土偶をつくる  第2回

土偶師匠に会う

 

めるし
(第9、10号で「北千住大喜利ハウス」執筆)
 
 
 
 海から吹かれてくる潮風の中、私は博物館までやって来た。
 土偶を作ろうと思い立ってはみたが、私は焼き物に関しても縄文時代に関しても特に知識があるわけではない。『はじめてでも簡単! 図解 土偶の作り方』なんてムック本でもあれば楽なのだが、amazonで検索してみてもそのようなものは無い。土偶についての主要な文献をあたってみたが、主に造形の変遷や制作目的についての考察ばかりで、どのように作られたかの研究は全く見つからなかった。
 とりあえず、地元の博物館で学芸員さんに相談してみようと考えた。
 私は現在北海道の港町に住んでおり、博物館が建っている辺りは、風向きによって潮の香りがする。しかし土偶作りの海に漕ぎ出そうとするも舟が見当たらない状況の私は、潮の匂いの中で、ぶくぶく海に沈んでいくような心持ちになるばかりだった。
 博物館にて「はぁ、土偶を作ってみようかと…」と気恥ずかしさを感じながらもいろいろと訊いたりしていると、学芸員さんから気になることを聞いた。この街で土偶を作っている人がいるという。
 へえ、こんな街で土偶を作っているなんて、奇特な人もいるもんですね。早速、会いに行くことにした。
 

 

 土偶を作っているというその人は、この街に昔からある商店街の中で、家具屋を営んでいるという。街が拓けたばかりの頃、この街のショッピングの中心地はその商店街だった。しかし私が子どもの頃にはもう、駅前のデパートへ中心地は移っており、さらに数年前にイオンが郊外に出来てからは、人々の足はみなそちらへ流れてしまった。
 商店街に来てみたが、物寂びしい雰囲気に、私はお尻をもぞもぞさせた。というのも、母が「安売りしてた」と言って買ってきた、イオンの2枚組300円のパンツを、私はこの日履いていたからだ。
 人っ子一人いないじゃないか、と思った矢先、視線を感じた。
 いた。土偶が。
 

 
 ショーウィンドウの奥で家具とともに並んでいる土偶と、目が合った。
 店に入ってみると、家具の間から、白髪混じりの痩せ型の男性が姿をのぞかせた。土偶で喩えるなら福島県出土「しゃがむ土偶」のような柔和な面立ち。この人が、この街で土偶を作っている人・三上社長だった。
 

 
 三上社長は五年くらい前から土偶を作っているそうで、ショーウィンドウに並べられているのはもちろん、これまでに社長が作った作品とのこと。

 いきなりやって来て「あの、土偶を作ろうと思っていまして」と突拍子もないことを言う私に、社長は親切にも五年間の試行錯誤のうえで得られた土偶作りの知識とコツを、教えてくださった。
 土偶を焼く際の火加減が一番難しいとのことで、最初は陶芸の窯を使って焼成することを勧められたが、私が「なるべく縄文時代に近いやり方でやってみようと思ってるんです。失敗するのも面白いと思うので。」と言うと、そういうことは土偶を作ろうとする人間が共通して持つ思いなのか、社長は「そうなんですよね、窯をつかって焼くときれいに焼けるんだけど、やはり薪で焼いた方が焼き色の違いが出て面白いんです。」と肯いた。すこし、何か通じ合うものがあった気がした。
 社長は、土偶作りの参考になる縄文土器の作り方の本も教えてくださり、購入している粘土を分けてもいいと言ってくださった。三上社長によって、土偶作りの海に漕ぎ出せる舟が与えられた! 私は社長を「土偶師匠」として、心の中で勝手に師事することにした。
 
 三上社長は元来、縄文時代に限らず、古い時代のことに関心を持っているのだという。「日本にいる人々がどこからやって来たのか、北の、ロシアの方からやって来たのか、それとも南の方からやって来たのか、そういうことに関心があってね」。それで博物館に出入りをしているうちに、土偶を作ったりするようになったそうだ。
 土偶のみならず、社長は縄文土器も作っている。さらには縄文時代の製法で塩をつくったりまでしていた。先日、そういうイベントを博物館で開いたという。子ども達と一緒に縄文土器を制作し、後日、その土器を使って海から海水をすくって来て、博物館の駐車場でバーベキューコンロを使って煮沸したのだそうだ。
 イベント前に自宅で行ったという実験の写真を見せてもらった。
 

 
 土器に白くこびりついているのが塩とのこと。
 

 
 「ただ塩をつくっただけじゃ面白くないんで、それをゆでたまごにつけて食べてね。」
 さっきまで心中海に沈んでいた私は、自ずと口の中に塩の味がイメージされたが、きっとそんなしょっぺえ味じゃなくって、社長と子どもたちの塩は野性味あふれる味だったに違いない。(縄文時代に鶏卵はあったの?という疑問を抱いてはいけない。)
 
 遥か昔に人々がマンモスを追って日本列島に流れてきたように、現在この街で2枚組300円のパンツを求めて人々がイオンに流れていっている。人々が流れていった後の地で三上社長はお店を続けながら土偶を作っている。
 社長に礼を言って店を出た後、商店街の中にある洋品店で、パンツを手にとってみた。
 
 
 次回は、粘土を採りに崖に行きますぐう。
 
 
 
 
-ヒビレポ 2014年1月14日号-

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