展示される生きものたち 第12回


いつか見たどうぶつえん・京都市動物園

 
日高トモキチ(生きものなんとか紀行連載中)
 
 
 
子どものころ、家にソノシートえほんがあった。
21世紀チルドレンはもとより、平成キッズですらもうご存知なかろう。大むかしにはそういう名前の薄べったいレコードが市販されておったのです。シングルのドーナツ盤でもLPでもない、向こうの透けて見えるぺらっぺらの塩化ビニール。音質は別として、安価でかさばらないため雑誌の付録などのかたちで広く流通しておりました。
とはいえ私の世代ではもうなかば使命を終えかけており、家にあったのは概ね八歳年上の兄のために購われたものだったと思う。
なかでも好んで聴いたのが「ウルトラセブン 恐怖の怪獣狩り」と「どうぶつえん」の2枚だった。
前者はエレキングとかピット星人が出てくる音だけドラマだが、テレビ版の音声を抜いたものではない。新録である。今でいうドラマCDのようなものを想像してもらえばよろしい。
なにしろ音しかないためにセリフがむやみと説明的で、通りすがりの群衆がいちいち親切に「うわーエレキングの首がふっとんだぞ!」などと実況して下さるシナリオになっていた。このフレーズは長いこと兄弟の間で流行し、日常のあらゆる場面で何かというとエレキングの首が吹っ飛んでいたが、そんな話は今回の原稿とは何の関係もない。
メインは後者、どうぶつえんである。
好んで聴いた割には細かいことは覚えていない。とにかく動物園に行くお話で、途中いろんな動物の鳴き声が挿入されて地味にモノラルな臨場感を盛り上げる構成だった。別段どぎもを抜くような珍獣が紹介されるでもなく、ライオンやゾウがガオーとかパオーンとか言ってるだけだが、昭和40年代の三歳児には十分なスペクタクルだった。
昨春京都市動物園を訪れたとき、実に40年ぶりくらいにこのソノシートを思い出した。
 
 

 
 
京都市動物園正面入口(2012年12月)
 
 
京都には1歳〜2歳くらいまで住んでいた過去があるのだが、さすがに乳児レベルでは当時の記憶などない。人生最初の動物園は、たぶんその後に小学2年生まで暮らした大阪の天王寺動物園だと思う。
おそらくは初めて訪れた筈の京都市動物園が、だけどなぜかとても懐かしかった。遠い昔から知っている場所のような気がした。
 
 
もうじゅうワールドの皆さん ツシマヤマネコのみやこさんがお気に入りです
 
 
じいちゃんの扱いはそれでいいのか あとゾウはそんなこと言わない
 
 
京都の施設を紹介するのは、第4回の京都水族館、第6回の京都府立植物園に続いてこれで三つ目だ。オリックス不動産が運営する私立の水族館、府立の植物園と来て動物園が市営。ぜんぶ経営母体が違うのがちょっと面白い。オープンは1903年で、上野に次いで日本で二番目に古い動物園だ。
特記事項としては、狭い。決して広くない上野で14.3haある敷地面積が、京都市動物園ではわずかに3.8ha。先に紹介した府立植物園の6分の1以下しかない。まあ植物園がどっちかって言うと広すぎるんだけど。
ただ、個人的な印象としてはさのみ手狭な印象はない。2009年から行われているリニューアルでだいぶ改善されているようで、限られたスペースをうまく活用していると思う。
多摩のようにまる一日かけても回りきれない広大な動物園も楽しいが、2〜3時間程度でさっくり堪能できるのもなかなか悪くない。定宿直近のバス停から一本で行けることがわかって以来、水曜の講義前にちょくちょく寄っている。
授業は午後1時からなので、9時の開園時に入って午前中いっぱい動物と過ごせる。なかなか幸せだ。
 
 
しまうまは油断しすぎだと思った
 
 
もっとも、時間に余裕があるならバスではなく地下鉄の蹴上駅を使うのがお勧め。ねじりまんぼから古刹南禅寺を経由して水路閣を鑑賞したり、インクラインや疎水記念館に立ち寄ったりとちょっぴりディープな京都観光が楽しめる。
 
 
ねじりまんぼ(煉瓦斜拱渠)、水路閣
 
 
あまり時間のない登校途中の私はさくっとバスで立ち寄る。そして園内中程のベンチに座り、樹上に憩うレッサーパンダの古都さんを眺めている。
遠足の子供たちの歓声や、時折聞こえる百獣の王の咆哮をBGMに緩やかな時間が過ぎてゆく。
 
 
レッサーパンダの女の子、古都さん              
あとおじいさんの茶々さんはだいたい地べたの屋根の下で寝ている

 
 
ああそうか、これは確かに子どものころに聴いたソノシートと同じ音像かもしれない。
 
 
昨年6月の雨の日、動物園で出会ったヤマトタマムシ
 
 
リニューアルは平成28年度の完成を目指しているらしく、行くたびにちょこちょこと設備が新しくなっている。しかし敷地が拡がるわけでもなし、特にとんがった施設に変貌しそうな気配はない。
京都市動物園はたぶん未来永劫京都市動物園だ。今日も遠足の子どもたちの歓声が響く。
ざわめきは目を閉じると何だか遠くに聞こえて、現実の喧噪なのかソノシートの記憶なのかわからなくなる。
あの園児たちも、おとなになったらまた来ればいいと思うよ。
 
 
家に帰るまでが遠足だからね
 

 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年12月21日号-

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