展示される生きものたち 最終回


遠い海の記憶・アクアマリンふくしま

 
日高トモキチ(生きものなんとか紀行連載中)
 
 
 
石川セリ『遠い海の記憶』は、NHK少年ドラマシリーズ『つぶやき岩の秘密』の主題歌である。原作は新田次郎。

2008年の暮れ、福島県いわき市を訪れていた。
このとき私はいわき市石炭・化石館の企画展に鉱物写真を貸与しており、その現場を見に行ったのである。
今思うと年末によくそんな時間が取れたもんだと思うが、前年に掲載誌が会社ごと消滅したりしてこの頃はちょっと暇だったのだ。
 
 
コンパクトながら展示方法に工夫のある、素敵な企画展でした ちょっと自慢
 
 
暇ついでに同地に一泊した。飾らない宿でおいしい御飯を頂いた翌朝、足を運んだのがふくしま海洋科学館、通称アクアマリンふくしまだった。

 

 
 
 
アクアマリンふくしま(2008年12月)
 
 
東京国際フォーラムみたいのが海辺にあるなあ、というのが第一印象だった。開館は2000年、ギリで20世紀だが真新しくモダンな水族館である。

実を言うとこの当時、デートスポット化の進む近年の水族館というものに興味を失いつつあった。カップルでアクアリウムに行くのは結構なことだが、施設側がそこを狙いはじめると「なんか違くね?」感がはげしくなる。
哺乳類や鳥に比べて生きものとしての主張が強くない魚介類は、容易にインテリアとして処理されてしまう。
イルミネーション代わりにテトラを泳がせたら素敵よね、みたいな発想はトレンディドラマの舞台としてはアリだろうが、水族館と銘打たれた施設の中で見たいものではない。
生命の尊厳は生体の飼育展示に永久についてまわる問題だ。客寄せのために何のためらいもなくないがしろにされる生命を見せられるのは辛い。
子どもも来る場所なんですよ。
 
 
たっぷりとした採光で館内は明るい
 
 
そんな最近の水族館に対するネガティヴなイメージをきれいさっぱり払拭してくれたのが、アクアマリンふくしまだった。
 
 
広い水槽を泳ぎ回るオニカマス英名バラクーダ
ヨーロッパではサメよりも恐れられる猛魚

 
 
風格ある古代魚、ガーやポリプテルスやキャビアの親御さんたち あとホウボウ
 
 
広く明るい館内に見やすく配置された展示。十分な量が確保されて水質が安定しているのだろう、澄んだ水の中に生き生きと遊ぶ魚たち。
自在に形を変えるイワシの魚群は、陽光を浴びてきらきらと銀色の瞬きを放つ。
ホウボウは胸鰭を拡げて水底を歩き回り、エトピリカやウミガラスが岩場に休む。
館外に広がる太平洋の浜辺を囲ってつくられた人口の干潟は自然のタッチプールだ。浅瀬を覗き込むとヒトデやナマコが呑気に昼寝をしている。
 
 
館外と館内のタッチプール そして色とりどりのヒトデやアメフラシ
 
 
最新の技術と高い意識のもとに作られる現代の水族館は、こんなに楽しいのだ。
私は瞠目し、文字通り時が経つのを忘れた。
そしてほかの新しい水族館に対しても、先入観を持たずニュートラルに接することができるようになった。
ただ、私の中での水族館体験ナンバーワンはこのときのアクアマリンふくしまで変わることがなく、いつか再訪したいとずっと思っていた。

思い続けて3年の月日が流れ、2011年3月11日を迎えてしまった。
 
 

 
 
「揺れによる建物への損傷こそ殆ど無かったが、巨大な津波が施設の地上1階全体を浸水させこれにより9割の魚が死亡した」(Wikipedia)

直接的な被害のほか、停電による二次被害も出た。海獣類や鳥類、一部の魚類は各地の水族館に避難して事なきを得たが、残された生物たちは燃料や餌の調達に困難を極める中、次々に落ちていった。
3月25日のヨミウリオンラインは、飼育していた海洋生物20万匹の全滅を報じている。

この紹介記事はだから、すべて在りし日の記憶である。

懸命の復旧作業ののち、4ヶ月後の7月15日にアクアマリンふくしまは営業を再開した。
あれから東北には何度も足を運んでいるが、この美しい水族館との再会はまだ果たせずにいる。
出来ることならこのヒビレポ連載中に行きたかったけれど、師走の慌ただしさに紛れて断念せざるを得なかった。
来年は行く。そのときはどこかで報告します。

まずは「展示される生きもの」全13回お付き合いありがとうございました。ご縁があったら、またいつか。
 
 

 
 
それでは皆さん、よいお年を。
 
 
 
 
-ヒビレポ 2013年12月28日号-

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