いきもの事件史  第1回

ニホンカワウソの絶滅

日高トモキチ(生きものなんとか紀行連載中)

「ニホンカワウソは『絶滅』 環境省、レッドリスト改訂

環境省は28日、絶滅の恐れのある野生生物を調べた『レッドリスト』を見直し、ニホンカワウソを絶滅危惧種から『絶滅種』に指定するなど改訂版を公表した。新たに8種が絶滅種に指定され、419種が絶滅危惧種になった。」(2012年8月28日11時50分 朝日新聞デジタル)

今年の夏休みも終わろうかという8月末のニュースである。カワウソの絶滅を悼む声が溢れる一方、「やっぱりなあ」と嘆息する向きも少なくなかった。
それにしても”種の絶滅”とはどういう現象なのか。環境省による今回の指定理由をそのまま抜粋しよう。

「ニホンカワウソ(北海道亜種)とニホンカワウソ(本州以南亜種)は、最後の生息記録が前者では1955年、後者では1979年であり、いずれも30年以上が経過している。安藤(2008)は、過去の調査記録や目撃情報等を整理し、北海道亜種は1950年代、本州以南亜種は1990年代に絶滅したと考察した。ニホンカワウソのような中型の哺乳類が、人目に付かないまま長期間生息し続けていることは考えにくく、これまでの生息確認調査等の結果から絶滅したものと判断した。」

だ、そうである。

環境省の考える絶滅種の指定基準は、だいたい以下のふたつのいずれかにあてはまるもの、ということになっている。
1)信頼できる調査や記録により絶滅したことが確認されている。
2) 過去50年前後にわたり、信頼できる生息の情報が確認されていない。
確定している「最後の一羽」が2003年に飼育下で死亡してしまったトキは前者で、今回のニホンカワウソのケースは後者に該当する。
最後の目撃例は1979年であり50年に達していないが、「中型の哺乳類が目撃されぬまま生存しているとは考えにくい」との判断があったわけだ。

しかしわれわれ素人は考える。
「いやいや、めっちゃ巧みに隠れてて見つかれへんのとちがう?」「まだどっかで生きてるんじゃないか?」
今後もしカワウソが再発見された場合、当然ながら絶滅指定は撤回されるはずだ。そんなことってあるのだろうか。

調べてみるとあるわあるわ、「リセットされた絶滅宣言」。
ここ10年間くらいだけをみても、軽く十数種の絶滅動物が再発見されている。

たとえば、かつてナミビアから南アフリカ共和国にかけて生息し、1910年に「最後の一頭」がロンドン動物園で死亡、絶滅種に指定されたバーチェルサバンナシマウマ。ほぼ100年後の2004年になってナミビア北部のエトーシャ塩湖周辺でびっくり再発見。めでたく現生種に返り咲いた。
やはりアフリカ北部に住んでおり、1922年に絶滅したとされたバーバリライオンも1996年に再発見。2007年の時点ですくなくとも1頭の生存が確認されている。
「アフリカばっかじゃん」と嘆くなかれ。日本産のものもある。
南大東島や北大東島に住み、1984年の目撃を最後に絶滅したと思われていたダイトウウグイスは、2000年代になって目撃情報が相次ぎ、調査に乗り出した国立科学博物館が鹿児島県喜界島での生息を確認。
また、秋田県田沢湖の固有種で同地での絶滅が確認されていたクニマスが、標本を見たさかなクンの指摘をきっかけに山梨県西湖に生存していることが判明した例も記憶に新しい(2010)。さかなクンまじすげえ。

ニホンカワウソの絶滅は積極的な証拠がないがゆえの、ごくごく消極的な指定である。
かつては身近なゆえに河童の原型と目されたり、タヌキやキツネ同様に日本人を化かすと思われてきたカワウソ。
日本にもまだ人跡まれな深山幽谷は残っている。そんな誰もしらない河原で、たのしげに獲物の魚を並べているのかもしれない。
「獺祭(だっさい)」という語のもとになったとされる習性である。

「カワウソ調査に20年以上取り組んできた高知大学名誉教授の町田吉彦氏は、昨秋、新情報を得たとしている。『同じ場所で複数の人が目撃しており、信頼性が高い。これまで自分たちが参加してきた県の調査は範囲も狭い』。
〝絶滅宣告〟を受けてなお、『今後、見つかる確率はゼロではない』とわずかな期待を持ち続ける。」(2012年8月29日 高知新聞)

 

–ヒビレポ 2012年10月6日号–

 

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