展示される生きものたち 第10回


深海を頂ける港町・沼津港深海水族館

 
日高トモキチ(生きものなんとか紀行連載中)
 
 
 
静岡県沼津は伊豆半島の付け根の西側に位置する港町である。地名は富士山の地下水によって沼地が多かったことに由来し、ゆえにちょいと地盤が緩いらしい。だもんで新幹線に避けられてしまったんだとか。従って東京からのアクセスは三島経由になる。
2011年12月、この沼津港に「深海」をテーマにしたアクアリウムがオープンした。その名もずばり沼津港深海水族館である。
 
 
四角い沼津港深海水族館
 
 

 

眼の前に広がる駿河湾は日本一の深さを誇る。まさしく獲れ獲れぴちぴちの深海魚を搬入できる、地の利を生かした展示施設だ。
むろん実際には、陸上に連れて来られた深海生物たちはあまりぴちぴちしていない。日常的に数千メートルの水塊を背負い、想像を絶する高水圧下で生きている彼らには環境が違いすぎる。
飼育する側も高圧水槽をはじめ考えられうる限りの準備をするが、相手は生きものだし参考にするべきノウハウもまだ蓄積されていない。長期間にわたってキープするのは至難の業なのだ。
そこで沼津の”地の利”が生きてくる。搬送時間は短いに越したことないしね。
 
 
施設の性質上館内は明るくはないが、昭和の薄暗さとはちょっと性質が違う
どちらかというとムーディ

 
 
とはいえ私が訪問した際はたいへん間が悪く、目玉のメンダコもラブカも数日前に落ちたばっかりだった。しくしく。日頃の行いの報いかもしれぬ。あたら生命を縮めて済まない深海生物の皆さん。
 
 
気落ちする私を慰めるダイオウグソクムシ先生やテヅルモヅル卿やら
 
 
ヌメヌメぐにゃぐにゃした励ましを受けてどうにか立ち直り、2階に上ると当館の目玉展示・シーラカンス大特集だ。沼津港深海水族館、世界で唯一シーラカンスの冷凍標本が見られるアクアリウムなのである。
正直微妙な売りだと思うが、ワシントン条約施行下では生体展示は不可能なので今はこれが精一杯だと思って頂きたい。
冷凍標本は1979年、日本シーラカンス学術調査隊がアフリカ・コモロ沖の西インド洋で捕獲した5体のうち2体である。残り3体は剥製が展示され、CTスキャンを用いた立体再現映像や内臓標本もあり、相当これでもかのシーラカンスづくしだ。
 
 
2階シーラカンスミュージアム&なぜか飼われているはりもぐら
 
 
しかし個人的に日高がもっとも腰を抜かしたのはここに紹介する展示である。
 
 
衝撃のシーラカンス魚拓
 
 
こうなると世界唯一の現生総鰭類も微グロな釣魚のたぐいにしか見えない。黒潮やさくら水産の壁に貼ってあってもさのみ違和感はないぞ。
鮮魚系居酒屋で思い出したが、この水族館はすぐ近くに「あらびき団」で紹介された沼津港みなと新鮮館がある。いや正確には紹介されたのはみなと新鮮館ではなくテーマソングなんですけども。

http://www.youtube.com/watch?v=LuS08I5G-bo

興味のある方はついでに聖地巡礼して頂くのも一興だと思う。なにがどう神聖なのかは知らないが。
そして並の鮮魚で満足できないあなたは、ぜひ水族館近隣の食事処で深海魚類に舌鼓を打って頂きたい。
 
 
深海魚握ります! そして回します!
 
 
私が暖簾をくぐったのはしかしスシではなくテンプーラであった。普通に腹が減っててうっかり油分に惹かれてしまったものとみえる。
 
 
沼津深海魚定食980円(1029円)也
 
 
揚がった順に片っ端から持ってきてくれるのは嬉しいが、全体的にどんなメニューなのかを押さえる一枚が撮れなかったのはちょっと失敗。

「深海魚」というグローバルな括りはその日の水揚げに左右される。このときはメヒカリ+メギス+ゲホウ(トウジン)の三種盛り合わせだった。
最後のやつはゲホウが地方名で、標準和名をトウジンという魚である。トウジンは唐人お吉の唐人である。画像検索をして頂くと分かるが、鼻のむやみと高い魚なのでこの名を頂戴したものらしい。眼もギョロギョロしていてなかなかの異相だ。
あとの2種は「ゲホウが一番深海魚っぽいですね」という店の人の言葉通り、深い海に住んでるだけで見た目はごく普通の魚類である。ことにメヒカリは各地で広く利用されている美味な食用魚だ。
基本的に、駿河湾で獲れるちょっと珍しい魚を新鮮なうちにおいしく頂こうという主旨なのである。ゲテモノを期待してはいけません。
深海魚定食と言われるとついフウセンウナギやサッコファリンクスやデメニギスの姿焼みたいなビジュアルを想像してワクワクするが、そんな楽しすぎるものは出て来ませんのでよろしく。
お腹がくちくなったら大型展望水門びゅうおに登ってみるも一興。
 
 
大型展望水門びゅうお
 
 
せっかくなので港町まるごと楽しんでおきたい沼津港深海水族館なのだった。ある意味、正しい観光です。
 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年12月7日号-

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