ちょっとプアンなタイ散歩 〜新婚旅行編〜 第1回


Avoid to ドリアン離婚

吉野 歩
(第13号で「選挙事務所に混じる」執筆)
 
 
 

 
 もうかれこれ4年近く一緒に住んでいたので、今さら新婚旅行というのも気恥ずかしかったのだが、せっかくならバンコクにしようと決めていた。大学時代から足しげく通っていたというのに、フリーになった財政難のためここ2、3年行けていないからだ。それに、人生の伴侶となる相方には、自分の血肉となっている土地を見て感じてほしかった。

 バンコクは、第二の故郷だ。失恋して逃げ込んだり、それなのに今度は逃げ込んだ先で異国人に恋をして友だちに元気付けられたり、ジャズバーで飲んだくれた挙句ステージに上がりこみ「Fry me to the moon」歌ったり、パクチーの食べすぎで腹を下し、翌朝のバスルームで泣きながら己のパンツを洗った等々の美しい思い出がつまっている。そして、こんな私のすべてを知っている現地の親友・ヌイには、「万が一、自分が結婚するという異常事態が起きれば、その伴侶を必ず見せに行く」と約束していたのだった。

 だから、何としてでも、ご祝儀の力を借りて高飛びさせていただきたい!
 

 

 ここまで書いてちょっと震えてます。だいぶ己の欲望のみに基づいた行き先のセレクトですね、婚姻届が泣いてるよ。しかし、もうなりふり構わない。結婚式の計画が持ち上がった直後から、私の相方に対する猛烈なセールストークが始まったのだった。彼の前職は広告屋だ。億単位のノルマを背負い、海千山千の猛者と対峙している。だから生半可な気持ちでは挑めないのだ。ちょっと前に営業マンの実用書で「win – winの発想を忘れないようにしましょう」というくだりを見かけたので、そういったことを意識しながらPR活動にいそしんだ。
「タイはいいよぉ、本場のムエタイ教われるからね」
「タイはいいよぉ、路上でオカマが見放題」
「タイはいいよぉ、とにかく暑い」
 いいんだか悪いんだかよく分からないことまで持ち出して語りかけること数週間後、めでたく相方の洗脳に成功。競合だった南国グアム、バリを押しのけての圧勝だ。毎晩背中を丸めてガイドブックを見つめる相方。「どうせなら、タイ最大級のお祭り『ロイクラトン・フェスティバル』も見たいよね♪」などと、それのためだけに結婚式を平日に設定しゲストの皆様に有給休暇を取らせるなど、エゴイズムの波は相方にも伝染していった。

 2013年11月15日、相方の故郷である長崎で結婚式。翌朝には福岡空港を出発してタイに向かい、22日に成田空港着という約1週間の旅である。

 思えば、あの地に誰かを連れて行くというのは、大学の友人以来10年ぶりだ。それはそれで緊張する。いったい何のプレッシャーだろう。考えてみたら「タイについて相方がどういう評価を下すのか」ということを気にしているのだった。
 自分が好きなものを人に公開するドキドキ。熱意とか想い入れを数量化するのもどうかと思うが、それでも13年間入れ込んだ国であり人々である。さっきも言ったとおり、もはや己の一部なのだ。
 実は以前、我々が弟のようにかわいがっている韓国人キムくんの実家を訪ねてソウルに出向いた際、ガイドの女ががめついのと客引きがしつこいのとで、韓国を「二度と行かない国」として認定した過去がある。それと同じような審判が、愛すべき伴侶により愛すべきタイ王国に下されてしまったら、いたたまれない。いたたまれなさすぎて、ドリアンを両脇に抱えたままチャオプラヤ川に身投げするかもしれない。成田離婚ならぬドリアン離婚だ。いくらなんでも、それはあんまりでしょう。
 今回の旅コーディネーター兼通訳を買って出た私は、にわか親善大使なのである。タイ、気に入ってくれるといいなぁ。

 いずれにせよ、いつもと一味違った旅になることは確かだ。私はすでにボロボロになっている『地球の歩き方』(2002〜2003年版)を久しぶりにトランクに詰め込んだ。

(続く)
 
 
 

※写真は、2013年11月17日に開催された「ロイクラトン祭り」、バンコク三大寺院のひとつであるワットアルンでの風景。今までの“タイ散歩”については、こちらをご覧下さい。より一層今後の記事が楽しめると思います

 
 
 
-ヒビレポ 2014年1月2日号-

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