンドン映画祭(撮影:著者)

 
映画は、ディズニー社に乗り込む1961年現在のパメラと、パメラの幼い日々を交錯させつつ進行。夢見がちな少女パメラの空想の世界につきあう優しいパパ(ファレル)。でも、考えてみれば、パリッとした姿の銀行マンが真昼間から子どもの遊び相手になっているのはおかしい。次第に、その悲しい事情がパメラにも見えてくる。
社会的にはどうあれ、自分には素敵なパパだった、そのイメージを守りたいと、ディズニーの映画化にも細かく注文をつけるパメラだったのです。口うるさいパメラの中に駄々をこねる少女を見つけ出すウォルトみたいなことになってます。
良き父親役なら、ほかにもいっぱいいそうだけど、娘に守ってあげたいと思わせるところでファレル。納得。
『ウォルト・ディズニーの約束』として2014年公開だそうです。
 

 
 

無駄に長い枕になってしまいましたが、ここからが本題。
スティーヴ・マックイーン監督の3作目となる『12 Years a Slave』が話題ですが、その都度『ハンガー』を言い募りたくて困ってます。

『ハンガー』で主演マイケル・ファスべンダーとともにドカンと世に出たマックイーン監督、ファスベンダーを再度主演にすえた監督2作目『シェイム』も成功で、いまやイギリスの実力派。3作目にしてオスカーに手が届くかと言われるのは、ファンとしては喜んでいいところなのに、それだったら『ハンガー』の方が…という気持ちがむくむくもたげてしまう。

スティーヴ・マックイーン監督 2013年ロンドン映画祭(撮影:著者)
 
 
マイケル・ファスベンダー 2011年ロンドン映画祭(撮影:著者)
 
 
『12 Years a Slave』も悪くないですよ。
1841年、ニューヨーク州で妻や子とまっとうな生活を営んでいた黒人男性(キウェテル・イジョフォー)が、家族の留守中、白人の悪者につかまり奴隷として南部に売りとばされてしまう。主人公とともに奴隷の境遇を見て体験するうちに12年、主人公が家族のもとに戻れることを願わずにはいられません。
見る人がみな主人公の側に立って、一喜一憂してしまう感動作。基になっている自伝は、当時の奴隷の暮らしがわかる貴重なものだそうです。
 

 
それに比べ、実話が基なのは同じでも、『ハンガー』の主人公は獄中でのハンガーストライキで亡くなったIRAのボビー・サンズ(ファスベンダー)。「テロリストを肯定するのか」なんて声もあがったほど。肯定も否定もしていないのは、サンズに対する看守も同じ重みを持たせて描いていることでもわかるのに。
 

 

IRAがどうこうより、私にとって『ハンガー』は母の前で死んでいく2人の息子の物語。1人はサンズ、飢餓は体ばかりでなく脳にもいって、目の前にいる母さえ認識できているかもあやしい。もう1人は逆。はっきりしたまま遮断されるように命が絶たれる。その場にいる母の方がボケていて、息子の死もわかっていない。
こう書くとセンチメンタルなようですが、むしろドライな描き方。そのせいで、かえって深く刻まれます。

もちろん12年間を描く『12 Years a Slave』の方が大作。登場人物も多い。今をときめくベネディクト・カンバーバッチが最初のご主人様だし、ひどい卑怯者としてポール・ダノがまた良い味出してる。プロデューサーでもあるブラッド・ピットは出番が少ないのにキーとなるかっこいい役。
マックィーン監督と再々タッグのファスベンダーはご主人様の1人。奴隷の黒人娘に性的に惹かれつつ、奥方の目も怖いし、この奴隷め!みたいなところもあって大変。そんな愛憎うずまく中に主人公も巻き込まれるという面白い役どころです。

豪華なのは『12 Years a Slave』でも、少ない登場人物の『ハンガー』の方が密度は濃い。サンズと神父(リアム・カニンガム)の息詰まる討論シーンなんて、実際に息を詰めたら死んでしまう20分もの長回し!
ファスべンダーとカニンガムは俗に言うケミストリーが生まれるコンビで、ほぼ2人劇の短編映画『Pitch Black Heist』もBAFTA短編賞とってます。
 

http://www.youtube.com/watch?v=LeqqupWZE-8

 
というように、『12 Years a Slave』を褒める言葉に、もれなく『ハンガー』を絡めたい。
西のファスベンダー、東のイ・ビョンホンに日本の西島秀俊を加えて現時点での細マッチョ御三家とする私ですが、断じてファスベンダーオールヌードのせいではありません。それを言うなら、やせ衰えていない万全なオールヌードの『シェイム』の方をおすすめします。
 

 
あれでとらなかったのに、これで?のようなことも多く、あわせ技みたいなところがあるオスカー。もし『12 Years a Slave』がさらっても、『ハンガー』の分も入っているはず。てか、オスカー関係なくマックイーン監督と言ったら『ハンガー』だし、ファスベンダーと言ったら『ハンガー』!
邦題は未定ですが日本でも『12 Years a Slave』は公開予定だそうで、なら『ハンガー』も公開しなくちゃ駄目!

『ハンガー』に対する私のこの思いも、やはり駄々でしょうか。
と書きたいがための長い枕でした。すみません。ですが、いいこと思いつきました。

『ハンガー』はファスベンダーはじめ出演者もみんなアイリッシュで、アイリッシュによるアイリッシュ映画ともなっています。そして、コリン・ファレルもアイリッシュ!
隠しテーマはアイリッシュ、アイリッシュの一例として長い枕も無駄ではなかったことにしておいてください。

ハンガーストライキの『ハンガー』、セックス中毒を描いた『シェイム』ときて、肉が裂けるまで鞭打たれる奴隷の『12 Years a Slave』と、肉体の極限を描くマックイーン監督ですが、次回はこれがやりたかったのか!という俳優出身監督。

 

 
 
-ヒビレポ 2013年11月19日号-

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