展示される生きものたち 第9回


PARADISE LOST・東京ムツゴロウ動物王国

 
日高トモキチ(生きものなんとか紀行連載中)
 
 
 
葬式鉄というスラングがある。字面から判る通り、あまり褒められた意味ではない。
鉄道ファン一般を指す「鉄」のうち、廃止や廃線の決まった車両や路線に執着する人たちを、やや否定的なニュアンスを込めて呼ぶ言葉だ。
もちろんそのような行動は、失われてしまうものへの純粋な哀惜の念ゆえだったりもする。しかし一方では「今まで特に気にしてなかったのを、無くなると聞いて急に騒ぎ出す」野次馬も必ずおり、静かに終わりを全うさせてあげたいと願うファンからすれば、苦々しい気持ちになるのもわからなくはない。
 
 
2007年11月、東京ムツゴロウ動物王国が閉園するという情報が流れた。
それまでの人生においてまず1ミリも心に留めたことのなかった場所だったが、無くなってしまうのなら一度くらい行っておくかと思った。まず絵に描いたような野次馬である。
 
 

 
 
在りし日の東京ムツゴロウ動物王国(2007年11月)
 
 
もともとムツゴロウ動物王国はムツゴロウこと畑正憲氏が北海道に作った動物の飼育施設である。注意したいのは本来は展示施設ではなかった点だ。
ムツ先生は1971年に北海道の東岸、釧路と根室の中間くらいに位置する厚岸の嶮暮帰島に移住。そして翌72年、対岸の浜中町に建設したのがムツゴロウ動物王国であった。
450万平方キロメートルに及ぶ王国は「人間と動物との共生を目指して作られた」もので、動物園ではない。原則として非公開である。
その後中標津にもムツ牧場を建設。彼のエッセイを読んで生き方に共鳴した若者たちが集まり、道東に一種のアニマルユートピア的な空間を現出するに至った。
 
 
受付嬢だか坊だかは不明
 
 
私自身は畑氏に対して特に思うところはない。TV番組はほとんど見たことがないし、麻雀関係でつながりが無くもないが面識はない。余りにも噂や伝説のたぐいが多すぎる人物であり、まあ、たぶん今後も知遇を得る機会はないだろうし積極的にお知り合いになる気もない。
動物好きというファクターが、その人の優しさや人間性を保証するものでないことはよく承知している。むしろその分人間に対しては徹底して冷たい例も珍しくない。
ただ、ごく専門的な内容を小学生でもわかるように噛み砕いて書ける彼の文章力は、純粋に凄いと思っている。あれ、研究者としてはものっそい稀有な才能ですよ。
 
 
いぬごろごろ
 
 
そんな新しき村は2004年、都会の人びとに動物とふれあってもらおうという触れ込みで東京に出張してきた。
これが東京サマーランド(あきるの市)内の9万平米の敷地を借りて作られた、「東京」ムツゴロウ動物王国だったのである。

東京の王国はしょてから観光施設だ。一般公開され、飼育されている動物たちと誰でも存分にふれあえる。
料金はおとな1700円。閉園時に「動物園にしては高い」という声があったが、上野や多摩の公立の施設と比較されたのでは分が悪い。私営だと思えば妥当だ。
もっとも、駐車料金を別途徴収するのはケチくさい気がした。どんだけ混雑すると想定したのか知らないが、あの辺ぱっと見明らかに土地余ってるからさ。自動車しか交通手段がないような場所で有料パーキングはなあ。
 
 
明らかにスペース取りすぎだろこれ
 
 
そんな王国であったが思うように客足が伸びず、2年後の2006年には運営会社が破産。ムツプロが暫定的に経営を引き継ぐも、翌年には完全撤退の憂き目をみることになる。キングダムを名乗っておきながらわずか3年の統治であった。
 
 
いぬまみれ
 
 
あれからさらに6年の歳月を経た今、破綻の原因をとやかく言ってもはじまらない。が、まずアクセスの悪さが最大の原因だと思って間違いないだろう。
至近距離に私の行きつけの里山を擁する抜群のロケーションは、それだけかなりの郊外だという事実を意味している。文京区の家から出発して、電車乗り継いでもクルマ出しても最短でほぼ1時間半はかかる。住所としては確かに東京都だが、到達時間的には横浜や大宮、津田沼あたりに及ばない。
ターゲットであったところの「都会の人」の多くは自家用車を持っておらず、電車で1時間以上かかるような場所に行こうと思うには多少の義務感が必要になるですよ。
 
 
ねこだらけ
 
 
価格設定も取り沙汰されたが、先にも述べたように個人的には高すぎるとは思わない。敷地内を散策するだけでも都会の動物園では到底味わえない自然環境を満喫できる。
私たちが訪れたのはもう閉園がカウントダウンに入った11月の平日だ。殺伐としてたら嫌だなあと思ったがそんなこともなく、王国はごくごく平常営業が続いているようだった。
晩秋のやわらかい斜光線を浴びて猫は丸くなり仔犬は流れ出す。広々とした牧場では馬たちが軽やかに走り回っている。
施設をとりまく現実の諸問題と関係なく、動物たちは大事にされ可愛がられている。
落日の王国には、いかにもゆるやかな寛ぎの時間が流れていた。なんかほこほこしたよ。
 
 
こいぬ流出案件
 
 
あと、面白かったのはむやみやたらと喫煙所が多かったことだ。ムツ先生ヘビースモーカーやねん。あんなにそこらじゅうに灰皿の設置されているテーマパークは、いまどき他に見た記憶がない。
当時喫煙者であった私もありがたく恩恵に与からせて頂きましたとさ。

閉園後、飼育されていた113匹の犬と41匹の猫、10頭の馬は北海道に戻って行ったと聞く。あの調子だと、きっと大事にされているだろう。
厚岸の王国は相変わらず非公開だ。それでいいんじゃないかと思う。
 
 
おやすみなさい
 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年11月30日号-

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