どす黒い私 2 鋼鉄のパン屋さん、いざ出陣!編  第2回


 
和田靜香
(第13号で「ホドがある! 新聞一面トップ どうして私が?!」を執筆)

 
 
 
 第1回目で予告した通り、パン屋さんのバイトを辞めることを店長に宣言した。バイト始めて6ヶ月。アッという間だったなぁ。前のコンビニは2年働いたけど、その1/4。う〜ん。続かなかった。意志の弱い自分? でも、これは案外続かないんじゃないかな?というのは、実は初日から思っていたんだ。だから、そのとおりになったというか……。

 鋼鉄のパン屋さんは半年前、7月頭にスタートした。
 
 オープン初日と次の日は、店の全商品20%オフ・セールで、パンは売れに売れた。開店と同時にお客さんがドッと来て、(このむしむし暑い中、菓子パン、そんなに食べるんですか?)と、ビックリするくらいパンをトレイに山積みして買っていく。こうした光景は、その後、何度か行われる100円均一セールやお得クーポン発券時にも見られることになるのだけど、とにかくちょっとでも安いとなると、我先に、他の人を肘で押しのけ、パンへ一目散! トングでわし掴みして、わし掴みしながらも、目は次のパン物色にきょろきょろする。そんなにたくさん買って太るよ! 主食に菓子パンなの? 1日3食菓子パンなの? というほど目の色変えて山ほど買って行くお客さんたちに、ほんの10円や20円、30円でも安くなるってことは、今、こんなにも大切なことなのか、と心底驚かされたものだ。
 

 

 しかし。そんな大切なオープン安売り2デイズの初日。そう、オープン当日の朝8時、「おはようございま〜す」と店に行くと、そこには店長と、もう1人のアルバイトの女性しかいなかった。えっ? 住宅街の先っちょにある小さな商店街の、店内10坪もあるかないかの狭い店、そこへ6人もの大量アルバイトを実は雇っていたのに、なぜにその大切な朝に、私と彼女だけしかおらんのか? 一体どうして? 不思議でたまらなかった。店長は前の晩から寝ないで山ほどのパンを仕込んでいたくらい意気込んでいるのに、売り子が2人って? てか、バイトにパンこねやらパン揚げ製造補助ぐらいやらせたっていいのに…少しぐらいなら出来るだろうに。それが出来なくても店前で明るく掛け声かけるとか、やることは山ほどあるはずだ。オープン当日、バイト6人全員招集し、全勢力あげて開店に備えるのが普通じゃないの? 何故? 何故? 店長、あんたの采配、一体どないなってる? 朝1で、目がテンになってしまった。

 しかし、とにかく何故? 何故? 言ってる前にとっとと開店準備をしなくてはならない。焼きあがったパンを私ともう1人の女性で次々に棚に並べた。何もかも初めてで、戸惑うことばかり。棚にパンを並べるだけでもけっこうな時間がかかり、これ、重ねていいのかな? これ、縦に置いたらいいのかな? などと迷いながらやっていると、もう1人のバイト女性は「このパンはここ」と、開店前に行われた研修時に練習したときの並び通り、まったく同じように置かないと堪らない性格のようで、私が並べたパンを、「あああああ、違いますっ」と叫んでは、またいちいち直してくる。すごい二度手間。そしてそれを店の奥で1人焦ってパンを焼く店長に、何度も「これはこうですよねっ」と確認し、その度に店長はイラッとした声で「どうでもいいから、そこに置いて好きなように並べてっ」と叫んでいた。
 
 ああ。初日から、大混乱っ!
 
 そしてそんな後ろに流れるのは、当然ながら金きり声のヘヴィ・メタル。いやもう、どうしてメタル・バンドって金切り声なんでしょうね? あの独特の高音ボーカル。そりゃデス・メタルという、地獄の底からの声のような低音系もあるけど、あれはまたあれで低音すぎる。しかし、たいていのメタル・バンドのヴォーカリストはオペラ歌手もビックリの高音で叫び、しかもすごい伸びを発揮する。その声が開店直前大忙しイライラムードをさらに助長し、朝から耳がツンツンするようだった。店舗オープン朝にメタル流すの禁止令、というのを東京都は条例として出してほしいわ。
 
 そして11時オープン。
 あ、いや。その前に、お店にとって大切な大切な、商品の値段を書いたプライス・カードがどこにも、1枚もなかった。
「店長、プライス・カードはどこにありますか?」
慌てて聞くと、
「ああ、それは後で妻が持って来る」
 って。ええええええ? 何のんきなことを言っているの? プライス・カードって、何より大切なもので、ええっと、この店、オープンまで工事期間とか何ヶ月もありましたよね。ずっとあれこれ準備してて。どうでもいい制服とかは用意したのに、どうして、どうして、プライス・カード作っておかなかったの? えっ? 何故っ?
 
 と、またまた頭の中が何故の嵐になっていると、開店15分前になって、やっと、妻がやって来て「プライス・カードできましたあああああ」と、すごい偉業を成し遂げたようにカードの束を掲げて入って来た。
 
 いや、あんたさ、それ、遅いよ…。遅すぎるって。
 
 そして開店の11時。ゴ〜ンとゴングが鳴ると同時に、という勢いでお客さんがなだれこんできて、そこからはもう、一瞬の間もなくレジを打ちまくり、袋に詰めまくり、パンを並べまくって、汗だくになった。初日ゆえに慣れてないことはなはだしく。途中から加わったもう1人のバイト女性さんと3人で、パニックしながら働いた。

 パンはメロンパンやらクリームパン、アンパンといったオーソドックスなものが中心。フランスパンやドイツパン系の硬いパンも少しあるけど、全体的に甘くて、普通で、これといった特色のない、ごくごくありきたりのパンばかり。でも、どれも安い。一個130円とか、150円とか。コンビニやスーパーで売っているパンとさほど値段は変わらない。この店の最大の特色は「ごくごく普通。安い」であり、最近よくある「こだわりのパン屋さん」とは180度真逆を行く。こだわってんのは妙ちきりんな制服やら壁の絵、そしてヘヴィ・メタルというBGMだけで、肝心のパンは「あたりまえ〜、あたりまえ〜」を突き進んでいる。

 もちろん、あたりまえは悪くはない。妙にこだわってんだが、高いばかりで大しておいしくもなく、たかだかパン1個に300円も払えるか、って店よりはずっと私個人的にはナイスだと思う。だから、パンそのものはOKだと思った。思ったが、あくまでもそのときそれは、想像上のOKだった。何しろ、これからオープンの店だというのに、店長が「味を知ってください」と、研修時に私たちバイト6人に試食しとて分け与えてくれたのは、たった1個のチーズパンだけだった。それ以外、店の「これが売りです」とかいう商品も、メロンパンもアンパンも、何もかも謎なまま。味なんてまったく知らないで売るハメになっていたのだ。

 こうして鋼鉄のパン屋さんは動きだした。

 
 
 
 

-ヒビレポ 2014年1月11日号-

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