MAKE A NOISE! 第26回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

クール・ギーク

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 
そろそろ福袋が話題に上る頃ですね。
と書きつつカレンダーを見て気がついた、これが掲載される火曜は12月24日、ジャスト・ミートでクリスマス・イブ!
クリスマス映画について書いたりすれば良いのでしょうが、そんな気の利いたことはしません。

で、福袋で何が書きたかったかというと、いろいろ入ってるのはうれしいな、です。
残念ながらイギリスに福袋はありませんが、日常のお菓子でもバラエティ・パックに心惹かれます。
ほぼ常備してるのはポテトチップスのバラエティ・パック。メーカーによって3種類から6種類くらいの風味のが入ってます。好きなのはシンプル・イズ・ベストなソルト味。チーズ&オニオンもおいしいです。いつも、その2種から無くなって、プラウン・カクテルとかモルト・ビネガーとか酸っぱいのが残ります。
だったら、最初からソルトまたはチーズ&オニオンだけのを買えば良さそうなものですが、それは何だかつまらない。ちょくちょく買うバラエティ・パックのおかげで、当初はゲッ酸っぱいポテチ?!だったのが、それはそれでおいしいと思えるようになりました。
 

 

というわけで、映画の主人公にギークが混じってきたことも当然歓迎です。昔ならヘナチョコ野郎とか言われてたのがクール・ギークと呼ばれ、クールの幅が広がったのは良いことです。
代表選手はジェシー・アイゼンバーグあたりですかね。フェイスブックの創設者マーク・ザッカーバーグを演じた『ソーシャル・ネットワーク』で大ブレイクしました。
 
 
ジェシー・アイゼンバーグ 2009年エジンバラ国際映画祭(撮影:著者)
 
 
そのジェシーが、イギリス期待のギーク、リチャード・アヨエイドの監督映画『The Double』で主演してます。『ザ・ダブル/分身』として東京国際映画祭でも上映されました。
アヨエイド監督は英テレビ番組『ハイっ、こちらIT課!』でお茶の間の人気者になったコメディアン・俳優です。監督デビューの『サブマリン』がとっても良くって評判になりました。
 
 
Sight&Sound誌2010年11月号表紙を飾る監督デビュー時のリチャード・アヨエイド
 
 
『サブマリン』は思春期の男の子の恋がメイン・ストーリーで、切なく甘酸っぱくも大笑いなのがラブリー。
この映画でギークなのは、男の子よりお父さん。学者のお父さんは、妻と上手くいかず、欝気味。恋する息子へのアドバイスのずれ具合が、さすがです。
 
 

 
 
『ザ・ダブル/分身』は、ドストエフスキーの『分身』を基にした、テリー・ギリアム風味のシュールなコメディタッチの映画です。
片思いしてたり、分身が現れたり、いろいろ困ったことになる主人公がジェシー。この主人公も、ちょっとストーカー的なとこはありますが普通の青年です。
ジェシーの良さは、コンピューター使いの天才みたいなザッカーバーグでさえ、どこにでもいるような青年に見せる普通っぽさです。
『ザ・ダブル/分身』の主人公も身近に感じさせて、すんなりと主人公の基準でその立場から、起こることの奇妙さが見えます。
 
 

 
 
両作とも音楽も良いです。『サブマリン』は、アークティック・モンキーズの曲がぴったりで、甘酸っぱさを強調してくれました。
『ザ・ダブル/分身』では、なんと懐かしの日本のポップスやグループ・サウンズがシュールさに拍車をかけます。ジェシーのバックで、ブルー、ブルーー、ブルーーー!シャーートーーー♪とジャッキー吉川とブルー・コメッツが響き渡ったり、坂本九のほがらかな歌声が流れる不思議な世界。

『ザ・ダブル/分身』には『サブマリン』出演者もたくさん出ていて、見つけるとうれしかったりします。中でも、ジェシーが見つめるテレビ画面の中に、パディ・コンシダイン(第13回をご参照下さい)を見つけた時は大喜び。一見かっこよさげだけど良く見るとヘンテコなヒーローらしきものをやってます。
『サブマリン』では、主人公が母の浮気相手ではないかと心配する、うさんくさいスピリチュアル系のグルみたいなのでした。「世の中で一番大事なのは光だ。暗闇では生きられないだろう?」とか、聖書をぱくりつつも無内容な教えを意味ありげにかっこよく語ったりします。間違ったかっこよさを演じさせたらイギリス一かも。

ジェシーやアヨエイド監督は役柄からのギーク・イメージですが、シェーン・カルース監督は本物。なにせ、映画を作る前はコンピュータ・ソフトのエンジニアでした。
それは作品にも漂ってます。監督以外に、脚本、主演、プロデュース、音楽ほかいろいろやってるデビュー作『Primer』は偶然タイムマシンを作ってしまった人たちの話です。
といっても、違う時代に飛んでいく時間旅行みたいな夢のある話ではありません。出来たばかりのマシンでもあり、数時間程度を行き来するだけで、日常に根ざした話にしてるのがミソ。時間軸を越えてお互いを出し抜こうとするスリラーの要素もあります。
 
 

 
 
絶賛されたデビュー作から10年近くを経て遂に出た2作目が『Upstream Color』。こちらもやはり監督以外に、脚本、主演、以下同文。
 
 
Screen2013年ベルリン国際映画祭版7日目号表紙を飾る『Upstream Color』
 
 
ベルリンでは見逃したのですが、この写真だけでも期待大でした。バスタブで着衣のまま抱き合う男女、どうしてこんな状況になったか、すごく興味を引きます。ちょっと不安げな表情の女性を男性が包み込む形、ちょうど2人が納まるバスタブの大きさによるしっぽり感もたまりません。

その後、サンダンス・ロンドンで見たら、想像以上でした。SFなのに日常的、よくわからないまま進んでも難解には感じさせないという前作でしたが、それがますます研ぎ澄まされてます。
音と映像がストーリーを語るだけでなく、音そのものを聞かせ、映像そのものを見せます。何が起こっているのか説明なしに進む場面がたくさんあるのですが、独特の音使い、映像使いで見せきってしまいます。
 
 

 
 
上映後、質疑応答に現れたカルース監督は、1972年生まれだそうで40歳を越えてますが、青年のような佇まいの方でした。時間がなかったのか、髪の毛跳ねてるような状態でしたが、汚いオヤジとは見えず、むしろ自然体として好感が持てました。飾り気のない様子にシャツとニット姿が書生さんのよう。
気張らなくても、感じ良く見えるのはうらやましいです。贅肉がついてないあたりがポイントかなあ。ポテチの大袋かかえてるようじゃ駄目ですね。
才能、前歴、ルックス、申し分なし。私の2013年クール・ギーク大賞はカルース監督に決定です。
 
 
シェーン・カルース監督 2013年サンダンス・ロンドン(撮影:著者)
 
 
注目の監督なので、評もたくさん出てますが、サンダンス・ロンドン上映時の司会のおにいさんの言葉ほど、端的に表すものはありません。
サウス・カロライナ生まれ、テキサス育ちのカルース監督を、同じテキサスの方だというおにいさんは「おらが郷から、こったらだ人が!」という感じで素朴に驚いてました。
確かにテキサスっぽくないです。映画でしか知らないのですが、荒っぽい土地柄のイメージがあるテキサスとは対極みたいな作品、そしてご本人でした。

実は、イブ掲載に気づいたのが時既に遅し、もう今さら間に合わず、「そんな気の利いたことはしません」ではなく「できません」でした。内心、失敗した!と臍を噛みましたが、結果的に、関係ないこと書くのも、いろいろあるのが良しというテーマにそってましたね、と自画自賛。
思いつきのクール・ギーク大賞発表でうっかりスペシャル感でも出てたらめっけもん、クリスマスおかまいなしのクリスマス・イブの回でしたが、みなさま、メリー・クリスマス!
ロマンチックに!とか、アットホームに!とかに圧力を感じることなく、健やかにお過ごしください。

いよいよ今期の最後となる次回は、私の「おらが郷から、こったらだ人が!」な監督です。
さすがに、最終回が12月31日大晦日掲載なのは、今期連載開始時から、ばっちり気がついてました。かといって、とりたてて身の引き締まるようなことも、めでたいことも書かないと思いますが。
 

 
 
-ヒビレポ 2013年12月24日号-

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