今朝はボニー・バック 第27回

あの日晩飯に出た赤飯の味を僕達はまだ知らない。その1

ボニー・アイドル
(第11号で「原稿料よりバイト料が多くても、ぼくは断然ライターだ!」執筆)

 
 
 
ぼくにはほとんど嫌いな食べ物というものがない。子どもの頃ちょっと苦手だった干しブドウはレーズンパンのうまさに目覚めて克服した。また、中学生の頃だったか、晩飯に大量の牡蠣が出たことがあって(つーか、晩飯のおかずが生牡蠣だけってどういうセンスしてんだ、うちの母親は)、その時は生臭さに一度箸をつけたっきりだったが、酒を覚えてからはいつの間にか「牡蠣って言ったら生でしょ」と殻付きをつるっといけるようになった。
親に丈夫な体に生んでもらったおかげで、食べ物のアレルギーも出たことがない。ほとんどの食べ物をおいしくいただいている。

しかし、食べられないことはないけども、テンションが下がる食べ物というものはある。それは、炊き込みご飯だ。一般的な五目ご飯でも、高級食材を使っている松茸ご飯でも、駅弁で人気の「いかめし」や「峠の釜めし」でも同じ。ご飯に味がついていることでがっかりというか、白メシの時に比べてどうしても箸の勢いが落ちてしまう。せっかくのおかずが宙に浮いてしまうのだ。
これは、秋田という日本有数の米どころの米農家に生まれ育ったせいだろう。白人至上主義ならぬ白米至上主義。まずは、白メシありき。それからチーム編成を組んでいくという習慣が身についているのだ。
そんな、自分からは進んで食べてこなかった炊き込みご飯の中でも、これまで最も遠ざけてきたのが、赤飯である。
 

 

まず、食感がイマイチ好きになれなかった。もち米の粘りに小豆だか大豆のもそもそ感がミスマッチだ。味も、上にかかってるゴマ塩が香る程度で、あまりにもデリケートな風味。簡単に言うと、食べ応えがないのである。
さらに、赤飯の意味ありげというか、イベント的というか、神聖な佇まいも避ける要因だった。ぼくの田舎では、お盆になると赤飯を炊いて先祖の墓にお供えをする習慣があるのだが、どちらかというと赤飯は結婚式やお祭り、戦争で勝ったときなどのハレの日に出されることがほとんど。その儀式的な感じにひるんでしまうのである。そして、赤飯が供されるハレの日の代表ともいえるのが、家族の誰かが初潮を迎えた日——。

野球部の練習を終え、泥だらけのユニフォームを着て自転車で家路に向かうぼく。明日からはいよいよ県大会の予選が始まるとあって、練習時間は大幅に伸び、時刻はすでに19時過ぎ。体はヘトヘトだ。
(3年間の集大成だ。やることはやった。今晩は体を休めて明日に備えよう。晩ご飯は何かな)
空腹でぶっ倒れそうになりながらも、晩飯のことを考えると自ずと自転車をこぐ足にも力が入る。隣の家から漂ってきたカレーの臭いがたまらない。
家に到着するや、玄関前に自転車を乱暴に置いてダッシュで食卓のある居間へ。すでに会社から帰宅している父親と中1の姉キが会話もなく座っていた。普段は口数が多い姉キが今日に限って背中を丸めて小さくなっている。父親も腕を組んで、怒っているのか嬉しいのか微妙な顔つきだ。
そこへ母親が大きな木のおひつを両手に抱えて登場。
「みんなそろったわね。ご飯にしましょう」
母親がおひつのフタを開けるや目に飛び込んできたのは、びっしり詰め込まれた赤飯。
母親がみんなの茶碗に赤飯をよそいながら、「今日はお姉ちゃんが大人になったから赤飯よ」
その言葉に赤飯よりも顔を赤くして、うつむく姉キ。母親はあっけらかんとしているが、父親はなんだかテレくさそうだ。そんな様子の三人を無視して、キレるぼく。
「なんでトンカツじゃねえんだよ!!」

ぼくの兄弟は2コ上の兄キしかいないのでこんな経験をしたことはないが、今でも娘が初潮を迎えた日には食卓に赤飯が出るのだろうか。
Wikipediaには、「かつての日本では、女児の初潮を祝して赤飯を振る舞う家庭もあったが、現在はこの風習を行う家庭も少ない」とある。
おそらく、娘に「デリカシーがない」と思われるのを避ける親が増えてきたのだろう。たしかに、初潮を迎える頃と言えば、父親と風呂に入りたがらない時期でもある。これ以上、娘に嫌われるわけにはいかない。その気持ちもわからないではない。
しかし、文句はてめえのケータイ代ぐらい払えるようになってから言え! 初潮が来たら赤飯! ついでに家の前に日の丸を掲げるぐらいでなくては子どもになめられる。
それに、複雑な気持ちなのは初潮を迎えた本人だけではない。父親もまた、かつてはよちよち歩きで小さかった娘が女になったことで嬉しくもあり、辛いのだ。どうか、出社してきた同僚に「夕べ、晩飯に赤飯が出たよ」と打ち明けられたら、何も訊かずに肩を叩いて「今晩、飲みに行こうか!」と誘ってほしい。そう、赤飯とは家族の成長を演出する慶ばしくも切ない料理なのである。

ぼくにとって、かつてはがっかりメシの代表格だった赤飯だったが、最近の赤飯事情を知るにつれて応援しようという気持ちになってきた。
そのためにはまず自分が赤飯を好きにならなくてはならない。実際に作ってみることにした。スーパーで買ってきた「井村屋 お赤飯の素」158円を、白米三合と一緒に炊飯器に入れるだけ。1時間後、鮮やかなピンク色をした赤飯が炊きあがった。小豆の香りが鼻に飛び込んでくる。茶碗に盛り、上からゴマ塩をかけて、どれ一口。
感想は「思ったより悪くない」といったところ。ただ、やはりゴマ塩がないと味気ない。一口食べることにゴマ塩を振りかける。
次回は、友人や飲み屋で同席した女性にかたっぱしから訊いた「初潮のとき、赤飯食べましたか」というアンケート結果を紹介したい。
 
 

 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2014年1月1日号-

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