どす黒い私 2 鋼鉄のパン屋さん、いざ出陣!編  第1回


 
和田靜香
(第13号で「ホドがある! 新聞一面トップ どうして私が?!」を執筆)

 
 
 
 ↑というタイトルを付け、意気揚々と「どす黒い私2」を始めようとしてたんだが、ここに来て事態が急変している。黒雲が立ち込め、雷がガラガラガラ〜と鳴り響き、出陣した途端に大コケ。バッタ〜ンと倒れてタイトルに偽りあり。急遽変更を余儀なくされる、というところだ。しかしそれをなんとか強行突破してみたい。

 私は2013年6月末から、近所に新しくオープンした個人経営の小さなパン屋さんでアルバイトを始めた。本にまで書いたコンビニでのバイトを辞めたのが2011年10月末なので、1年8ヶ月ぶりのバイトだ。もちろんいつも通りにお金がないし、仕事が不安定だし、それゆえに不安だし、主治医はまた「バイトしなよ〜」と笑顔で言うし(注・前のときもそう言った)、それで始めたのだが、ここにきて「辞めちまおうっかなぁ」度がモリモリ増してきてしまい、たぶん、辞めちまう。

 すまんすまん。タイトルに偽りありで。いざ出陣した途端、コケった。ワッハハハ。……しかしこの半年、なるほどお店の個人経営というのは何ら指針がなく。前にやっていたコンビニなどと違って経営マニュアルもなければ、本社からSV(スーパーバイザー)が来てあれこれ小うるさいことを言うということもなく、なんて大変なんだろう、としみじみ思った。だから世の中には本屋さんの壁一面にズラリ並ぶほどに経営のハウツー本が出ていたり、経営コンサルタントなる職業も成り立つんだなぁと実感。それは永遠に売れ続ける枯れない泉であるわけだ。
 

 

 パン屋の店長は私より3つ4つ年下、40代半ばの生粋のパン屋さん。ずっと他の人が経営するパン屋さんやらチェーン店のパン屋さんで働いてきて、満を持してお店をオープンした。40代半ばにして初めて店を持つ、というのはもしかしてけっこう遅い方なんじゃないかな?と思う。私も最初「新しいパン屋がオープンします」と、工事中の店の入り口に貼られたポスターを見たとき、30代ぐらいの夫婦ものが店を開く、というのを想像した。パン屋は意外と若い人が始めるイメージがある。

 そしてこの店長、大のヘヴィ・メタル好きだ。日本のヘヴィ・メタル人気は40代以降の男性が主に支えている、「BURRN!」万歳! 伊藤政則先生が神!……な世界であることは音楽業界に長い私は重々知ってはいたが、なるほどこういう人がそうなのか、ほぉ〜、と思った。「どす黒1」でも書いたが、店長とのバイト面接で私が最初に「実は本業は音楽ライターでして」と言った途端に「僕はラッシュが好きです」と言い出し、ラッシュなる、カナダの大御所メタル・バンドのことを一瞬で理解して「ああ、私の知り合いが好きで、よく見に行ってたな」と言った私は、おそらくそれだけで採用になった。

 そんな店長だから、6月末、お店がオープンする1週間前から始まった研修の段階でお店に流れていたBGMはぜんぶメタルだった。
 たとえば、こんなのとか(モトリー・クルー)

 こんなのとか(ラッシュ)

http://www.youtube.com/watch?v=Zmrz0_oqe4A

 こんなのとか(LAガンズ)

 こんなのも(レインボー)

 はぁ……。
 日ごろ音楽をあれこれ分析する(?)仕事をしている私。しかしメタルは滅多に聴かなくて、あ、いや、でも、3・11の震災直後にはラジオから「いい音楽」ばかり流れてきたりすると、それにすっかり飽きてこんなの聴いていたりもしたのだが。

 ええ。ロブ・ハルフォード、ジューダス・プリーストですね。鉄壁なメタルですね。
 しかし、パン屋でいかんせん、これはないだろう?と思って、店長に「パン屋なんだから、ノラ・ジョーンズとか、J−WAVE流すとか、なんかこう、もうちょっと雰囲気考えたらどうですかね?」と言うと、ブチ切れて人差し指と小指を立てたメタラーの証、メイロックサインを私に突き立てて「じゃかあしいいいいいいいい!」と叫んだ……というのは大げさだが、そんくらいの勢いで「うるさいっ! オレの店だ、オレの好きな音楽をかけるっ! これが夢だったんだ」と言うと、さらに音量を上げ、うねるように響き渡るギター・リフ、高音のボーカル……にはまったくノルことはできず、爆音の中でひたすら黙々とパンを捏ねる店長なのだった。

 そこまで言うなら、いっそ店もブラックで統一。店員の制服も黒レザーに鋲打ち。「アイライナーは黒で幅5ミリ以上でおねがいします」「金髪長髪で」「タトゥー必須」というぐらい徹底してくれれば話題になってテレビとかにも出ちゃったりするかもしれないのに、オープン前、私たちのレジ研修中に「こんにちは〜、絵、描きますぅ」と入って来た小太りの男性、自称イラストレーター氏が店の壁に描き始めたのは、「い、い、い、田舎の幼稚園すか? ここ?」というような、腰抜かすほどなセンスの、みんなにっこりにっこり笑顔な、メタルとは180度きっかり、1ミリも狂いがないほど正反対の、動物ほのぼのイラストだった……。

 な、な、なんじゃこりゃ?

 さらに渡された制服。コ、コ、コスプレか、これは? という、これまた恥ずかしくなるような女の子してる、明るいグリーンのシャツやらベレー帽やら。和田、48歳にしてコレ着ないとならんとですか? しかも渡されたシャツは言ったのよりサイズが1つ下で、パツンパツンだし。緑色の、糸巻き焼きブタみたいになってる……。

 どうやらそれらは店長妻の趣味らしい。店のレイアウトも「壁に丸いスペースを設けて、そこにみんなの宝物を飾るのぉ」と徹底的に少女趣味っぽいことをのたまう奥様。はぁ……。それも夢ですかねぇ?

 趣味が180度違う夫婦のパン屋。鋼鉄(メタル)のパン屋。最初からすべてがチグハグで、前途多難は予想されていたわけだ。

 
 
 
 

-ヒビレポ 2014年1月4日号-

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